【小児科blog:アレルギー】食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)について | ゆるっと小児科医ブログ
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【小児科blog:アレルギー】食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)について

アレルギー
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今回は、近年増加傾向の、消化器症状を主体とするアレルギー「食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES: Food protein-induced enterocolitis syndrome)」についてまとめていきます。

本疾患は、まだ小児科医・アレルギー科医以外にはあまり知られていない疾患ですので、ぜひこの疾患を知るきっかけとなっていただければ幸いです。

総論

・通常、いわゆる食物アレルギー(即時型食物アレルギー:FA)といえば、「皮膚」「呼吸」「循環」「消化器」に影響を及ぼすものです。しかし、この疾患「FPIES」は消化器のみの症状で出現します。

・FAは食後30~1時間以内に症状が出ることが多いですが、FPIESは食後1~4時間、長いと6時間ほど後にアレルギー症状が出現します。そのため、食事からある程度時間が経過しての嘔吐であることが特徴的といえます。

・FPIESは、非IgE依存性食物蛋白誘発胃腸「症」の中の一つの概念です。FPIESの他には、食物蛋白誘発直腸結腸炎(=FPIAP: Food Protein-induced allergic proctocolitis)、食物蛋白誘発腸症(=FPE: Food protein-induced enteropathy)に分類されます(一部、分類不能型もあります)。

・FPIAPは血便のみを認めるタイプで予後良好です。FPEは消化吸収不全による体重増加不良がメインの症状であり、嘔吐は認める場合と認められない場合があります。

定義

・新生児から乳児期において主に卵黄・牛乳が原因で嘔吐、血便、下痢などの消化器症状により発症する非IgE依存性消化管アレルギー。

・アレルゲンとなる食物摂取の1~4時間後に腹部症状が出現するものを「急性」FPIES、連日の摂取により症状が出現し、摂取中止により軽快するものを「慢性」FPIESと分類します。

定義・分類

・新生児・乳児食物蛋白誘発胃腸「症」は、FPIES(食物蛋白誘発胃腸炎)、FPIAP(食物蛋白誘発アレルギー性結腸直腸炎)、FPE(食物蛋白誘発腸症)に分類される。

・今回は、特に本邦でも注目されている、FPIESにフォーカスしてまとめます。

FPIESの定義

・以下に国際コンセンサスガイドライン(2017)の基準をしめす。

・大基準と、小基準を3つ以上満たす場合にFPIESと診断される。

大基準(Major criterion)

被疑食物の摂取1-4時間後に嘔吐があり、典型的なIgE依存性の皮膚症状や呼吸器症状がない

小基準(minor criteria)

1. 同じ原因(被疑)食物を摂取後に2回以上の反復嘔吐がある

2. 別の食物を摂取1-4時間後に反復嘔吐がある

3. 極度の活気低下

4. 明らかな顔面蒼白

5. 緊急診療受診の必要性

6. 輸液の必要性

7. 24時間以内の下痢(通常5-10時間)

8. 血圧低下

9. 体温低下

FPIESの症状

初期症状

・食物摂取後1~4時間以内に激しい嘔吐が始まり、その後下痢が続くことが多いです。

・これにより、短期間で体液喪失が進みます。

合併症

・高度の脱水が進行すると、低血圧やショック状態になり、腎臓への血流が減少し急性腎障害を引き起こす可能性があります。

・このような状態では、速やかな輸液治療が必要です。

検査

ALST(アレルゲン特異的リンパ球刺激試験)

・偽陽性、偽陰性の多い検査であり、これのみで確定診断とするのは誤り。感度は高くないので陰性でも否定できない。

・カゼイン、ラクトフェリンの項目がある。

CBC(好酸球数)

・新生児期は好酸球増加することが多いが、増加がなくても否定はできない。血便タイプは貧血の有無を調べることはある。

・わが国の症例では高値を認めることが多い。一般に全身性ストレス時には末梢血好酸球数は低値を取ることから注意が必要。

TARC

・Th2系の活動性を反映し上昇する症例がある。

総IgE/特異的IgE

・増加する症例はあるが、診断には使わない。即時型アレルギーの合併の有無を判定するために用いる。

・牛乳に関しては、特異的IgE抗体は30%程度の症例で陽性の報告がある。

診断

・消化器症状を伴う感染症、代謝性疾患、壊死性腸炎、炎症性腸疾患、外科疾患などの他疾患の鑑別が重要。ただしこれらの疾患を合併している場合もありうる。

・FPIESは非IgE依存性であるため、典型的なアレルギー反応(蕁麻疹や呼吸器症状)が見られないことが多く、診断が遅れることがあります。そのため、ウイルス性胃腸炎や敗血症と誤診され、診断の遅れにつながるケースもあります。

・鑑別疾患を除外し、除去試験で症状消失±ALST結果±負荷試験結果で総合的に判断する。

治療と管理

離乳食開始まで

・新生児から乳児期早期までは、牛乳がFPIESの原因として多いです(まだ離乳食として卵黄を摂取していないため)。

・ミルク哺乳で症状出る場合は、乳アレルギー治療乳(MA-1)に変更。母乳でも症状出る場合は、母の乳製品接種を控える。その後3日後に母乳を与えて反応をみる。

・FPIAPのように血便タイプで全身状態が安定していれば、ミルクを治療乳に変更or母乳にするだけで対応可能。

・除去で症状が改善し、体重増加が得られたことを確認した後(2週間~5ヶ月)、負荷試験を行うことが理想とされる。重症例や合併症がある患者では、負荷試験によるリスクを考慮し、実施せずに2-3歳になるまで自然寛解を待つことも選択肢の一つである。

離乳食開始以降

・離乳食が始まると、卵黄がFPIESの原因食物として多くなってきます。

・基本的に疑われる食品除去で症状が改善するか経過をみる。2回以上被疑食摂取後の明らかな消化器症状の出現(典型的なFPIESの経過)があり、また被疑食中止で同様の症状が見られなくなったのであれば、臨床的にFPIESと診断できる。

・もちろん経口負荷試験は診断に有用であるが、アレルギー症状が強く出ていた場合は、無理に負荷試験で確認する必要性は低い。なぜならば、即時型食物アレルギー(FA)の場合は少量でも摂取を継続することで寛解率が上がるが、FPIESの場合は摂取を続けたからといって改善率が上昇する訳ではない。よって食べることのできる閾値評価の必要性もなく、診断が臨床的に明らかであれば負荷試験は必ずしも行う必要はないのである。

・特異的IgE抗体検査は必須ではないが、即時型食物アレルギーの合併例もあるため、検査はしておいた方が良い。

フォロー

・食物アレルギーでは必要最低限の除去を行うが、消化管アレルギーでは、自然寛解するまで完全除去を行い、成長をフォローする。

・わが国では1歳で半数以上、2歳で9割前後が耐性を獲得できており、一般に予後は良好である。しかし、卵黄の場合は他の食物と比べて耐性化率は低いとの報告もある。

管理のポイント

原因食物の除去

・除去しつつ成長発達に問題ないことを確認する(月1回成長曲線をつける)。

耐性獲得を確認するためのOFC

・6-12ヶ月ごとに負荷試験を行い、寛解が確認できれば除去解除とする。

FPIES急性期の対応

・急性エピソードでは、まず脱水とショックに対する迅速な輸液加療が最優先されます。

軽症

症状:1-2回の嘔吐、活気低下なし

治療:経口補液を試みる。症状出現から4-6時間は観察。

中等症~重症

症状(中等症):3回以上の嘔吐、軽度の活気低下

症状(重症):3回以上の嘔吐、重度の活気低下、筋緊張低下、チアノーゼ

治療:バイタルサインのモニタリング、生理食塩水20ml/kg急速投与、低血圧・ショック・高度の活気低下や呼吸困難があればICUへ、症状出現から4-6時間は観察・症状改善し飲水できれば帰宅/退院。

ステロイド加療

・ステロイドは、FPIESの急性エピソード中に見られる免疫反応を抑制するために使用されます。これにより、症状の重篤化を防ぎ、患者の状態を安定させることが目的です

●適応:急性期のFPIESでは、反復する激しい嘔吐、重度で血性の下痢、蒼白、無気力、筋緊張低下、低血圧などの症状が見られる場合にステロイドが投与されます。

●投与方法:チルプレドニゾロンなどのステロイドが静脈内投与されることがあります。具体的な用量としては、メチルプレドニゾロン1 mg/kg(最大60〜80 mg)が推奨されています

保護者への説明事項

・消化管でアレルギーが起きている。

・一般的な食物アレルギーとは異なる。

・除去を行って期間継続すればほとんどっが治癒する。

・大事なのは発育/発達がきちんとできていることであり、定期的なフォローが必要。

・6ヶ月から1年除去し問題なければ負荷試験を行い、症状が出なければ除去解除とする。

・負荷試験で陽性の場合は除去継続として、6ヶ月~1年ごとに負荷試験での評価を行う。

負荷試験(OFC)方法

・初回投与量は0.5-4mL/kgのいずれかの量で行うかは、初発症状が生じたときの摂取量から決定する(食物アレルギー診療ガイドライン)。

・FPIES国際コンセンサスガイドライン2017では、総負荷量はタンパク量として0.3g(0.06-0.6g)/kgで、30分ごとに3分割、接種後少なくとも4-6時間は経過観察。

・症状については嘔吐、下痢、血便、活気、体温、発疹、四肢の動きに注意し、接種後6時間は特に注意する。

・重症例では入院原則。2週間入院必要な場合もある。

・中等症(初発症状で嘔吐や血便を認めたが全身状態は安定した症例)では、はじめの3日間は入院。その後は家で漸増し、外来で経過観察。

・軽症(血便のみのタイプ)では、家庭で少量から開始し症状出現の有無をみる。14日医工も症状がなければ日常摂取量まで増量する。

誘発症状への対応

・嘔吐/下痢には絶飲食として細胞外液を輸液、ステロイド投与(アドレナリン筋注はFAと異なり効果低い)。

・血便は症状改善するまで経過観察。貧血がないか、適宜血液検査で確認する。

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