Introduction
とある小児科外来。赤ちゃんを連れたお母さんが皮疹の相談目的で受診してきました。
症例:2か月、男児
主訴:顔面の腫瘤
両親「産まれた時はなかったと思うんですが、顔にできものがあると気づきました。だんだん大きくなってきて、色も赤みが出てきたのですが、これは大丈夫でしょうか?」
今回は、小児科外来ではよくみる疾患ではありますが、見た目の異常があるだけに、ご両親も心配になる疾患、乳児血管腫についてまとめます。
総論
・まず、乳児血管腫(infantile hemangioma:IH)についてですが、こちらは別名「いちご状血管腫」とも言われます。

・腫瘤は赤みがとても強く、確かにイチゴに見えるかもしれません。外観は画像のように皮下に発生した場合は「strawberry appearance」、深部発生では蒼白に見える「blue appearance」を呈します。
経過
初期(増殖期)
・約60%は生下時には認めない。出生時は存在しないか、もしくは小さい毛細血管拡張や集簇性紅色丘疹である前駆病変として出現し、生後2週間程度で病変が顕在化、急激に増大・隆起してきます。
・生後4か月ごろ(特に生後5~8週)までに80%程度に急速増大し、増大は5~12ヶ月ごろまで続きます。ピークを過ぎると湯くりと消退し始めます。
中期(退縮期)
・1歳からまれに2歳頃まで増大する時期(増殖期)を経て、4歳までに80%程度まで退縮(消退期)すると言われています。
・1歳前後のピークを過ぎると徐々に大きさが縮小し、鮮紅色だった色調もくすんできて、正常皮膚色に近づいてきます。
・退縮期の終了時期は血管腫の大きさや型によって異なり、 3〜7歳までさまざまである。
終期(消失期)
・局面型では何もしなくてもほとんど跡を残さず 6~7歳までには自然消退します。
・腫瘤型や皮下型でも 1〜2cm以下の小さなものでは、最終的にはほぼほぼ消失することが多い。
・龍騎1が強い腫瘤型では、ハンコン、ちりめん状の皺、皮膚のたるみ、樹脂状の血管拡張などが残り、整容的な問題に
疫学・好発部位
・男女比は1:3.9で女児に多い(男児の2~3倍)
・早期産児、低出生体重児に多い。
・本邦での報告は0.8-1.7%とされていますが、欧米では4-10%の発生率との報告もあり、頻度が高いです。
・好発部位は頭頸部(60%)、体幹部(25%)、四肢(15%)の順に多い。
病型
・病型は、表在型、腫瘤型、深在型と混合型があります。また、20%程度の症例では多発型との報告もあります。
・60% が頭頸部に発生するとされるが、全身のどこの皮膚、皮下でも発生する。
合併症
・発症部位によっては、眼裂、鼻腔、口腔、外耳道、気道、尿道、消化管などを圧迫し、視力、呼吸、聴力、排尿、排便などに機能障害をきたすことがある。・
さらに、大きな病変では高拍出性心不全による補入困難や体重増加不良をきたしたり、潰瘍を形成して出血したり、細菌感染をきたして敗血症の原因となる場合もある。
鑑別疾患
・静脈奇形(海面状血管腫)
・先天性血管腫(rapidly involuting congenital hemangioma: RICH、non-involuting congenital hemangioma; NICH)
・扇状血管腫(tufted angioma)
・カポジ様血管内皮細胞腫(KHE)
画像所見
超音波
・境界明瞭で内部は「低輝度と高輝度が混在」した充実性腫瘍。
・カラードプラでは、流速の速い流入動脈が確認される。
MRI
・増殖期では境界明瞭、分葉型を呈し、T1強調像で筋肉と等〜低信号、T2強調像で高信号を呈する。
・腫瘍内や辺縁にflow voidによる無信号域を認めるが、動静脈奇形で認めるようなシャントはない。
・dynamic studyでは早期より均一に強く造影される。
・腫瘍は浸潤所見に乏しく、周囲の浮腫は認めない。
・退縮期では繊維脂肪組織に置換されるため、T1強調像で高信号域が出現し、造影効果は低下する。
治療法
・IHの多くが自然消退するため、以前は「WAIT AND SEE POLICY」として無治療で良いとされてきた。しかし、2019年に報告されたAmerican Academy of Pediatrics(AAP)の診療ガイドラインによると、高リスクと判断された患者は生後5週までに専門医による診察を受け、早期介入もしくはフォローを受けることを推奨されている。
<治療の絶対適応>
・alarming hemangiomaや、life-threatening hemangiomaと呼ばれる機能障害や合併症、生命危機の恐れのある症例や、未治療の場合整容面で醜状を残す恐れのある症例は積極的な治療適応。
①声門下、気道病変による気道閉塞をきたす可能性あり
②内臓に多発
③眼瞼・眼窩内に生じている
④顔面で広範に分布
⑤増殖が急激な例
⑥潰瘍を形成している例
・マルホの「乳児血管腫患者紹介ガイド」に従って入力していけば、比較的簡便に、紹介の必要な高リスク患者を絞り込むことができる。


①プロプラノロール(ヘマンジオールシロップ®︎小児用0.375%):非選択的β受容体遮断薬
・機能障害の危険性(眼や口の近く)、整容面で問題になる場合は第一選択。
・副作用として、下痢、血圧低下、徐脈、睡眠障害、低血糖、高K血症、呼吸器症状などに注意が必要である。
・特に、低血糖は意識障害やけいれんなどの重篤な合併症を起こすことがあり、要注意。発症要因は長期の絶食や経口摂取不良、感染症などの合併であり、必ず授乳・栄養後に内服することや、何らかの原因で哺乳できない、もしくは嘔吐している患者では使用しないことが重要。特にウイルス性胃腸炎に罹患すると、下痢や嘔吐で脱水症となる危険性があり、胃腸炎回復期まで休薬する。
・低出生体重児、新生児、出生後5週未満の乳児に対する安全性は確立していないため、修正週数5週まで待ってから投与を開始する。
・心電図や心臓超音波検査は必ずしも前例には必要ではないが、先天性心疾患または、不整脈の家族歴や既往などがある場合は、可能な範囲で実施する。
投与法
開始量:0.5-1.0 mg/kg/日
→2日以上かけて最大 3mg/kg/日まで増量する。
・初回投与時及び増量時は、心拍数、血圧、呼吸状態、血糖値を少なくとも投与2時間後まで1時間毎に確認すること。原則入院での導入が望ましいが、リスクのない症例では外来で行うことも可能。
治療期間
・通常は増殖期から退縮期に移行する1歳前後に中止することが多い。
・治療開始が遅く、1歳時でまだ十分な効果が得られていない場合はさらに投与を継続することもあるが、体重あたりの薬物クリアランスが成長とともに低下するため、1歳以降に体重換算でプロプラノロールを増量すると、過量投与となる可能性があるので注意。
・中止後のリバウンドを20%ほどに認める。特に9か月前の早期の中止や深部病変では起こりやすかったとの報告もある。そのため、中止後も適宜フォローが必要である。
②レーザー治療
・レーザーの深達度には限界があり、deep typeに対しては効果が乏しい。
→そのため、良い適応は皮膚表面に限局した平坦なIH・
・反対に、隆起の強い病変や高リスクで早期治療が望ましい症例に対しては、経口プロプラノロールの投与が必要となる。
・退縮期以降も毛細血管拡張が残った症例ではメリットがある。なお、レーザーを開始後も急速拡大してくる症例には、プロプラノロール内服併用も有用である。
③副腎皮質ステロイド
・プロプラノロールが効果不十分、あるいは重篤な合併症を伴う病変に対しては、併用療法が選択肢となる。
・内服、静注、外用などの形で使用される。内服療法として通常初期量は2-3mg/kg/dayが用いられる。
・副作用は満月様顔貌、不眠などの精神症状、骨成長の遅延、感染症など。
最後に…
・整容面や、眼・口の知覚では機能面で影響の残る可能性もある疾患ですが、すべてに対して過剰に診察するのではなく、適切に治療方針を決めていきたいですね。
・どんな治療方針をとっても、「必ず100%うまくいく治療法があります!」と言い切れないのが実際の医療の現実。
・ご両親としっかりとお話をして、一緒に良い治療方針を決めるのがよいと思っています。
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