こんにちは!『ゆるっと小児科医ブログ』へようこそ。小児科専門医のりんごです。
毎日、家事に育児に、本当にお疲れ様です!子育てをしていると、子どもが予想外のケガをしてヒヤッとすること、ありますよね。
私たち小児科医は、日々たくさんの子どもたちを診察していますが、実はその中で「普通のケガ」と「虐待によるケガ」を慎重に見極めています。
今回は、少し真面目なテーマですが、私たち小児科医が「虐待を見逃さないため」に、医学的にどのようなサインに注目しているのかについてお話しします。
「子ども虐待」は決して遠い世界の話ではなく、誰にでも起こりうる育児のSOSが限界を超えた結果です。知識として知っておくことで、救われる命があるかもしれません。
※内容については、「こども虐待診療の手引き(第3版)」を参考にしています


1. 「ケガの場所」と「年齢」の違和感を見逃さない
子どもはよく転んでケガをするものですが、小児科医は「年齢」と「ケガの場所」の組み合わせに違和感がないかをチェックしています。
ハイハイ前の赤ちゃん(生後9か月未満)のケガ
自分で移動できないおおよそ9か月未満の乳児の外傷は、どのようなものであっても、虐待を鑑別にあげます。
例えば、柵のあるベッドから生後2か月の赤ちゃんが自力で転落する可能性はかなり低いからです。寝返りもまだできない赤ちゃんがベッドから転がることは、ベッドのかなり端に置かれていない限り起こりません。
「骨が出っ張っていない場所」のアザ
偶発的な事故(転倒など)によるケガは、おでこや膝、スネなど「骨が突出している場所」に多いのが特徴です。
逆に、耳、首周り、胸やお腹、背中、おしり、太ももの内側、外性器などへのケガは事故では起こりにくく、虐待の可能性を疑います。

不自然な形の傷(パターン痕)
「平手打ちの痕」、「ループ状のコードの痕」、「タバコを押し付けたような境界が明瞭で均一な深さの円形のヤケド痕」など、加害に使われた「物の形」が残っている皮膚損傷には細心の注意を払います。
2. 見えない部分に隠されたサイン
服で隠れる場所や、一見して分かりにくい場所にも、SOSは隠れています。
口の中のケガ(小帯の裂傷)
無理やり食べ物を口に押し込まれたりした結果、上唇と歯茎をつなぐスジ(上唇小帯)や、舌の裏のスジ(舌小帯)が切れてしまうことがあります。転倒して切れることもありますが、生後6か月未満の赤ちゃんにこの裂傷がある場合は、積極的に虐待を疑います。
ヤケドの不自然さ
不慮の事故で熱湯をかぶった場合は、お湯が飛び散った痕(splash burn)ができるのが特徴です。一方で、飛び散った痕がなく「境界がくっきりしている」ヤケドや、手足に「赤い手袋や靴下」を履いたようなヤケドがある場合は、熱湯に無理やり手足を浸からされた(=強制浸透)可能性を考えます。
見えない骨折
乳幼児の骨折は虐待の根拠となることが多く、1歳未満の骨折の約70%が虐待によるものという報告もあります。とくに、胸を強く圧迫されたことで起こる「後部肋骨骨折」や、手足を強く引っ張られたり振り回されたりして起こる「骨幹端骨折」などは、虐待の可能性が高いと判断されます。
3. 「揺さぶり」が引き起こす命の危機:虐待による乳幼児頭部外傷(AHT)
赤ちゃんの泣き声にイライラして、突発的に激しく揺さぶってしまうことで生じる「虐待による乳幼児頭部外傷(AHT)」は、重篤な後遺障害や生命の危機をもたらします。
症状は風邪や胃腸炎に似ていることも
AHTに特異的な症状はなく、発熱、活気がない、ミルクを飲まない、嘔吐、けいれんなど、日常よく遭遇する症状で受診されることも少なくありません。
眼底検査がカギになる
激しい揺さぶりにより、眼球の中の網膜が引っ張られ、「多発性・多層性の網膜出血」が生じます。これはAHTに非常に特徴的な所見のため、疑わしい場合は眼科医と連携して速やかに眼底検査を行います。
4. 身体以外のサイン(ネグレクトや行動の異変)
身体の傷だけでなく、栄養状態や行動も重要な判断材料です。
栄養不良や不衛生(ネグレクト)
極端な体重増加不良や体重減少、低身長が見られる場合や、異臭がする、ひどいオムツかぶれを放置されている、気候に合わない服を着ているといった場合は、育児放棄(ネグレクト)を疑います。
行動にあらわれるトラウマ
過度に物音や声を怖がっておびえる、異常な食への執着(むさぼり食い)がある、あるいは、初対面の人にも不自然なほどベタベタと距離を詰めてくるといった行動も、虐待という逆境体験が心に与えたトラウマ症状の可能性があります。
おわりに:私たち小児科医の本当の目的
ここまで怖い症状ばかりを並べてしまいましたが、私たち医療者が虐待を疑い、発見しようとするのには理由があります。
虐待対応の目的は、親を責めたり罰したりすることではありません。
子どもの心身の安全を守ることです。
虐待をしてしまう親の多くは、社会から孤立し、自分自身も過去に虐待を受けた経験(トラウマ)を抱えていたり、過酷なストレスの中で「もう限界だ」と叫びたかったりする状況にあります。
私たちがサインを見逃さず、適切に児童相談所や市区町村と連携することで、親子に必要な支援の手を差し伸べ、子どもが安全に暮らせる家族へと回復していくためのスタートラインに立てるのです。
子育ては、綺麗事だけでは済まない激闘の毎日です。「しんどい」「子どもと離れたい」と思うことは、決して異常なことではありません。
もし、限界を感じているママやパパがいたら、どうか私たち小児科医や、地域の保健センターに声をかけてください。
私たちは、親子を救うための「味方」として、いつでも診察室で待っています。


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