Introduction
「かかりつけ医で身長の記録をつけてもらっているのですが、成長曲線が基準より低いみたいで…。検査をしてもらうように言われて受診しました。」
今回は、上記のような理由で受診される、小児の低身長についてまとめます。
身長が-2.0SD*を下回るときは、いろいろな鑑別疾患はありますが、小児慢性特定疾病の基準に当てはまる可能性が高い場合は、GH分泌試験を行う必要があります。
※SDスコア
同じ年齢のたくさんの子どもの身長を測ると、その計測値は、平均値を中心に正規分布をすることが知られています。平均値からのばらつきの大きさ、つまり分布の幅をSD(標準偏差)という数値であらわします。一人ひとりの子どもの身長が、同じ年齢の子どもと比べてどれくらい高いか、低いかを、平均値からSDの何倍離れているかによってあらわす方法がSDスコアです。
SDスコアが−2SDより低い身長の人は全体の2.3%(1,000人のうち約23人)にあたり、低身長と呼んでいます。
低身長の原因について
また、低身長の原因となる疾患の鑑別も必要です。以下のような場合、鑑別疾患について検査を進める必要性があります。
四肢・体幹のバランス異常:骨系統疾患
発達遅延・特異顔貌:染色体異常
元気なし、寒がり:TSH↑、fT4↓ 後天性甲状腺機能低下症(TSH、fT4は甲状腺の検査値)
極端な食事療法:食事性
外因性ステロイド過剰:薬剤性
家庭環境問題:愛情遮断症候群
Turner徴候:染色体検査 Turner症候群
頭痛、多尿、視野狭窄、小陰茎、仮死、低血糖、遷延黄疸:MRI異常 IGF-1↓
TSH↓ fT4 ↓ 下垂体前葉機能低下症
症状なし:IGF-1↓ 特発性GH分泌不全症
家族歴:家族性低身長、体質性思春期遅発性
それでは実際、どのような基準でGH補充療法を行うのか決定するのでしょうか
成長ホルモン分泌不全性低身長症:ヒト成長ホルモン治療適応基準
Ⅰ.ヒト成長ホルモン治療開始時の適応基準
1.骨年齢
日本人小児TW2法RUS法(推奨される測定法)で、男子16.0歳以下、女子14.6歳以下。
それ以外の測定法では、男子17歳未満、女子15歳未満。
2.身長発育
現在の身長が同性、同年齢の〔標準値-2SD〕以下、あるいは身長が正常範囲であっても成長速度が2年以上にわたって同性、同年齢(暦年齢が男子11歳以上、女子9歳以上の場合は、骨年齢を暦年齢とみなす)の〔標準成長率-1.5SD〕以下である場合。
ただし、頭蓋内器質性病変や他の下垂体ホルモン分泌不全がある場合の成長速度については、2年以上にわたるか否かを問わず(目安として6か月~1年間にわたり)標準値の-1.5SD以下で経過している場合。
3.症候性低血糖
乳幼児で、成長ホルモン分泌不全が原因と考えられる症候性低血糖(発汗、蒼白、四肢振戦、頻脈、意識障害、けいれんなど)が見られる場合。
4.頭蓋内器質性病変や他の下垂体ホルモン分泌不全の合併
頭蓋内器質性病変【頭蓋部の照射治療歴、頭蓋内の器質的障害、あるいは画像検査の異常所見(下垂体低形成、細いか見えない下垂体柄、偽後葉)が認められ、それらにより視床下部下垂体機能障害の合併が強く示唆された場合】や、他の下垂体ホルモン分泌不全の合併が明らかな場合。
5.成長ホルモン分泌刺激試験
インスリン負荷、アルギニン負荷、L-DOPA負荷、クロニジン負荷、グルカゴン負荷、または、GHRP-2負荷試験において、負荷前および負荷後120分間(グルカゴン負荷では180分間、GHRP-2負荷では60分間)にわたり、30分毎(GHRP-2負荷では15分毎)に測定した血清(漿)中成長ホルモン濃度の頂値が6ng/ml以下(GHRP-2負荷では16ng/ml以下)である場合、低反応とする。
適応基準
適応の前提として、上記の1.を必ず満たすこと。
1)2.を満たし、かつ2種以上の成長ホルモン分泌刺激試験で5.に示す低反応を認めるとき。
2)3.を満たし、かつ1種の成長ホルモン分泌刺激試験で5.に示す低反応を認めるとき。
3)2.と4.を満たし、かつ1種の成長ホルモン分泌刺激試験で5.に示す低反応を認めるとき。
ただし、2)、3)の基準による場合、3.、4.の妥当性について、成長ホルモン適正使用推進委員会で審査を行う。
なお、適応判定に用いられた成長ホルモン分泌刺激試験の1つ以上が申請日から遡って「2年以内」の実施でなかった場合は、慎重に診断することを推奨する。
Ⅱ.ヒト成長ホルモン治療継続の適応基準
1.以下の条件を満たしたときに、治療継続の適応があると判定する。
成長速度 ≧1.0㎝/年
ただし、治療1年目で、「a.成長速度≧6.0㎝/年、b.治療中1年間の成長速度と治療前1年間の成長速度の差≧2.0㎝/年」のいずれも満たさない場合は、効果が不十分である可能性があることから、成長ホルモン分泌不全性低身長症としての成長ホルモン治療の適応を再検討することを推奨する。
2.以下の項目のいずれかを満たしたときは、治療継続の適応はないものと判定する。
1)上記の治療継続の基準、すなわち、成長速度 ≧1.0㎝/年を満たさない場合
ただし、基準を満たす場合であっても成長速度 ≧2.0cm/年を満たさない場合は効果が期待できないので、成長ホルモン治療の中止を積極的に検討することを推奨する。
2)骨年齢が、日本人小児TW2法RUS法(推奨される測定法)で、男子16.0歳、女子14.6歳を超えた場合。それ以外の測定法では、男子17歳以上、女子15歳以上に達した場合
3)重篤な有害事象が生じたとき
成長科学協会による基準は以下の通り↓↓
検査(GH分泌刺激試験)
アルギニン負荷試験
・アルギニン負荷試験は、成長ホルモン(GH)分泌刺激試験の中でも安全性が高く、日常臨床で広く行われています
前処置: 12〜14時間絶食。
投与量: L-アルギニン塩酸塩 0.5g/kg(5mL/kg)、最大300mL(体重60kgなら30g相当)を30分かけて静脈点滴。
採血タイミング: 点滴前、投与開始後30分、60分、90分、120分、150分でGH測定。
クロニジン負荷試験
クロニジン負荷試験は、クロニジン(α2アドレナリン受容体作動薬)によるGH分泌刺激試験
前処置: 絶食(5時間以上)。
投与量: クロニジン0.15mg/m^2(または、体重1kgあたり約5μgとする施設もあり)を経口投与。
採血タイミング: 投与前、投与後30分、60分、90分、120分でGH測定。血圧変動も確認。
L-DOPA負荷試験
• L-DOPAはドパミン前駆物質で、脳内でドパミンに代謝され、ドパミン作動性により視床下部を介してGH分泌を促進します。
前準備
• 検査前日の夜22時以降は絶食。当日朝も絶食のまま来院。
投与量
• 投与量(小児): 体重10mg/kg(例:20kgの小児なら200mg)を経口投与。
• 成人の場合は体重40mg/kgに増量することが一般的です。
採血タイミング
• 投与前(0分)、投与後30分、60分、90分、120分で静脈採血しGH濃度を測定。
• 一般に2時間(120分)まで30分ごとに4〜5回採血します。
注意点・副作用
• 吐き気や嘔吐、めまいなどが一時的に出現することがあり、経過観察が必要。
• ピークGH値が基準(6ng/mL)未満の場合はGH分泌不全性低身長症の診断を補強します。
グルカゴン負荷試験
グルカゴン負荷試験は、成長ホルモン(GH)分泌の評価に用いられる刺激試験の一つで、グルカゴン投与によりGH分泌を誘導し、血中のGH濃度のピークを測定します
・グルカゴンは膵臓のα細胞から分泌されるホルモンで、肝臓のグリコーゲンを分解して血糖値を上げる作用があります。
• 血糖値の上昇によりインスリン分泌が促進され、その後の血糖急降下が脳に低血糖状態を知らせ、視床下部を介してGH分泌が促されると考えられています
前処置: 5時間以上絶食。
投与量: グルカゴン 0.03mg/kg(最大1mg)を筋肉または静脈注射。
採血タイミング: 投与前、投与6分後(必要に応じ数回)、心電図と組み合わせる場合もある。
インスリン負荷試験
インスリン負荷試験は、成長ホルモン(GH)分泌を刺激するための負荷試験の中で、特に強力な刺激を与える方法とされますが、低血糖誘発によるリスクがあるため適応と実施施設は限定されることがあります。
急激にインスリンを注射し低血糖状態を誘発することで、視床下部-下垂体軸を刺激してGH分泌を促します。
前処置: 絶食(前夜から)。
投与量: 速効型インスリン(ノボリンRなど)0.1単位/kg(希釈例:40倍希釈で0.04mL/kg)を静脈注射。
採血タイミング: 投与前、投与後30分、60分、90分、120分。
注意点:
・低血糖症状(発汗、空腹感、動悸、意識障害など)に細心の注意を要し、症状出現時は速やかにブドウ糖投与で対応。
• 甲状腺や副腎機能不全患者ではホルモン補充後に行うべき
GHRP-2負荷試験
GHRP-2負荷試験は成長ホルモン分泌刺激試験の一つで、GHRP-2(Growth Hormone Releasing Peptide-2)を用いて成長ホルモン(GH)分泌の評価を行います。成人・小児の成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断に使われています
• 前処置: 絶食(検査当日午前中が多い)。
• 投与量: GHRP-2(プラルモレリン)1μg/kgを静脈内投与。上限は100μg(施設による)。
• 採血タイミング: 投与前、投与後15分ごとに60分間採血しピークGHを測定
GH分泌刺激試験:診断基準と頂値の解釈
小児期の成長ホルモン分泌不全性低身長症(日本のガイドライン)では、複数の刺激試験のGH頂値(ピーク値)を評価します。
アルギニン・クロニジン・インスリン・グルカゴン・L-DOPA負荷試験
頂値カットオフ:3 ng/mL
判定基準(重症):2種類以上で頂値 3 ng/mL以下
判定基準(中等症):2種類以上で頂値 6 ng/mL以下
GHRP-2負荷試験の場合
頂値カットオフ:10 ng/mL
判定基準(重症):2種類以上で頂値10 ng/mL以下
判定基準(中等症):2種類以上で頂値 16 ng/mL以下
治療(GH分泌不全性低身長の場合)
毎日の投与が必要な製剤と、週1回の投与が必要な製剤があります。
週1回投与の場合は、少なくても済むのは大きなQOLと向上につながりますが、注射時の疼痛などの有害事象が懸念点です。小さい子供さんでは特に嫌がります。
よって、
小さい子供の間・注射の痛みが苦手な年齢→週7製剤
痛みに慣れた・成長後の学童→週1製剤
などの使い分けが重要となります。
週7製剤:ソマトロピン 0.175 mg/kg/週
ノロディトロピン フレックスプロ注5mg・10mg/1キット
グロウジェクト皮下注12mg/1筒
※SGA性低身長の場合、0.23mg/kg/週
・毎日注射が必要なので、ある程度患者の協力が必要。そのため、患者が自分の低身長を認識できる5-6歳まで待ってから行うのが望ましい。
追記2025.9)
2024年4月に、成長科学協会から、成長ホルモン製剤の終了目安についての基準が改定されていました。詳細は下記を御覧ください!⇩
https://www.fgs.or.jp/pdf/08_news/news20240913.pdf
終了の目安:
思春期に入り、最大成長率を過ぎて年間成長率が2cm/年を下回る場合は、GH治療を終了。男子にあっては身長156.4cm、女子にあっては身長145.4cmに達したこと。
継続基準:
初年度は、年間成長速度が6.0cm/年以上、2年目以降は3.0cm/年以上。
週1製剤:長時間作用型遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤
エヌジェンラ®(ソムアトロゴン)
特徴:長時間作用型遺伝子組換えヒト成長ホルモン製剤。週1回皮下注射で注射回数が大幅に削減可能。
使用量・投与法:体重1kgあたり0.16mgを週1回皮下注射。開始量は患者状態に応じ調整。最大8.0mg/週まで増量可能
週1製剤:成長ホルモン受容体作動薬
ソグルーヤ®(ソマプシタン)
特徴:週1回投与可能な成長ホルモン受容体作動薬。成人の重症成長ホルモン欠乏症に使用。小児は成長ホルモン分泌不全性低身長に適応あり。
使用量・投与法:成人ではソマプシタン1.5mg開始、週1回皮下注射。小児は0.16mg/kg/週で週1回皮下注射
エヌジェンラ(ソムアトロゴン)
特徴;ソグルーヤと同様に週1回投与の製剤。長時間作用型の遺伝子組み換えヒト成長ホルモン製剤。
使用量;0.66 mg/kg/回、週1回。


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