- 総論
- 分類
- 診断・疑う条件
- 治療方針
- 参考文献
総論
・原発性免疫不全症(primary immunodeficiency Disorders: PID)は、免疫系の機能不全により感染症に対する感受性が増す疾患群である。
疾患の多様性
・PIDには400以上の異なる疾患が含まれ、それぞれが異なる遺伝的背景と臨床症状を持っている。
・これらは主に、適応免疫系(T細胞、B細胞)や自然免疫系(食細胞、補体)の異常に起因する。
・免疫を担当する細胞は大きくわけて3つに分類されます。その3つとは、「貪食細胞」「Bリンパ球」「Tリンパ球」です。
免疫細胞の役割
貪食細胞・B細胞(液性免疫):一般化膿菌(ブドウ球菌などのGram陽性菌)への防御
T細胞(細胞性免疫):細胞内寄生菌(結核菌、サルモネラ菌、リステリア菌)、日和見感染(真菌、ウイルス、Pneumocystis jiroveci)への防御
遺伝的要因
・多くのPIDは単一遺伝子の変異によって引き起こされる。
・これにより、特定の免疫機能が欠如または低下し、感染症や自己免疫疾患、アレルギー反応などが引き起こされる。
分類
・PIDは、生まれつき免疫を担当する細胞系に異常を来す疾患です。3つの免疫細胞系のうち、どの細胞系がどういう病原体(細菌、真菌、ウイルス)に対する防御を担っているのか。どの疾患でどの免疫細胞系がやられるのかを把握しておくことが重要です!
①複合免疫不全症(T細胞系、抗体産生がともに障害される)
■重症複合免疫不全症(SCID:severe combined immunodeficiency)
・常染色体劣性またはX連鎖劣性(Xq13)遺伝によるアデノシンデアミナーぜ(ADA)欠損症であり、造血幹細胞からの分化異常を来す。インターロイキン(IL)-2レセプター異常症によるものもある。
・症状:B/T細胞両方の異常→早期乳児期より何に対しても易感染性
・PIDでは最も早く発症する。
<治療>
・骨髄移植→HLA一致同胞からなら約90%が治癒、HLA不一致ドナーなら約60%
・酵素補充療法
・ADA欠損症に遺伝子治療
■高IgM症候群(CD40L欠損症)
②免疫不全を伴う特徴的な症候群(免疫系以外の特徴的な異常や症候を伴う)
■Wiskott-Aldrich症候群
・X連鎖劣性遺伝。Xp11.22.22-23に座位するWASP遺伝子の異常によって糖蛋白CD43に異常をきたし、リンパ球と巨核球の蛋白異常を来す。
<症状>
・B/T細胞療法の異常:乳児期早期より易感染性
・血小板低下:出血傾向
・IgE↑、IgA↑(IgM↓, IgG→):アトピー、湿疹
・血性下痢
<合併症>
・リンパ系の腫瘍、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
<治療>
・造血幹細胞移植、血小板減少に脾摘、抗生物質
■毛細血管拡張性運動失調症(AT:ataxia-telangiectasia), Louis-Bar症候群
<原因>
・常染色体劣性、第11番染色体長腕(11q22.3)のATM遺伝子
<症状>
・B/T細胞療法の異常(特にIgA↓):粘膜防御低下し、気道感染、気管支拡張症
・2-6歳から小脳失調症
・5-6歳から眼球結膜に毛細血管拡張症(充血)
<合併症>
・リンパ系の腫瘍、重症肺炎
<治療>
・対症療法
・免疫グロブリン補充
■DiGeorge症候群(胸腺低形成)
<原因>
・第3, 4鰓弓、鰓嚢(胸腺、副甲状腺になる)の発生異常
・第22番染色体長腕(22q11)部分欠損
<症状>
・特徴的顔貌(口蓋裂、低位耳介、小耳介、短い人中、小顎症、小さい口、眼角隔離症)
・副甲状腺低形成→低カルシウム→テタニー
・心血管奇形(大動脈弓異常、Fallot四徴症など)
・T細胞系低下→真菌、ウイルスなど反復感染(HIVと似ている)
<治療>
・胸腺移植
・先天性心疾患の治療
・テタニーの治療(Ca, Vit-D投与)
③抗体産生不全症(主に抗体産生が障害される)
X連鎖無γグロブリン血症
<原因>
・X連鎖性、X染色体長腕のBtk(Bruton’s tyrosine kinase)遺伝子
<症状>
・B細胞系の欠陥→母体由来のIgGがなくなる生後6か月ごろから反復性可能性炎症=細菌感染
例外→ニューモシスチス肺炎(原則的にはT細胞で防御だが⋯)になることもある
<検査>
・IgG、IgM、IgA、IgD、IgE全て低下
・臍帯血でB細胞欠如
・遺伝子診断
<治療>
・免疫グロブリン製剤を3-4週おきに補充する
高IgM症候群(AID欠損症)
選択的IgA欠損症
分類不能型免疫不全(CVID)
④免疫調節障害(免疫反応の制御異常を生じ、血球貪食症候群や自己抗体産生などを伴う)
チェディアックヒガシ(Chediak-Higashi)症候群
・microtubeの異常により遊走能(細胞運動性↓)と殺菌能の異常(リソゾーム顆粒放出不能)をきたす常染色体劣性遺伝疾患
<原因>
・第1番染色体長腕(1q42.1-42.2)のLYST遺伝子の変異
<症状>
・反復性の化膿性感染症
・末梢白血球内に巨大顆粒(輸送障害)、ペルオキシダーゼ陽性
・メラニン色素異常による赤毛、白子
<治療>
・抗生剤、ST合剤予防投与
・骨髄移植
・増悪期の血球貪食症候群に副腎皮質ステロイド薬、エトポシド投与
⑤先天性食細胞機能不全症および欠損症(好中球を中心とする食細胞が障害される)
慢性肉芽腫症(CGD:chronic granulomatous disease)
・貪食細胞の殺菌作用の異常であり、貪食能は正常(酸化還元反応の異常→殺菌に要する活性酸素<NADPH酸化酵素>欠損による)
・X連鎖劣性、常染色体劣性があり、6:1で男児に多い
・BCG接種は禁忌
<病態>
・カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌など)を殺菌できない
・カタラーゼ陰性菌(肺炎球菌、連鎖球菌など)の殺菌はできる
<症状>
・リンパ節、肺、皮膚などに反復性化膿性炎症
(肉芽腫、リンパ節腫脹、肝脾腫)
<検査>
・NBT色素還元試験:陰性
・好中球の活性酸素産生能欠如
<治療>
・ST合剤予防投与
・インターフェロンγ
・造血幹細胞移植
重症先天性好中球減少症
⑥自然免疫異常(TLRからのシグナル伝達やTh17細胞の機能が障害される)
IRAK4欠損症
慢性皮膚粘膜カンジダ症
⑦自己炎症性疾患(自然免疫系の制御異常により炎症が生じる)
家族性地中海熱
⑧補体欠損症(補体系蛋白に欠損がみられる)
C3欠損症
⑨骨髄不全症(造血機能の異常がみられる)
Fanconi貧血
⑩PIDの表現型をとる疾患
体細胞変異関連疾患
自己抗体関連疾患
診断・疑う条件
国際的には、Jefferey Modell Foundationの10 Warning Signs of Primary Immunodeficiency が用いられている。
以下の特徴に当てはまる場合、原発性免疫不全症が疑われる。
①乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良がみられる
重症複合免疫不全症が疑われる状況であり、造血幹細胞移植の適応がある。診断にはリンパ球サブセット解析で、T細胞の欠損がないか確認することが重要。
②1年に2回以上肺炎に罹患する。
細菌性肺炎を繰り返す場合、BTK欠損症が疑われる。ウイルス性肺炎やニューモシスチス肺炎が重症化する場合は複合免疫不全症が疑われる。
③気管支拡張症を発症する。
慢性の気道炎症によって生じる。膿疱性線維症を除いた気管支拡張症の17%が原発性免疫不全症と関連した。
④髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症に2回以上罹患する。
細菌感染症に罹患しやすく、重症化しやすい場合、BTK欠損症や慢性肉芽腫症の可能性がある。慢性肉芽腫症では、ブドウ球菌、緑膿菌、セラチア、大腸菌、カンジダ、アスペルギルス、抗酸菌に易感染性を呈する。
⑤抗菌薬を使用しても2ヶ月以上感染症が治癒しない
BTK欠損症や慢性肉芽腫症の可能性がある。
⑥重症副鼻腔炎を繰り返す
BTK欠損症やIgGサブクラス欠損症の有無を検討する。
⑦1年に4回以上、中耳炎に罹患する
BTK欠損症やIgGサブクラス欠損症の有無を検討する。
⑧1歳以降に、持続性の鷲口瘡、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅がみられる
複合免疫不全症では、ヒトパピローマウイルスの皮膚への感染が制御できず、広範な疣贅が起こるこことがある。
⑨BCGによる重症副反応(骨髄炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EBウイルスによる重症血球貪食症候群に罹患したことがある
複合免疫不全や慢性肉芽腫症の可能性がある。
⑩家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある。
原発性免疫不全症の多くは遺伝性。そのため10 Warning Signsの中でも最も重要な項目である。
上記の項目のうち、2つ以上該当する児は小児科専門医の診察が必要です。
感染症の種類(フォーカスと病原体)や治療反応性、易感染性以外の徴候(皮疹や顔貌、骨、関節)、家族歴を確認した上で、白血球数、白血球分画、血小板数、血清IgG値、リンパ球サブセット、リンパ球幼弱化試験などを調べる。
※しかし、中耳炎や肺炎を繰り返すからといって、免疫不全症を強く疑うわけではない。一般的な経過と違って、なかなか治らない、合併症が多彩などの特徴がある場合など、普通の経過とは異なるケースが多い。
治療方針
・もちろん、疾患群により治療方針は様々異なるものの、一般的にPIDに行われる治療方法についてまとめます。
免疫グロブリン補充療法
・抗体産生が不十分な患者に対しては、定期的な免疫グロブリン製剤の投与が行われる。
造血幹細胞移植
・重症例では造血幹細胞移植が有効であり、特に重症複合免疫不全症(SCID)では標準治療となっている。
遺伝子治療
•一部のPIDでは遺伝子治療が試みられており、特定の遺伝子異常を修正することで免疫機能を回復させることが可能。
参考文献
- Allergy Asthma Clin Immunol. 2018 Sep 12;14(Suppl 2):61. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30275850/
- J Autoimmun. 2019 May:99:52-72. doi: 10.1016 j.jaut.2019.01.011. Epub 2019 Feb 20. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30795880/
- Acta Biomed. 2020 Sep 15;91(11-S):e2020010.
doi: 10.23750/abm.v91i11-S.10314. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33004780/ - Allergy Asthma Clin Immunol. 2022 Mar 4;18(1):19.
doi: 10.1186/s13223-022-00662-6. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35246253/
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