総論
・全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematousus: SLE)は、遺伝的素因を背景に環境因子が関与する自己免疫疾患の一種です。
・自己抗体による抗原抗体反応など免疫系が自分自身の細胞や組織を攻撃したり、免疫複合体の沈着によって生じる炎症によって全身にわたる炎症や臓器障害を引き起こす病気です。
・特に女性に多く見られ、20~40歳の若年層で発症することが多いです。日本国内では6万~10万人が罹患しており、その数は年々増加傾向にあります。
・SLEは慢性的な病態を呈し、寛解と再燃を繰り返すことが特徴です。患者は日常生活においても注意が必要であり、適切な治療と生活管理が求められます。
・小児例では、成人例と比べて腎炎合併例が多く、比例して重症例も多くなります。
疫学
・有病率は小児人口10万人あたり3.9-4.7
・リウマチ性疾患の中ではJIAに次いで多く、SLE全体の5%が小児期に発症する。
・男女比は1:5.5と女児に多いが、成人例と比べると男児の割合が高い。
原因・病態
・SLEの発症には遺伝的要因と環境的要因が複雑に関与しています。遺伝的背景に、感染や性ホルモン、紫外線、薬剤などの環境因子が関与する多因子疾患です。
・例えば、TLR7やLUBACなどの遺伝子変異がSLEの発症に関連していることが報告されています。これらの遺伝子変異は免疫系に異常を引き起こし、自己抗体の過剰産生や免疫複合体の沈着を誘導します。
・遺伝子の関わる具体的な免疫経路の異常としては、アポトーシス、DNAの分解、細胞片の除去、Ⅰ型インターフェロン(IFN)、Toll-like receptor(TLR)、nuclear factor-κB活性化、B細胞やT細胞機能やシグナル伝達、単球や好中球機能などに関与しています。
・これらの要因が組み合わさることで、免疫系が誤作動し、本来は外敵から守るべき細胞を攻撃するようになります。
症状
SLEは非常に多様な症状を呈するため、「千変万化する病気」とも言われています。以下は代表的な症状です。
全身症状
・発熱、倦怠感、体重減少など
・小児では6割ほどに初発症状として発熱を認めます。微熱から40度を超える高熱となることもある。
・リンパ節腫脹を認めることもあります。
皮膚・粘膜症状
・蝶形紅斑や円盤状紅斑などの日光過敏症状が代表的です。
・蝶形紅斑は、鼻梁と両頬部に認める浮腫性の紅斑で、SLEで最も頻度が高いです。
・円盤状皮疹(ディスコイド疹)は、日光に誘発されやすく、鱗屑を伴うことのある境界明瞭な紅斑ですが、小児の初発時における頻度は高くありません。
関節症状
・関節痛や関節炎
・初発症状として3-4割の小児例で関節症状を認めます。
・朝のこわばりを伴う左右対称の関節炎を認めることがあり、若年性特発性関節炎(JIA)の鑑別が必要になります。
・腱に炎症が及ぶ頻度が高く、手指では指全体が腫脹します。
・靱帯や腱の障害により、一部の患者ではJaccoud様関節炎と呼ばれるスワンネック様の変形が進行することがあります。
腎臓障害
・ループス腎炎(lupus nephritis: LN)と呼ばれる免疫複合体の沈着による糸球体腎炎を生じます。
・LNの腎病理所見はISN/RPSの分類により6つに分けられます。
・Ⅲ型(巣状分節状糸球体腎炎)やⅣ型(びまん性増殖性糸球体腎炎)の重症例では、ネフローゼ症候群により浮腫を認めることや、腎障害のために乏尿、高血圧を呈することがあります。
・小児例で最も頻度が高い臓器病変であり、成人例と比較して重症例が多いです。
・尿検査で異常を必ずしも認める訳ではない。
・血小板減少と溶血性貧血に伴い腎障害が進行する場合は、血栓性微小血管障害(TMA)を念頭に置き、破砕赤血球の有無を確認します。TMAにはADAMTS13インヒビターが存在する後天性の血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と、ADAMTS13活性が低下していないconnective tissue disease(CTD)-TMAと呼ばれる病態があります。TTPはより血小板減少が目立つが治療反応が良好な症例が多いです。一方ADAMTS13非著減例は腎障害が顕著で予後不良となる傾向があります。
中枢神経障害
・精神神経ループス(NPSLE):けいれんや精神障害
・脱髄症候群、横断性脊髄炎、無菌性髄膜炎、多発性神経炎、舞踏病などを生じ得ます。
・神経症状としては、意識障害や痙攣、頭痛、精神症状、不随意運動、末梢神経障害など様々です。
・血栓症を認めた際には、抗リン脂質抗体症候群の関与を検討します。
心血管障害
・初発時に、1割ほどの小児例で漿膜炎(心膜炎や胸膜炎)を認めます。胸痛を生じる症例は半数ほどで、発熱のみの症例もいます。
・極めて稀ですが、肺胞出血を起こす症例があり、治療開始後に発症する場合があります。肺胞出血では、咳嗽や喀痰を伴う症例がいる一方で、無症候性に低酸素血症が悪化し、貧血の進行と胸部Xpのびまん性浸潤影で気づかれることがあります。
消化器症状
・SLEでは薬剤をはじめ様々な原因に起因する消化器症状がみられますが、SLEに関連した消化器症状はループス腸炎と呼ばれます。
・腸間膜の血管炎では、腹痛や嘔吐、発熱を呈します。
・消化管出血を生じる場合もあり、重症例では消化管穿孔や腸管壊死をきたす可能性があります。
・長期にわたる血管炎のため、腸管血流が低下すると、SLEの病勢と関係なく脱水症などを契機に腸管虚血による症状を生じ得ます。その他、膵炎や蛋白漏出胃腸症を生じることがあります。
泌尿器科的症状
・SLEではループス膀胱炎と呼ばれる間質性膀胱炎を呈し、膀胱刺激症状を認めることがあります。
・膀胱容量が低下しますが、尿所見の異常が少ないことが特徴的です。
・尿管に炎症が及ぶと水腎症を呈します。
診断
・SLEの診断には、多角的なアプローチが必要です。以下は主な診断手法です。
血液検査
・リンパ球減少を伴う白血球減少、貧血、血小板減少を呈することがあります。
・貧血の原因としては、骨髄抑制に加え、自己免疫性溶血性貧血や腎障害によるエリスロポイエチンの低下などが関与します。
・破砕赤血球を認める場合は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を鑑別する必要があります。
疾患活動性の評価
・SLEの疾患活動性とは、臓器障害のことを示唆します。
・「血清補体価」と「抗dsDNA抗体」は、SLEの臓器障害の程度を反映します。
・補体の低下としては、C3、C4の低下が重要です。
・よく間違われるものとして、抗dsDNA抗体ではなく抗Sm抗体が挙げられます。これは、疾患特異抗体であり、「SLEであること」を示す自己抗体です。活動性の反映はしません。
・また、血清アミロイドAや赤沈については、臓器障害ではなく、炎症反応を反映する検査値です(SLEはCRP陰性〜低値の症例でもアミロイドAや赤沈高値をとる)。しかしこれも抗Sm抗体同様に活動性は反映しません。
生化学検査
・臓器障害の種類や程度により、クレアチニン上昇や肝トランスアミナーゼ上昇を認めます。
・γグロブリンは上昇することが多いですが、ネフローゼ症候群をきたした場合には著しく低下することがあります。
・SLEでは、一般にCRPの上昇は乏しいですが、急性炎症のために増加したフィブリノーゲンやγグロブリンは陽性荷電を帯びているため赤沈値は上昇します。例外として、漿膜炎や関節炎を認める時はCRPは上昇します。
尿検査
・LNを生じると糸球体腎炎の程度を反映し、血尿・蛋白尿を認めます。血尿の赤血球形態はdysmophicです。時に赤血球円柱や白血球円柱を伴います。
・尿検査に異常はないがⅢ型やⅣ型のLNをきたしているSilent LN症例が存在します。LNで管内増殖性変化が強い場合、腎血流の低下により尿中Nan再吸収は増加します。
免疫学的検査
• 抗核抗体(ANA)検査:ほぼ全てのSLE患者で陽性となる、最も感度の高い検査。スクリーニングとしては蛍光抗体法により染色パターンを確認します。染色パターンは均質形/斑紋型が多いです。小児では2割ほどの健康な小児でもANA80倍程度の陽性を示すため、結果の判断には注意が必要です。
• 抗二本鎖DNA抗体検査(抗dsDNA抗体):疾患特異度が高く、活動性とも関連します。SLEを代表する抗体であり、疾患特異的自己抗体です。
・その他:抗Sm抗体や抗RNP抗体を認めることがあります。
さらに、患者の臨床的な症状とこれらの検査結果を総合的に評価することで診断が確定されます。また、新しい技術としてデジタルバイオマーカーを用いた診断支援も進んでおり、再燃リスク予測に役立っています。
治療
・SLEは様々な臓器病変をきたし、加えて疾患活動性を個々の症例や病期で異なる。
・このため、SLEの治療では、疾患活動性と臓器病変の程度を把握し、重症度に応じた治療を選択する必要がある。
重症度の判断
軽症例
・内臓病変を認めず、倦怠感や蝶形紅斑、関節痛のみを呈する症例は軽症例とされる。
中等症
・LNのうちISN/RPS分類でⅡ型(軽度の蛋白尿あり)やV型の症例や、漿膜炎を認める症例などは中等症として治療介入を行います。
重症
・Ⅲ型やⅣ型のLNを有する症例や、NPSLEのうち痙攣や意識障害などの臓器病変を有する症例、肺胞出血を認める症例などは、不可逆な障害を残すリスクや生命の危険があるため、重症例として治療が必要。
寛解導入療法
ステロイド療法
適応:皮疹や関節炎のみを有する軽症例では、経口プレドニン(PSL)を使用
用量:少量 PSL 5-10 mg/day(or 0.1-0.2 mg/kg/day)
中等量 PSL 20mg/day(or 0.5mg/kg/day)
中等度以上の重症度 メチルプレドニゾロンパルス療法 1-3クール
・ステロイド薬はSLE治療の中心的役割を果たしています。
・炎症を強力に抑える効果がありますが、副作用として骨粗鬆症や感染リスク増加などがあります。そのため、副作用を最小限に抑えるために早期から減量計画が立てられます。
免疫抑制療法
・免疫抑制薬にはシクロホスファミド大量静注療法(IVCY)やミコフェノール酸モフェチル(MMF: mycophenolate mofetil)などがあります。これらは特に腎炎や中枢神経障害など重篤な合併症に対して使用されます。
寛解維持療法
・寛解導入療法としてのメチルプレドニゾロンパルス療法後に、PSLによる維持療法を開始する。
ステロイド療法(PSL)
用量:PSL 0.5-1 mg/kg/day
併用薬
・PSLにアザチオプリン(AZA)やMMFなどの免疫抑制薬、ヒドロキシクロロキン(HCQ)を併用し、PSLはなるべく早期にPSL0.2mg/kg/day以下への減量を目指し、可能であれば最終的にPSL0.1mg/kg/day以下もしくはPSLの中止を目標とする。
・Ⅲ型、Ⅳ型のLNにおいて、MMFはAZAと併用して寛解維持療法としての優位性が示されている。
その他
生物学的製剤
近年では、生物学的製剤も登場し、新たな治療選択肢として注目されています。例えばBリンパ球刺激因子(BLys)に対する生物学的製剤であるベリムマブ(BEL)は、B細胞活性化因子(BAFF)を阻害し、自己抗体産生を抑制します。SLEの治療薬として2011年に米国で承認され、長期的な臓器障害の抑制効果が報告されています。2019年9月、国内でも5歳以上の既存治療で効果不十分なSLEのに対して承認されました。また、新たな研究ではTLR7/8阻害薬なども開発されており、副作用軽減を目指した治療法として期待されています。
環境管理
SLEは寛解と再燃を繰り返す疾患であり、そのため長期的な管理が必要です。再燃予防には適切な薬物療法だけでなく、日常生活でのストレス管理や紫外線対策も重要です。特に紫外線は再燃因子として知られており、日焼け止めや帽子などによる防護策が推奨されます
予防
感染予防
・ステロイドや免疫抑制薬による治療中は感染リスクが高まります。そのため、ワクチン接種や手洗い・うがいなどの日常的な感染対策も重要です。
・また、一部ではCOVID-19ワクチン接種後の免疫応答についても研究が進んでいます。
精神的なサポート
・慢性的な疾患であるため、患者には精神的サポートも不可欠です。
・心理カウンセリングや患者会への参加なども有効な手段となります。
・また、一部ではデジタルバイオマーカーによる将来予測技術が開発されており、それによって患者自身も病気との共存方法をより理解できるようになっています。
SLE母体から出生した児にみられる症状
・SLE母体から出生した児は、母からの移行自己抗体により、種々の症状をきたす。
・必ずしも出生直後から見られるわけではなく、発疹・光過敏症・血小板減少は生後数ヶ月してからも発症の可能性がある。
・房室ブロックは生直後からみられる。
・なお、母体に腎症があっても、児に腎機能障害はほとんど見られない。
まとめ
全身性エリテマトーデス(SLE)は多岐にわたる臓器障害を引き起こす難治性疾患ですが、新しい治療法と技術革新によってその管理方法は大きく進化しています。医師としては早期診断・早期介入を心掛けつつ、患者との密接なコミュニケーションを通じて最適なケアプランを提供することが求められます。また、新しい研究成果にも注目しながら、常に最新情報を取り入れていくことが重要です。
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