総論
・紫斑病性腎炎(Henoch-Schönlein purpura nephritis, HSPN)は、IgA血管炎(IgAV: IgA vasculitis, 旧称: ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)に伴う糸球体腎炎です。最近はIgA血管炎関連腎炎とも呼ばれます。
・この疾患は、主に小児に発症し、IgAという免疫グロブリンがメサンギウム領域の毛細血管壁に沈着することで引き起こされます。皮膚に現れる紫斑や関節痛、腹痛などの全身症状が特徴的で、IgAV患者の約50%が腎炎を併発します。
・HSPNは、わが国では小児人口10万人あたり1.39人の発症を認めます。
発症機序
・紫斑病性腎炎の発症には、IgA1分子の糖鎖異常が関与していると考えられています。HSPNでは、IgA1分子のヒンジ部に結合するO結合型糖鎖を構成するガラクトースが欠損する糖鎖不全IgA1(galactose deficient IgA1: Gd-IgA1)が増加しています。Gd-IgA1は自己凝集能が高く多量体を形成するほか、IgGと結合して免疫複合体を形成し、またメサンギウム基質との粘着性も高い性質を有します。そして、補体が活性化され、サイトカイン、ケモカインの産生亢進を介して腎炎病態を惹起するとされます。
・この異常により免疫複合体が形成され、小血管壁に沈着して炎症を引き起こします。また、上気道感染症などの感染が誘因となる場合も多く、特に秋から冬に発症が多い傾向があります。
・そのほか、薬剤(抗菌薬、アスピリンなど)、アレルギー(虫刺症など)との関連も示唆されています。
症状
紫斑病性腎炎では、以下のような特徴的な症状が見られます。
皮膚症状
・下肢を中心とした紫紅色~暗紫色の点状出血斑(=紫斑)が必ず出現します。
関節痛
・軽度の腫脹を伴う関節痛が約80%に見られます。
腹痛
・便に血液が混じることもある激しい腹痛が約60%で認められます。
・凝固検査で第ⅩⅢ因子の低下を認めることが、IgAVで腹部症状を伴うケースでは多いです。
腎症状
・血尿や蛋白尿が主な所見で、多くは無症状ですが、ネフローゼ症候群や急性腎炎症候群を呈する場合もあります。ネフローゼ症候群と腎機能障害を合併する症例(nephrotic+nephritic)は予後不良です。
・急性期の症状から遅れて出現することが多く、85%が発症後4週まで、91%が6週までに、97%が6ヶ月までに出現します。そのためIgAV発症から少なくとも6-12ヶ月は定期的に血圧および早朝尿検査の評価を継続する必要があります。
・血液検査では、白血球増多や好中球増多、血小板増多は腎炎発症のリスク因子です。
診断基準
IgAVの診断基準
米国リウマチ学会(ACR)の診断基準(1990)では、以下の4つのうち2つ以上を満たす場合にIgA血管炎と診断されます。
1. 隆起性の紫斑
2. 急性腹部疝痛
3. 小動静脈血管壁の顆粒球浸潤(生検所見)
4. 発症年齢20歳以下
HSPNの診断
・腎炎の診断には尿検査で血尿や蛋白尿を確認し、必要に応じて腎生検を行います。生検ではIgAのメサンギウム領域への沈着が確認されます。
腎生検適応
・高度蛋白尿
・ネフローゼ症候群(血清アルブミン<2.5 g/dL)
・急性腎炎症候群(高血圧もしくは血清クレアチニン値上昇)
・急速進行性腎炎(数日、数週間の単位で血清Cr値上昇が進行するもの)
…などの症例が適応。
光学顕微鏡所見
・国際小児腎臓病研究班(International Study of Kidney in CHildhood: ISKDC)による組織分類により重症度を評価する。
GradeⅠ:微小変化
GradeⅡ:メサンギウム増殖のみ
GradeⅢ:a)巣状, b)びまん性メサンギウム増殖, 半月体形成<50%
GradeⅣ:a)巣状, b)びまん性メサンギウム増殖, 半月体形成50-75%
GradeⅤ:a)巣状, b)びまん性メサンギウム増殖, 半月体形成>75%
GradeⅥ:膜性増殖性腎炎様
治療法
軽症例:ISKDC分類GradeⅠ/Ⅱ
・血尿のみや軽微な蛋白尿の場合は経過観察が基本です。治療介入は行わず、定期的な尿検査で状態をモニタリングします。
・または、抗血小板薬やレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬、ACE-I(ACE阻害薬)、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)が用いられることもあります。しかし使用する際は、病勢をマスクする可能性があるため注意する。
エナラプリル(ACE-I):生後1ヶ月以上 0.08 mg/kg/日、分1 (最大10mg/日)
カンデサルタン(ARB):1-5歳 0.05-0.3mg/kg/日, 6歳以上 2-8mg/kg/日 分1 (最大12mg/日)
バルサルタン(ARB):6歳以上 35kg未満 20mg, 35kg以上 40mg 分1(最大160mg/日)
アジルサルタン(ARB):6歳以上 50kg未満 2.5mg, 50kg以上 5mg, 分1 (最大40mg/日)
・治療に対する反応性が不良な場合は、中等症に対する治療を考慮する。
中等症例:GradeⅢa
・中等度蛋白尿(0.5~1.0g/gCr)では、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS阻害薬)や抗血小板薬を使用します。また、ステロイド薬と免疫抑制薬との併用療法も考慮されます。
・6か月以上蛋白尿が持続する場合には腎生検を考慮します。
重症例:GradeⅢb, Ⅳ, V
高度蛋白尿(1.0g/gCr以上)、ネフローゼ症候群(血清Alb < 2.5g/dL: 1ヶ月異常持続)、高血圧、または腎機能低下を伴う場合には積極的治療が必要です。以下の治療法が用いられます。
• ステロイド療法:ステロイドパルス療法や内服ステロイド
ステロイドパルス:メチルプレドニゾロン 30mg/kg/日、3日間(最大量1000mg/日)
• 免疫抑制薬:シクロスポリンやミコフェノール酸モフェチル(MMF)
ミゾリビン:5mg/kg/日、分1(最大150mg/日)
シクロスポリン:2.5-5mg/kg/日、分2(最大150mg/日)
タクロリムス:0.1mg/kg/日、分1-2(最大3mg/日)
アザチオプリン:1-2mg/kg/日、分1(最大100mg/日)
シクロホスファミド:2-2.5mg/kg/日、分1、8-12週間(最大100mg/日)
ミコフェノール酸モフェチル:20-40mg/kg/日、分2(最大800mg/日)
• 扁桃摘出術+ステロイドパルス療法:IgA腎症で有効とされる治療法が一部適用されることがあります。
• 血漿交換療法:重篤な急性腎不全例で適応される場合があります。
予後と再発リスク
紫斑病性腎炎の予後は比較的良好ですが、一部で再燃や持続的な蛋白尿・血尿が見られます。特に成人発症例では重症化しやすく、末期腎不全へ進行するリスクもあります。ISKDC分類でGrade IIIb以上の場合には約20%が末期腎不全へ移行するとされています。
小児期発症IgA腎症の予後不良因子
・高度蛋白尿持続:最も重要な予後因子
・高血圧合併
・腎機能障害
・病理組織:半月体形成の割合が高い、びまん性メサンギウム増殖
日常生活での注意点
患者は初期には安静を保つことが重要です。治癒後は通常の日常生活を送ることが可能ですが、以下の場合には注意が必要です。
• 蛋白尿や高血圧が持続する場合には食事療法や降圧薬治療を行います。
• 定期的な検尿と血圧測定を継続し、異常値が認められた場合には早期対応します。


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