総論
・トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)はネコ科の動物を終宿主とし,ヒト,豚,ヤギ,ネズミ,ニ
ワトリなどほとんどすべての哺乳類や鳥類を中間宿主とする細胞内寄生原虫であり,世界中に広く分
布する。
・先天性トキソプラズマ感染のうち,症候性は 15%であり,残りの 85%は無症候性である。
・トキソプラズマ抗体陽性率は5-15%で、胎児感染率は妊婦の初感染の時期によって異なる。妊娠初期では10%以下、妊娠中期で20-30%、妊娠後期で60-70%程度である。
・日本での先天性感染児は年間500人と推定されている。
・妊婦抗体スクリーニングで注意すべきは,トキソプラズマ IgM 陽性妊婦のうち,およそ 7 割は per- sistent IgMないし偽陽性であり,本当の妊娠中初感染ではないことである。
・感染時期を判断するために、IgG avidity測定(SRL, 札幌イムノ・ダイアグノスティック・ラボラトリー)を行い、高値なら妊娠前感染で、低値なら妊娠中感染と判断し妊婦の治療を行う。
・avidityとは抗原と抗体の結合力の総和のことである。感染初期では抗原と低親和性の抗体がまず産生されて、経過に従って高親和性の抗体がつくられる。30%未満でトキソプラズマ初感染の疑いが強いとの報告もあるが、標準化された検査法ではなく、臨床的な正確性は明らかではない。
・妊娠中の初感染により胎盤感染すると,胎児に障害(先天性トキソプラズマ症)を与えるリスクがある。
妊娠初期の感染では重症例が多く,妊娠中後期の感染では出生時に症状が出ない無症候性例が多い。
・近年,出生時に無症候性であり,後に眼病変や中枢神経疾患などを発症して診断に至った先天性トキソプラズマ症の報告例も増えてきており ,妊婦への感染予防の啓発や先天性感染の早期診断および早期治療が重要である。
症状
・先天性トキソプラズマ症の三主徴は脈絡網膜炎, 脳内石灰化,水頭症であるが,臨床的に揃うことは 稀である。
・その他に,小頭症,血小板減少と併発す る点状出血,貧血,肝機能異常,黄疸などがある。 これらはサイトメガロウイルスなど他の先天性感 染症でも同様の症状を呈することがあるため,出生時の臨床症状だけで診断することは困難である。
・感染児の90%は不顕性感染。新生児期に無症状でも、幼年期〜思春期までに神経学的後遺症を残すことがある。長期フォローアップで感染児の85%に脈絡網膜炎・聴覚障害・精神発達遅滞をきたした報告もあり。
・出生時に無症候性の場合,頭部画像検査や眼底検査が行わなければ見逃される可能性があり,精神運動発達遅延,てんかん,視力障害などの神経学的・眼科的後遺症につながることがある。
・胎盤感染があるが児に感染はなく、胎内発育障害および自己免疫疾患を発症する非感染型もあると言われている。
検査・診断
・妊娠中の初感染が疑われる例(ハイリスク群)では、トキソプラズマIgG抗体を行う。
・IgM陽性となった場合、頭部CTまたは頭部エコー検査、頭部Xp検査、眼底検査などを考慮する。
・また、3ヶ月、6ヶ月、1歳時にトキソプラズマIgG・IgM抗体測定を行う。
・ローリスク例では、出生時と1歳時に抗体測定検査を行う。
診断基準
・出生後,以下の A または B が確認された場合に,先天性トキソプラズマ感染と診断する。
A:生後 12 カ月以上まで持続するトキソプラズマIgG 陽性(母体からの移行抗体は,通常生後 6~
12 カ月で陰性化)
B:生後 12 カ月未満の場合,以下の項目のうち一つ以上満たす。
1. 児血のトキソプラズマ IgG が母親の抗体価と比べて高値で持続する,または上昇するとき
(IgG抗体 臍帯血/分娩時母体血比 4以上)
2. 児血のトキソプラズマ IgM が陽性(生後 5 日以降 の新生児血),またはトキソプラズマ IgA が陽性
(生後 10 日以降の新生児血)
3. 児血,尿,または髄液からトキソプラズマ DNAがPCR検査で検出(ただし,トキソプラズマ DNA 検査は標準化された方法はなく,その感度も明確でない。また保険承認はない)
4. トキソプラズマ初感染の母親から出生した児で,児血のトキソプラズマ IgG が陽性でかつ,先天性
トキソプラズマ症の臨床症状を有するとき
・出生時に診断が確定しなかった症例についても, 1 歳までは神経学的所見をはじめとする診察所見お よび血液検査(トキソプラズマ IgG,IgM),頭部画像検査,眼底検査のフォローを行い,トキソプラズマ IgG の陰性化を確認できた時点で「感染なし」と判断しフォローアップを終了できる。
・母体 からの移行抗体の半減期は約 30 日である。1 歳以降の管理指針については確立されていない が,感染児は眼底検査を含めて長期的なフォローアップが成長期まで必要である。
治療
・先天性トキソプラズマ感染の治療法はまだ確立 されておらず,いずれの薬剤もトキソプラズマ感染 に対する保険適用はない。
・ピリメタミン、スルファジアジン、ロイコボリンでの3剤併用療法が基本で、最低6ヶ月の治療を行う。
・造血障害に注意し、はじめの1ヶ月は週2回、その後は月1回血算の確認を行う。
・ピリメタミンとスルファジアジンは,我が国では製造販売されていないが,熱帯病治療薬研究班に参加する薬剤使用機関にお いて,ピリメタミン・スルファジアジン・ホリナートの併用療法の有効性と安全性を評価する臨床研究に参加することで治療を受けることができる。
・スルファジアジンを新生児期に投与する場合,核黄疸の発症のリスクが上がるため,血中ビリルビ ン/アルブミン比やアンバウンドビリルビンをモニタリングしながら,投与することが望ましい。
・症候性感染の場合は,下記の薬剤を症状に応じて 適宜使用することが提案されている(※すべて錠剤な ので粉砕して使用する)
中等症〜重症の治療
①ピリメタミン:ダラプリム錠(25 mg)
・最初の2日間:1(~2) mg/kg/dose 1日2 回(4回の治療例もあり)
・以降6ヶ月間:1 mg/kg/dose 1日1回(連日)
・次の6ヶ月間(治療6-12ヶ月目):1 mg/kg/dose 1日1回(週3回)6カ月間
※臨床研究への参加が必要
②スルファジアジン錠(500 mg)
・50 mg/kg/dose 1日2回 12 カ月間
※臨床研究への参加が必要
③葉酸:ロイコボリン®錠(5 mg)
5 mg/dose 1日2回(週3回) ダラプリム錠中止後 1 週まで続ける
④プレドニン錠(5 mg)
・0.5 mg/kg/dose 1日2 回
・髄液蛋白上昇(>1 g/dL)または脈絡網膜炎の活動性が高く視力予後が危惧される場合,これらの所見が改善されるまで継続する。
軽症の治療
・アセチルスピラマイシン 100mg/kg/day 4-6週
妊娠中の初感染は明らかだが、児は無症状で診断確定できない場合
・アセチルスピラマイシン 100mg/kg/day 2週


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