今回は、小児の腎臓疾患領域では、集中治療も要する急性腎障害についてまとめます。
※適切な全身管理を要する分野で、施設ごとに治療方針については様々かと思います、適時内容をアップデートしていき、情報を整理していきます。
総論
・急性腎障害(Acute Kidney Injury: AKI)は、腎機能が急激に低下する病態であり、小児においても重大な健康リスクを伴います。AKIは、血清クレアチニン値の上昇や尿量の減少によって診断され、適切な治療が行われない場合、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)や高血圧などの長期的な合併症を引き起こす可能性があります。
・また、症状の程度としては様々で、軽微な腎機能の変化から、腎代替療法を要する重症の腎機能障害まで、急性に発症するすべての腎機能障害が含まれます。
・小児におけるAKIは、成人とは異なる病因や臨床経過を示すことが多く、新生児期や乳幼児期には特有のリスク要因が存在します。特に集中治療室(ICU)に入院している小児患者では、AKIの発生率が高く、早期発見と適切な介入が重要です。
分類・原因
小児におけるAKIの原因は多岐にわたり、年齢や基礎疾患によって異なります。病態の理解や治療選択、予後推定のためには、AKIの分類・原因を特定することが重要です。以下は主な原因です。
腎前性AKI
・糸球体の還流低下が原因で発症します。小児では急性胃腸炎などの感染症に伴う脱水が原因として多いです。
・病態として、基本的に腎実質に器質的障害は認めず、適切な輸液療法や循環動態の是正で腎血流が回復し、利尿を認めれば速やかな腎機能の回復を認めます。しかし、治療開始が遷延すれば腎性AKIに進展するため注意が必要です。
循環血液量の減少
・脱水(嘔吐・下痢)
体液量が不足すると、腎臓への血流が減少し、腎機能が低下します。特に新生児や乳幼児では、体液バランスの変動が大きいため注意が必要です。
・大量出血
・熱傷
・ネフローゼ症候群
有効腎血液量の減少
・心不全
・心タンポナーデなど
全身末梢血管の拡張
・敗血症
全身的な炎症反応が腎臓にダメージを与えます。敗血症性ショックなどでは、多臓器不全の一環としてAKIが発生することがあります。
・アナフィラキシーショック
・降圧薬の使用
腎性AKI
・腎臓を構築している、糸球体、間質、腎内血管などが直接障害を受けることで発症する。
・これらのうち、尿細管が病変の主座である急性尿細管壊死の頻度が最も高い。
・腎性AKIは腎前性AKIと比較して予後が悪い。
急性尿細管壊死
・虚血
・薬剤性:抗生物質や抗がん剤など、特定の薬剤が腎毒性を持つことがあります。これらの薬剤使用時には定期的なモニタリングが必要です。
・横紋筋融解
糸球体性
・急性糸球体腎炎
・急速進行型糸球体腎炎
間質性
・間質性腎炎(特発性、感染症、薬剤など)
血管性
・溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome: HUS):特に乳幼児で発生しやすい疾患で、溶血性貧血とともに急性腎不全を引き起こします。
・血栓性微小血管症など
腎後性
・尿路の急性閉塞によって発症する。
・小児泌尿器を専門する医師と連携し、速やかに閉塞起点を解除する必要がある。
・尿路閉塞が遷延すると、腎性AKIに進展する。
尿路閉塞
・先天性腎尿路異常(CAKUT)
・結石
・神経因性膀胱など
鑑別(腎前性or腎性):FENa
・では、感染症や脱水などは今までの経過でわかりますが、実際に腎臓がダメージを受けているか、つまり腎前性と腎性かの鑑別が重要になります。
・その際に重要なのが、ナトリウム排泄分画(FENa)です。
・FENaとは、糸球体でろ過されたナトリウムのうち、尿細管で再吸収をされずに排泄されるナトリウムの割合を示します。下記の計算式で算出されます。
FENa=uNa × sCr/ sNa × uCr
uNa:尿中ナトリウム濃度
sNa:血性ナトリウム濃度
uCr:尿中クレアチニン濃度
sCr:血性クレアチニン濃度
・尿細管機能障害(急性尿細管壊死)による急性腎不全の場合、FENa >2.0%を示します。
・一方、腎前性AKIの場合は, FENa <1.0%となります。
・1.0~2.0%の場合は、腎前性・腎性AKIのどちらの病態も考慮されます。
・以下の場合は、FENaでの鑑別が困難になります。
・腎前性でFENa > 1.0%となりうる
→利尿薬の使用
・腎性でFENa > 1.0%となりうる
→発症早期や軽度の急性尿細管壊死
肝硬変や心不全で慢性的に腎血流が低下している場合
糸球体病変を主体とした急性病変の場合
・上記のような場合では、BUN/Cre, FEunを用いて総合的に評価します。FEunは糸球体で濾過された尿素窒素のうち、尿細管で再吸収されずに排泄される尿素窒素の割合を示します。利尿薬に影響されないため、利尿薬使用下で特に有用です。腎前性AKIでは <35%、腎性AKIでは >50%を示します。
診断(KDIGO基準)
・小児AKIの診断には主に「KDIGO(Kidney Disease Improving Global Outcomes)基準」が用いられています。この基準では、血清クレアチニン値(sCr)と尿量を用いてAKIを評価します。具体的には以下のようなステージ分類があります。
Stage1
• 血清クレアチニン値(sCr)が基準値より1.5-1.9倍以上上昇、または尿量が6-12時間以上0.5mL/kg/時間未満
Stage2
• 血清クレアチニン値が2-2.9倍以上上昇、または尿量が12時間以上0.5mL/kg/時間未満
Stage3
• 血清クレアチニン値が3倍以上上昇、または尿量が24時間以上0.3mL/kg/時間未満、もしくは無尿状態
・この診断基準は、小児でも成人と同様に適用されます。しかし、小児患者では成長段階による腎機能の変化も考慮する必要があります。生後3ヶ月未満の児では、未熟性や周産期因子などの特有の背景があるため、新生児修正KDIGO診断基準を参考にします。
・KDIGO基準は便利な診断基準ですが、実際の臨床現場では、尿量の正確な測定は困難な場合も多く、sCR値のみでAKIを診断することが多いです。そのため、年齢に応じた小児のsCr値を理解する必要性があります。
予防策
AKIは予防可能な疾患であり、高リスク群への適切な介入が重要です。以下は主な予防策です。
体液管理
• 適切な水分補給と電解質バランスを保つことが重要です。特に脱水やショック状態では早期の体液補正が必要です。
薬物療法
• 腎毒性を持つ薬剤(例:NSAIDs、アミノグリコシド系抗生物質など)の使用は慎重に行い、必要最小限に抑えることが推奨されます。
・また、新しいプログラムとして「NINJAプログラム」(Nephrotoxic Injury Negated by Just-in-time Action)が注目されています。これは、小児集中治療室で使用される薬剤による腎毒性を最小限に抑えるためのプログラムです。
早期発見
• 従来よりも早期にAKIを検出するため、新しいバイオマーカー(例:NGAL, KIM-1, L-FABP)が開発されています。これらは従来の血清クレアチニンよりも早く腎障害を検出できる可能性があります。
治療
AKIが発生した場合、その治療は主に支持療法となります。具体的には以下のような方法があります。
体液補充:輸液・昇圧薬
・脱水や低血圧によって引き起こされたAKIの場合には、迅速かつ適切な体液補充が行われます。
・輸液療法では、生理食塩水や乳酸リンゲル液などを使用し、ショック状態の場合には昇圧薬も併用されることがあります。
透析療法
・重度の場合には透析療法(血液透析または腹膜透析)が必要になります。
・特に新生児や乳幼児では腹膜透析が選択されることが多く、その理由として体重や循環動態への影響を最小限に抑えられる点があります。
栄養管理
・十分なカロリー摂取と栄養バランスを保つことも重要です。特に重度AKI患者では代謝亢進状態となりやすいため、高カロリー食や経静脈栄養(TPN)が推奨されます。
フロセミド負荷試験
・フロセミド負荷試験(Furosemide Stress Test: FST)は、フロセミド投与後2時間以内の尿量によってAKI進展リスクを評価する手法です。
・この試験はステージ1または2の患者で有効とされており、その結果によってさらなる治療方針を決定します。
長期的影響
AKIを経験した小児患者は、その後も慢性腎臓病(CKD)や高血圧など長期的な合併症リスクがあります。特に新生児期にAKIを発症した場合、その後の成長過程で以下の問題を抱える可能性があります。
慢性腎不全
• 特に新生児期から乳幼児期までに重度のAKIを経験した場合、その後CKDへの進展リスクがあります。このため、小児患者には定期的なフォローアップと早期介入が推奨されます。
蛋白尿・高血圧
• 成長過程で蛋白尿や高血圧など、CKD初期兆候となる症状が現れることがあります。このため、小児科医だけでなく内科医との連携も重要です。
最新研究
・近年、小児AKI分野ではさまざまな新しい研究成果が報告されています。その中でも注目されているものとして、「Renal Angina Index(RAI)」という評価ツールがあります。これは、小児ICU患者でAKI発症リスクを予測するための指標であり、高感度かつ簡便なツールとして広く導入されています。
・また、「Early vs Late Initiation of Renal Replacement Therapy in Critically Ill Patients with AKI (ELAIN)」という研究では、早期透析開始群と待機的透析開始群との比較試験結果から、早期開始群で90日死亡率が有意に低かったことが報告されています。この結果からも、小児患者でも早期介入による予後改善効果が期待されています。
参考文献
- Kidney Res Clin Pract. 2021 Mar 3;40(1):40–51. Pediatric acute kidney injury: new advances in the last decade
2. Pediatr Rev (2023) 44 (5): 265–279.
Pediatric Acute Kidney Injury: Focusing on Diagnosis and Management
3. Child Kidney Dis 2020;24:19-26
https://www.chikd.org/upload/ckd-24-1-19.pdf
4. Child Kidney Dis 2020;24(1):19-26.
Pediatric Acute Kidney Injury: Focusing on Diagnosis and Management
5. Pediatric Research volume 91, pages44–55 (2022)
Advances in pediatric acute kidney injury

6. こんなときどうする 小児腎・泌尿器疾患のみかた(中外医学社)
|
|


コメント