急性副鼻腔炎 (ABRS): 診断と鑑別
・抗菌薬の適正使用は、正確な診断から始まります。ここでは、無害なウイルス性上気道炎(URI)から、治療対象となる細菌性ABRSをいかに臨床的に鑑別するかに焦点を当てます。
基礎知識:解剖学的特異性
・小児の副鼻腔炎を考える上で、成人と最も異なる点は「副鼻腔がまだ発達途上である」という事実です。
- 出生時に存在する副鼻腔:出生時に存在するのは、篩骨洞(Ethmoid sinus)と上顎洞(Maxillary sinus)のみです。そして、副鼻腔炎を引き起こすのに十分な副鼻腔形成は、18~24ヶ月で形成される。
- 遅れて発達する副鼻腔:前頭洞(Frontal sinus)は5〜6歳頃から、蝶形骨洞(Sphenoid sinus)は5歳頃から含気化(骨の中に空洞ができること)が始まり、成人サイズに達するのは10代後半から20代にかけてです。
ウイルス性URI vs 細菌性ABRSの鑑別
・ABRSの診断は、画像や検査所見ではなく、あくまで「臨床的」。この分野におけるゴールドスタンダードは、2013年に改訂された米国小児科学会(AAP)のガイドラインが示す「3つの臨床基準」です。
Acute bacterial sinusitis in children: an updated review (Drugs Context
. 2020 Nov 23;9:2020-9-3. doi: 10.7573/dic.2020-9-3)
ABRSは、急性上気道炎(URI)の経過中に、以下の3つのパターンのいずれかを満たした場合に診断されます。
- 「持続する症状 (Persistent illness)」
- 鼻汁(性状は問わない)、または日中の咳が、10日間以上改善せずに持続する。
- 「重症な発症 (Severe onset)」
- 39℃以上の発熱と膿性鼻汁が、少なくとも3日間連続して続く。
- 「二峰性・悪化する経過 (Worsening course / Double sickening)」
- URIの経過で一度改善し始めた(または軽快していた)後に、鼻汁、日中の咳、または発熱が再び悪化・再燃する。
・上気道炎の症状が2~3週持続することはよくあるが、ほとんどは10日目くらいで改善傾向になる。よって、「まったく」改善傾向がなく10日持続するかどうかは重要な鑑別ポイントである。
診断の”ワナ”:膿性鼻汁(色のついた鼻水)の誤解
・副鼻腔炎のよくある誤解として、「膿性鼻汁=細菌感染=抗菌薬が必要」という迷信があります。
・ウイルス性URI(いわゆる風邪)であっても、発症から3〜6日目が症状のピークであり、この時期には白血球(好中球)の浸潤により、鼻汁は粘稠になり、黄色や緑色を呈するのが一般的です 。実際に、「膿性鼻汁や症状の持続期間だけでは、細菌性とウイルス性を明確に区別できない」という指摘もあります。
Acute bacterial sinusitis in children: an updated review (Drugs Context
. 2020 Nov 23;9:2020-9-3. doi: 10.7573/dic.2020-9-3)
ABRSの診断で重要なのは「鼻汁の色」ではなく、「症状のパターンと時間経過」です。
・上記の「重症な発症」基準 が「膿性鼻汁」に言及しているのは、それが「かつ 39℃以上の高熱が3日続く」という組み合わせにおいて、細菌感染の強力な指標となるためであり、膿性鼻汁単独で判断してはなりません。
Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Management of Acute Bacterial Sinusitis in Children Aged 1 to 18 Years (Pediatrics (2013) 132 (1): e262–e280.)
この鑑別点を、以下の表にまとめます。
【ウイルス性URI(風邪) vs 急性細菌性副鼻腔炎(ABRS)の鑑別】
| 観点 | 一般的なウイルス性URI(風邪) | 急性細菌性副鼻腔炎(ABRS)の診断基準 |
| 発熱 | 無熱、または微熱。あっても通常48時間以内に解熱。 | 重症な発症: 39℃以上の高熱が3日以上持続。 |
| 鼻汁 | 初期は水様性。3〜6日目に粘稠性・膿性になることがある。 | 重症な発症: 膿性鼻汁(高熱とセット)。 持続する症状: 10日以上続く(性状は問わない)。 |
| 経過 | 3〜6日目をピークに、7〜10日で自然に改善傾向。 | 持続する症状: 10日以上、改善しない。 悪化する経過: 5〜7日目頃に一旦軽快後、再悪化。 |
| 全身状態 | 比較的良好。 | 重症な発症の場合は、ぐったりしていることが多い。 |
| 臨床判断 | 待機的・対症療法。 | いずれかの基準を満たせばABRSと診断し、治療(抗菌薬または観察)を検討。 |
画像検査は必要か?:CT・レントゲンの適応
ABRSの診断における基本原則は「画像検査は不要」です。
- 原則:不要合併症のない単純性ABRSの診断において、CTや単純レントゲン撮影は推奨されません。
- その理由:特異度が低すぎるため画像検査は、ABRSとウイルス性URIを鑑別する役には立ちません。なぜなら、症状のない健康な小児や、ウイルス性URIの小児であっても、CTを撮影すれば約90%に副鼻腔の粘膜肥厚や気液面(air-fluid levels)が認められるという報告もあるためです。
Acute bacterial sinusitis in children: an updated review (Drugs Context
. 2020 Nov 23;9:2020-9-3. doi: 10.7573/dic.2020-9-3)
- 例外:画像検査が強く推奨される場合画像検査が必要となるのは、主に以下の2つの状況です。
- 合併症の疑い(red-frag):これが最も重要な適応です。眼窩内または頭蓋内合併症(詳細は第4部で後述)が疑われる場合、造影CTが必須となります。
- 難治性・反復性・慢性(CRS)の評価:適切な治療に反応しない場合、あるいは慢性副鼻腔炎(CRS)が疑われる場合に、鼻中隔弯曲症、鼻茸(ポリープ)、解剖学的異常の評価 、または手術計画のためにCTが考慮されます。
Chronic Sinusitis
急性細菌性副鼻腔炎(ABRS):治療戦略
・AAPの3つの基準に基づきABRSと診断した後、次のステップは治療です。ここでは抗菌薬の「適応」「選択」「用量」について、〜2025年の最新のエビデンスに基づき整理します。
抗菌薬の適応:待機的観察(Watchful Waiting)という選択肢
・AAP 2013ガイドラインが示した重要な点は、「ABRS=即時抗菌薬治療」ではない、ということです。ガイドラインは、ABRSと診断した後の選択肢として「即時抗菌薬治療」と「追加の3日間の待機的観察」の2つを提示しました。
この使い分けは、診断基準(重症度)と連動します。
- 即時抗菌薬治療が推奨される群:
- 「重症な発症」(39℃以上の発熱+膿性鼻汁が3日以上)「悪化する経過」(二峰性)
- これらは細菌感染が強く示唆され、かつ重症化のリスクがあるため、速やかな介入が求められます。
- 待機的観察(3日間)も選択肢となる:
- 「持続する症状」(10日以上続く) だが、症状が軽度(mild)で、全身状態が良好な場合。
- この群は診断基準は満たすものの、自然軽快する可能性も残されています。
この「待機的観察」は、抗菌薬適正使用(AMS)の観点から非常に重要です。ここで3日間待機し、改善傾向が見られれば不要な抗菌薬投与を回避できます。逆に、3日間の観察中に症状が悪化すれば、それは「悪化する経過」に移行したことを意味し、その時点で抗菌薬を開始する明確な理由となります。このアプローチは、保護者との信頼関係と、3日後に確実にフォローアップできる体制が前提となります。
第一選択薬:アモキシシリン vs AMPC/CVAの使い分け
・ABRSと診断し、抗菌薬治療を決定した場合、次に悩むのが「薬剤選択」です。
- 主要起因菌(ターゲット):標的とすべきは、Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)、Haemophilus influenzae(インフルエンザ桿菌、非定型)、Moraxella catarrhalis の3大起因菌です。
Pediatric Rhinosinusitis (Curr Treat Options Allergy. Author manuscript; available in PMC: 2017 Sep 1.Published in final edited form as: Curr Treat Options Allergy. 2016 Jul 11;3(3):268–281. doi: 10.1007/s40521-016-0096-y)
- 薬剤耐性の現状:H. influenzae と M. catarrhalis の多くはβラクタマーゼを産生し、アモキシシリン(AMPC)に耐性です。また、S. pneumoniae の一部はペニシリン結合タンパク(PBP)の変異により、AMPC耐性(PISP, PRSP)を示します。
- ガイドラインの推奨:この耐性菌の状況(特にβラクタマーゼ産生菌の増加)を背景に、米国のIDSAガイドラインや2020年のレビューでは、アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)を第一選択として広く推奨しています。
Treatment of sinusitis in children: an Italian intersociety consensus (SIPPS-SIP-SITIP-FIMP-SIAIP-SIMRI-SIM-FIMMG) (Ital J Pediatr. 2025 Mar 26;51:102. doi: 10.1186/s13052-025-01868-1)
AMPC
アモキシシリン(サワシリン、パセトシン)
用量:90mg/kg/日、分2、5~7日間
CVA/AMPC
クラブラン酸カリウム・アモキシシリン(クラバモックス、オーグメンチン)
用量:90mg/kg/日、分2、10~14日間
・治療失敗の原因として、耐性菌以外にも、副鼻腔口の閉塞や非感染性疾患によるものを評価することも重要。
2025年最新コンセンサスの提案
ここで、新しい知見をご紹介します。2025年に発表されたイタリアのコンセンサス は、AMPC/CVAを画一的に使用するのではなく、AAPの診断基準(重症度)と連動させた薬剤選択を提案しています。
Treatment of sinusitis in children: an Italian intersociety consensus (SIPPS-SIP-SITIP-FIMP-SIAIP-SIMRI-SIM-FIMMG) (Ital J Pediatr. 2025 Mar 26;51:102. doi: 10.1186/s13052-025-01868-1)
- 推奨 :
- 「持続する症状」(軽症)群:アモキシシリン(AMPC)単剤(高用量 90mg/kg/day)を推奨。
- 「悪化する経過」または「重症な発症」群:アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)(高用量 90mg/kg/day)を推奨。
- 軽症の「持続」群では、起因菌として最も警戒すべきは侵襲性の高い S. pneumoniae です。S. pneumoniae にはβラクタマーゼ産生はないため、クラブラン酸(CVA)は不要です。むしろAMPCを「高用量」にすることでPBP変異(耐性)を克服する方が合理的です。
- 一方、「重症」または「悪化」群では、H. influenzae などのβラクタマーゼ産生菌の関与が強く疑われるため、AMPC/CVAで確実にカバーする必要があります。
これは、耐性菌の選択圧を減らしつつ(AMPC単剤の使用)、重症例は確実に治療する(AMPC/CVAの使用)という戦略であり、臨床的に有効でしょう。
【耐性菌リスクを考慮した用量設定:標準用量 vs 高用量】
薬剤選択と同時に「用量」の決定も重要です。なぜ「高用量(90mg/kg/day)」が必要なのでしょうか。
これは主に、ペニシリン非感受性肺炎球菌(PISP/PRSP)を克服するためです。Time above MIC(菌の増殖を抑える濃度以上に血中濃度を保つ時間)を達成するために、高用量が必要となります。
2020年のレビューでは、以下の「耐性菌リスク因子」がある場合、高用量 AMPC/CVA (90mg/kg/day) を選択すべきとしています。
- 高用量を選択すべきリスク因子 :
- 2歳未満の小児
- 保育施設(Daycare)への通園
- 過去1ヶ月以内の抗菌薬使用歴
- 最近の入院歴
- 肺炎球菌耐性率が高い地域(例:10%以上)
- 重症のABRS(「重症な発症」基準を満たす場合)
上記の内容から、第一選択薬の推奨案を表にまとめます。
小児ABRSに対する第一選択抗菌薬の推奨(統合案)
| ABRS診断基準 | 耐性菌リスク因子 | 推奨される第一選択薬 |
| 1. 持続する症状 (軽症) | なし | アモキシシリン (AMPC) 単剤(高用量 90mg/kg/day) or AMPC/CVA(標準用量 45mg/kg/day) |
| 1. 持続する症状 (軽症) | あり | アモキシシリン/クラブラン酸 (AMPC/CVA)(高用量 90mg/kg/day) |
| 2. 重症な発症 | (リスク因子の有無を問わず) | アモキシシリン/クラブラン酸 (AMPC/CVA)(高用量 90mg/kg/day) |
| 3. 悪化する経過 | (リスク因子の有無を問わず) | アモキシシリン/クラブラン酸 (AMPC/CVA)(高用量 90mg/kg/day) |
- 治療期間:治療期間は、一般的に10日間が推奨されます。後述するバイオフィルム形成のリスクなども考慮し、症状が改善した後も十分な期間投与することが重要です。
補助療法:鼻洗浄は有効か?
・生理食塩水による鼻洗浄(Nasal saline irrigation)は、副鼻腔炎の補助療法として広く推奨されています。しかし、そのエビデンスレベルは限定的です。King DらによるCochraneレビュー や、2025年の研究 においても、急性上気道感染症や急性副鼻腔炎に対する鼻洗浄の「有意な有効性」を支持する強力なエビデンスは示されていません 。
Risk factors of acute bacterial paranasal sinusitis in children: a case control study (BMC Infect Dis
. 2025 Aug 22;25:1059. doi: 10.1186/s12879-025-11299-2)
・ただし、鼻汁の物理的な除去、粘膜の加湿、線毛運動の改善といった機序が期待され、安全性も高い(鼻を適切にかめる年齢であれば)ため、対症療法としては引き続き推奨されます。
慢性副鼻腔炎(CRS)の病態と管理
ここからは、急性とは全く異なる疾患単位、「慢性副鼻腔炎(CRS)」について解説します。ABRSが「感染症」であるのに対し、CRSは単純な「感染」ではなく、「多因子性の慢性炎症」として捉える必要があります 。
Chronic Rhinosinusitis in Children (Curr Treat Options Pediatr. Author manuscript; available in PMC: 2020 Dec 10.Published in final edited form as: Curr Treat Options Pediatr. 2018 Sep 25;4(4):413–424. doi: 10.1007/s40746-018-0142-z)
小児CRSの定義:急性とは異なるアプローチ
- 定義: 鼻閉、鼻漏(前鼻漏または後鼻漏)、顔面痛/圧迫感、咳のうち2つ以上の症状が、12週間以上持続する場合に診断されます 。
- 急性(ABRS)との違い: ABRSのゴールが抗菌薬による「治癒」であるのに対し、CRSのゴールは生活の質(QOL)を損なう症状管理となります 。
- 疫学: 小児CRSの正確な有病率は不明ですが、小児のURIの5〜10%が副鼻腔炎に移行すると推定されており 、決して稀な疾患ではありません。
病態生理:バイオフィルムと宿主免疫
小児CRSの病態は、(1)細菌の貯蔵、(2)宿主の過剰防衛、の2つが中心です。
- 細菌の隠れ家(Bacterial Reservoir)
- アデノイド: 小児CRSにおいて、アデノイドは「細菌の貯蔵庫」として極めて重要な役割を果たします 。アデノイド組織内で細菌がコロニーを形成し、副鼻腔へ持続的に細菌を供給します。
- バイオフィルム (Biofilm): 細菌が多糖類のマトリックスに守られた集合体を形成し、粘膜に強固に付着します 。このバイオフィルムが、(1)抗菌薬の浸透を物理的に妨げ(耐性の獲得)、(2)宿主の免疫(好中球など)から細菌を保護します。これが、抗菌薬治療が効きにくい(=慢性化する)最大の理由の一つです 。
- 宿主の免疫応答(慢性炎症)
- CRSは、外部刺激(細菌、真菌、アレルゲンなど)に対する「不適切または過剰な免疫応答」であると考えられています 。特に、喘息や鼻茸を合併するCRSでは、Th2型の炎症(好酸球性炎症)が関与している可能性が示唆されています 。
Pediatric Rhinosinusitis (Curr Treat Options Allergy. Author manuscript; available in PMC: 2017 Sep 1.Published in final edited form as: Curr Treat Options Allergy. 2016 Jul 11;3(3):268–281. doi: 10.1007/s40521-016-0096-y)
リスク因子と併存疾患:アレルギーと喘息
CRS診療の鍵は、CRSを「鼻の局所的な病気」としてだけ捉えないことです。これは「気道の全身的な炎症性疾患」(United Airway Disease)の局所的な表現型である可能性が高いのです。
2024年に発表された研究 は、小児CRS患者の併存疾患について、非常に重要なデータを示しました。
Comorbidities of chronic rhinosinusitis in children and adults (Clin Transl Allergy
. 2024 Apr 24;14(4):e12354. doi: 10.1002/clt2.12354)
- 小児CRS患者の併存疾患(2024年の研究 )
- アレルギー(アレルギー性鼻炎):56.73% が合併
- 喘息:47.12% が合併
- 慢性中耳炎(COM):19.23% が合併
注目すべきは、このアレルギーと喘息の重複が、成人よりも小児において有意に顕著であった点です 。
したがって、CRSの管理においては、以下のリスク因子や併存疾患の評価と管理が不可欠です。
- アレルギー性鼻炎
- 喘息
- 受動喫煙・環境因子
- 免疫不全(IgGサブクラス欠損症など)
- 嚢胞性線維症(CF)(特に鼻茸を伴う場合)
Clinical Characteristics of Pediatric Chronic Rhinosinusitis: A Nationwide Retrospective Multicenter Study (J Rhinol. 2025 Mar 21;32(1):28–35. doi: 10.18787/jr.2024.00040)
CRS:内科的治療
小児CRSの標準的な内科的治療(抗菌薬、鼻噴霧ステロイド、鼻洗浄)についてです。
2020年のレビュー は、「通常推奨される内科的治療(抗菌薬、鼻洗浄、鼻噴霧ステロイド)を裏付ける研究はほとんどない」と明確に指摘しています。
しかし、臨床現場では以下のように考えられています。
- 鼻噴霧ステロイド薬&鼻洗浄: エビデンスは乏しいものの 、CRSの病態が「炎症」であることを考えると、局所の炎症を抑え、物理的に刺激物を洗い流すこれらの治療は、安全であり第一選択となります。
- 抗菌薬(長期投与): バイオフィルムの存在 を考えると理論的には正当化されそうですが、その有効性を支持する質の高いエビデンスは乏しいのが実情です 。
Chronic Rhinosinusitis in Children (Curr Treat Options Pediatr. Author manuscript; available in PMC: 2020 Dec 10.Published in final edited form as: Curr Treat Options Pediatr. 2018 Sep 25;4(4):413–424. doi: 10.1007/s40746-018-0142-z)
外科的治療:アデノイド切除術とESS
内科的治療(およびアレルギー、喘息などの併存疾患の管理)が奏効しない場合、外科的治療が検討されます。
小児のCRS手術には、成人とは異なる明確な「順序」があります。
- 第一選択の外科治療:「アデノイド切除術」 小児CRSの外科的治療の「主要な手段(mainstay)」は、内視鏡下副鼻腔手術(FESS)ではなく、アデノイド切除術です 。
-
- 理由: 前述の通り、アデノイドが「細菌の貯蔵庫」として機能しているため 、まずこの供給源を断つことが最も合理的かつ低侵襲です。
- 有効性: アデノイド切除術単独での改善率は約50〜69%と報告されています 。
Clinical Characteristics of Pediatric Chronic Rhinosinusitis: A Nationwide Retrospective Multicenter Study (J Rhinol. 2025 Mar 21;32(1):28–35. doi: 10.18787/jr.2024.00040)
- アデノイド切除術が失敗した場合の「次の一手」 アデノイド切除術に反応しない難治例(リスク因子:7歳未満、喘息の既往 )に対して、初めて内視鏡下副鼻腔手術(FESS)やバルーン副鼻腔形成術の適応がでてきます 。
- FESS: 解剖学的な問題を解消し、副鼻腔の換気とドレナージを改善します。2025年に発表された日本の多施設共同研究 では、FESSを受けた小児CRS患者(平均13.4歳)において、術後3年間にわたり症状(鼻閉、鼻漏、嗅覚低下など)が有意に改善し、長期的なQOL向上が示されました。
- バルーン副鼻腔形成術: 従来のFESSの代替として、副鼻腔の自然口をバルーンで拡張する、より低侵襲な方法です 。
合併症について
- 小児の副鼻腔炎は、そのほとんどが軽快しますが、時に急速に進行し、視力や生命を脅かす重篤な合併症を引き起こすことがあります 。これらの「レッドフラッグサイン」を認識することが重要です。
Acute bacterial sinusitis in children: an updated review (Drugs Context
. 2020 Nov 23;9:2020-9-3. doi: 10.7573/dic.2020-9-3)
最も頻度の高い合併症:眼窩内合併症
- 発生源: 小児の眼窩内合併症のほとんどは、篩骨洞(Ethmoid sinus)の炎症の波及によります 。
- 解剖学的理由: 前述の通り、篩骨洞と眼窩を隔てる骨(Lamina papyracea)が紙のように薄いため、容易に炎症が眼窩内へ侵入します 。
臨床的鑑別の核心:「Pre」 vs 「Post」
最も重要な臨床的判断は、炎症が眼窩隔膜(Orbital septum)を越えたかどうか(Preseptal vs Postseptal)です。
- 1. 眼窩周囲蜂巣炎 (Preseptal cellulitis)
- 炎症が眼窩隔膜の手前(皮膚組織)に留まっている状態。
- 徴候: 眼瞼(まぶた)の腫脹・発赤 。
- 鑑別点: 眼球突出なし、眼球運動障害なし、視力低下なし。
- 治療: 通常、経口抗菌薬の外来治療が可能です。
- 2. 眼窩蜂巣炎 (Orbital cellulitis) / 骨膜下膿瘍 (Subperiosteal abscess)
- 炎症が隔膜を越え、眼窩内の脂肪組織や骨膜下に波及・膿瘍形成した状態。
- 徴候: 眼瞼腫脹に加え、以下のレッドフラッグが出現します。
- 眼球突出(Proptosis)
- 眼球運動障害(「目が動かしにくい」「動かすと痛い」)
- 複視(物が二重に見える)
- 視力低下(急激な視力低下は緊急事態です)
- 治療: 即時入院の上、強力な静注抗菌薬治療、および緊急の外科的ドレナージ(排膿)が必要です。
致死的となり得る合併症:頭蓋内合併症
- 発生源: 前頭洞(Frontal sinus)が関与することが多いです 。そのため、前頭洞が発達する年長児や思春期でより問題となります 。
- 種類 :
- 髄膜炎 (Meningitis)
- 硬膜外膿瘍 (Epidural abscess)
- 硬膜下膿瘍 (Subdural empyema)
- 脳膿瘍 (Cerebral abscess)
- Pott’s puffy tumor(前頭骨骨髄炎に伴う前額部の腫脹)
合併症が疑われる場合の対応
- 緊急での対応が必要なレッドフラッグサインは以下の通りです。
- 眼科的兆候 :
- 眼球突出
- 眼球運動障害・疼痛
- 複視
- 視力低下
Orbital Consequences of Chronic Rhinosinusitis: A Contemporary Narrative Review of the Ophthalmologic Impact and Therapeutic Role of Functional Endoscopic Sinus Surgery
- 頭蓋内圧亢進兆候 :
- 激しい頭痛(鎮痛薬が無効)
- 持続する嘔吐
- 意識変容(不機嫌、傾眠)
- 髄膜刺激症状 :
- 頸部硬直
- 羞明(光を異常に眩しがる)
- これらのサインが1つでも認められれば、直ちに高次医療機関(耳鼻咽喉科・眼科・脳神経外科の専門医が常駐する施設)への救急指示してください 。診断の確定には造影CTスキャンが必須です 。
Orbital Complications of Chronic Rhinosinusitis: A Contemporary Narrative Review of the Ophthalmologic Impact and Therapeutic Role of Functional Endoscopic Sinus Surgery


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