・生後すぐから見られる歯は、医学的に先天性歯(Natal teeth)、あるいは俗に魔歯(まし)と呼ばれます。下顎乳中切歯(下の真ん中の前歯)部位に最も多く見られます(約85%)。
・本ブログ記事では、小児科医の観点からの鑑別診断と、臨床現場での対応についてまとめました。
鑑別診断(Differential Diagnosis)
・まず、「歯のようなもの」が本当に歯質であるか、また歯である場合はその性質を見極める必要があります。
A. 歯牙の性質による鑑別
・最も重要なのは、それが「本来の乳歯」か「余分な歯」かの鑑別です。
早期萌出乳歯(True primary teeth)
• 頻度: 先天性歯の 90%以上 はこれに該当します。
• 特徴: 本来生えるべき乳歯(A)が、形成不全のまま早期に萌出したもの。
• 注意点: 安易に抜歯すると、永久歯が生えるまでの数年間、歯がない状態となり、歯列や顎の発育に影響する可能性があります。
過剰歯(Supernumerary teeth)
• 頻度: 10%未満。
• 特徴: 本来の歯列とは無関係な余剰な歯。
• 対応: 基本的に抜歯の適応となります。
B. 類似疾患との鑑別
• 上皮真珠(Epstein pearls / Bohn’s nodules): 歯肉上の白い嚢胞。自然消失するため処置不要ですが、視診・触診で硬組織(歯)との区別は容易です。
• 先天性エプーリス: 歯肉の良性腫瘍。
C. 症候群の可能性(Rare cases)
・先天性歯は単独で発生することが大半ですが、Ellis-van Creveld症候群、Hallermann-Streiff症候群、ソトス症候群などの一部症状として現れることもあります。
臨床的評価とリスク
対応を決定するために、以下の点を評価します。
• 動揺度(Mobility): 歯根形成が未熟なため、グラグラしていることが多いです。
• 舌下部の潰瘍(Riga-Fede病): 授乳時などに舌の裏側が歯に当たり、潰瘍形成(リガ・フェーデ病)を起こしていないか確認します。
• 授乳障害: 母親の乳頭損傷や、患児の哺乳量低下がないか。
具体的な対応
「保存」か「抜歯」かの判断フローチャートは以下の通りです。
A. 抜歯の適応(Extraction)
・以下の場合、誤嚥防止のために抜歯を選択します。
1. 著しい動揺がある場合: 自然脱落による誤嚥(気道閉塞)のリスクが極めて高い場合。
2. 過剰歯であると診断された場合: X線撮影で確認できる場合(ただし、新生児へのX線適用は慎重に行う必要があります)。
※重要:抜歯時の注意(Vitamin K)
新生児は血液凝固因子が未熟です。抜歯を行う場合は、ビタミンK2シロップの投与状況を確認し、出血傾向に十分注意して止血管理を行う必要があります。
B. 保存療法(Preservation)
・動揺が軽度で、かつ本来の乳歯(早期萌出)である場合は、可能な限り保存します。
1. 経過観察: 動揺が少なく、授乳に支障がない場合。歯根が成長するにつれて動揺が収まることがあります。
2. 歯の研磨(Smoothing): 切縁が鋭利で、舌や乳頭を傷つけている場合、先端を丸めます。
3. レジン充填(Resin coverage): 研磨だけでは不十分な場合、切縁をコンポジットレジンで覆い、滑らかにします(ボンディング処置)。
4. 保護プレート: 重度のリガ・フェーデ病に対し、哺乳瓶の乳首のような保護装置を使用することもありますが、新生児には適用が難しい場合が多いです。
まとめ
1. まずは動揺度の確認: 誤嚥リスクがあるほどグラグラしていれば、小児歯科・口腔外科へ対診し、抜歯を検討。
2. 動揺がなければ保存: 舌の潰瘍(リガ・フェーデ病)や授乳障害があれば、歯科にて研磨・コーティング処置。
3. 保護者への説明: 「本来の乳歯である可能性が高く、抜くと永久歯まで歯がない状態になるため、できれば残したい」というメリット・デメリットを伝えます。


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