総論
・IgA腎症は、全身性エリテマトーデス(SLE)や血管性紫斑病などの全身性疾患を伴うことなく、糸球体メサンギウムにIgA(免疫グロブリンA)がびまん性に沈着することを特徴とする糸球体腎炎です。
・特に小児では、学校検尿などで血尿や蛋白尿が発見されることが多く、慢性的な腎障害を引き起こすことがあるため、早期診断と適切な治療が予後を大きく左右します。
・本記事では、小児IgA腎症について、最新のエビデンスを基に解説します。
背景
・小児IgA腎症は、日本を含むアジア諸国で高い頻度で見られます。
・発症には遺伝的要因や環境要因が関与していると考えられており、特に上気道感染後に血尿が悪化するケースが多いです。
→IgA腎症の患者には何らかの遺伝的素因が存在し、抗原暴露に対してIgAの過剰産生が起こり、IgA分子の異常も加わって高分子IgA免疫複合体が形成、この免疫複合体が糸球体メサンギウム領域に沈着し、メサンギウム増殖を起こすためと考えられている。
症状
以下のような症状が特徴的です。
- 血尿:顕微鏡的血尿または肉眼的血尿が最も一般的です。
- 蛋白尿:軽度から中等度の蛋白尿を伴うことがあります。
- 浮腫:進行例では浮腫や高血圧を認めることもあります。
臨床兆候上の分類
・IgA腎症の臨床兆候は、概ね3群に分類される。
無症候性血尿・蛋白尿
・約7割はこの分類で、学校検尿などで学研される。
・血尿はほぼ前例でみられ、蛋白尿を伴う症例が多い。
反復性肉眼的血尿
・本邦では、肉眼的血尿での発症は、小児期IgA腎症の20-30%
・しかし、欧米では小児期IgA腎症の80%は肉眼的血尿で発症し、上気道感染に伴う反復性肉眼的血尿を特徴とすることが多い。
急性腎炎症候群・ネフローゼ症候群
・小児期IgA腎症の約10%は血尿蛋白尿に高血圧・腎機能低下を伴う急性腎炎症候群、高度蛋白尿と低蛋白血症を伴うネフローゼ症候群の病態で、急性発症する。
診断
・IgA腎症は、IgAがメサンギウムに、びまん性に最も強く沈着している所見より診断される。
・しかし、IgAのメサンギウムへの沈着は、SLE、血管性紫斑病、慢性肝疾患などの全身性疾患でもみられるため、これらの全身性疾患を除外して診断する。
尿検査と血液検査
- 尿検査:持続性の血尿や蛋白尿が診断の手がかりとなります。円柱も高頻度。
- 血液検査:IgA値の上昇や腎機能(eGFR)の評価が行われます。小児の約15%の症例で血性IgAの上昇を認める。血性補体価、抗DNA抗体、ASO値は正常。
腎生検の重要性
・確定診断には腎生検が必要です。病理学的には、糸球体メサンギウム領域へのIgA沈着が特徴的です(蛍光抗体法所見)。
・光学顕微鏡で最も特徴的な所見は、メサンギウム増殖。程度により、①微小糸球体変化、②巣状メサンギウム増殖、③びまん性メサンギウム増殖に分類される。メサンギウム増殖以外に、半月体、Bowman嚢と糸球体係蹄の癒着、分節性硬化などの巣状糸球体病変もよくみられる。
・近年では、電子顕微鏡による詳細な観察も行われています2。
治療
・小児のIgA腎症の初期には、メサンギウム基質は少なく、基質が増加し硬化性病変を形成する前の早期に治療を開催するべきである。
薬物療法
・軽症例にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)、または柴苓湯を使用。
・重症例には、プレドニゾロン+アザチオプリン、またはミゾリビン+ワルファリン+ジピリダモールによる多剤併用療法が有効で、腎炎の進行を阻止し、予後を改善する。
- ステロイド療法
- ステロイドパルス療法は、特に重症例で有効性が示されています4。
- 小児では副作用への配慮が重要です。また多剤併用との優越性を示した比較臨床試験はない。
- 免疫抑制剤
- シクロスポリンやタクロリムスなど、免疫抑制剤の併用も検討されます。
- RAS阻害薬
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、蛋白尿の減少と腎保護効果があります3。
軽症例の治療
柴苓湯:体重>40kg 3包 分3、20-40kg 2包 分2、<20kg 2包 分2
リシノプリル:0.4mg/kg/day 分1(最大×20mg/day) ×24ヶ月
重症例の治療
高度蛋白尿(早朝尿蛋白クレアチニン比が1.0以上)
びまん性メサンギウム増殖(WHO)、または半月体>30% 糸球体
プレドニゾロン+アザチオプリン or ミゾリビン+ジピリダモール+ワルファリンのカクテル療法
プレドニン
2mg/kg/日(分3) (最大80mg) ×1ヶ月
2mg/kg/2日(分1) ×1ヶ月
1.5mg/kg/2日(分1) ×1ヶ月
1mg/kg/2日(分1) ×21ヶ月
アザチオプリン:2mg/kg/日(分1) ×24ヶ月
または
ミゾリビン:4mg/kg/日(分2) ×24ヶ月
ジピリダモール:6-7mg/kg/日(分3) (際300mg/日) ×24ヶ月
ワルファリン:トロンボテストが30-50%になる量を投与 ×24ヶ月
生活指導
- 塩分制限や適切な水分摂取は、腎機能維持に重要です。
- 運動制限は通常不要ですが、高度な蛋白尿を伴う場合には慎重な対応が求められます。
予後と長期管理
リスク因子と予後
研究によれば、小児IgA腎症でも以下のリスク因子が予後不良と関連します1
- 持続的な蛋白尿(>1 g/日)
- 高血圧
- 腎機能低下(eGFR <60 mL/min/1.73 m²)
これらの因子を早期にコントロールすることで、慢性腎不全への進行を抑えることが可能です。
フォローアップ
・定期的な尿検査と血液検査によるモニタリングが必要です。特に蛋白尿や血圧管理は長期的な視点で行うべきです2。
・治療目標:尿蛋白/尿クレアチニン比0.2 以下
・蛋白尿が持続する限り、IgA腎症は進行していく。
参考文献
- Nephrol Dial Transplant. 2012 Apr;27(4):1479-85. doi: 10.1093/ndt/gfr527. Epub 2011 Sep 29.
Long-term renal survival and related risk factors in patients with IgA nephropathy: results from a cohort of 1155 cases in a Chinese adult population(IgA 腎症患者における腎の長期生存および関連する危険因子: 中国の成人集団における 1155 例のコホートからの結果)

2. エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン2020
https://jsn.or.jp/academicinfo/report/evidence_IgA_guideline2020.pdf
3. 多剤併用療法前にステロイドパルス療法を施行した小児IgA 腎症の腎予後に関する検討
日本小児腎臓病学会雑誌 32 巻 (2019) 1 号
4. 小児腎臓病学 改訂第2版


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