総論
・ループス腎炎(Lupus Nephritis: LN)は、全身性エリテマトーデス(SLE)の主要な臓器病変の一つであり、腎臓に炎症を引き起こす疾患です。
・SLE患者の約50%がループス腎炎を発症するとされ、その多くはSLE診断後5年以内に発生します。
・適切な治療が行われない場合、慢性腎不全や末期腎疾患(ESKD)に進行するリスクがあります。腎予後は生命予後にも関係します。
・ループス腎炎は、早期診断と適切な治療が予後に大きく影響します。治療の遅れや不十分な管理は、生命予後や生活の質(QOL)に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
・また、免疫抑制療法による感染症や骨粗鬆症などの副作用も考慮する必要があります。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31974366
・SLEにに関しては以前のブログ記事参照です!
ループス腎炎の症状・診断
主な症状
- 尿異常:血尿や蛋白尿が初期症状として現れることが多いです。しかし、血尿や蛋白尿を認めない「silent LN」も認められます。
- 浮腫:特に顔や足にむくみが出ることがあります。
- 高血圧:腎機能低下に伴い血圧が上昇することがあります。
- 全身症状:倦怠感、体重減少、発熱など。
診断方法
尿検査
・蛋白尿や血尿の有無を確認します。
血液検査
・抗核抗体(ANA)や抗dsDNA抗体など、SLE特有の自己抗体を測定します。
・また、補体価や赤沈は治療効果や活動性評価に用いられます。血清補体価の低下は腎炎の存在や進行を示唆し、著しい低下はSLEの高い疾患活動性を表しています。赤沈の亢進は慢性炎症を示唆します。
腎生検
・病変の分類と活動性・慢性度を評価するために行われます。国際腎臓学会(ISN)/腎病理学会(RPS)の分類に基づき、病変は6つのクラスに分けられます。
蛍光抗体直接法(免疫染色)
・IgG、IgA、IgM、C3、C1qすべてが陽性となるfull house patternが特徴的。
電子顕微鏡所見
・沈着物の電子密度が高いことや、細管状構造およびそれがカーブした指紋様構造、tubuloreticular inclusionとよばれる構造物が特徴的とされる。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29459092
分類
・以下は、2003年に発表されたISN/RPS(International Society of Nephrology/Renal Pathology Society)によるループス腎炎の分類を表形式でまとめたものです。この分類は腎生検に基づき、糸球体病変を中心に評価されます。
| クラス | 説明 | 病理学的所見 | 臨床所見 | 腎予後 |
|---|---|---|---|---|
| I | 微小メサンギウム病変 | 光学顕微鏡では正常。ただし、免疫蛍光や電子顕微鏡で免疫複合体が検出される場合あり | 臨床症状なし | 優良 |
| II | メサンギウム増殖性 | メサンギウム内に免疫複合体の沈着とメサンギウム細胞の過形成が認められる | 顕微鏡的血尿や蛋白尿がみられる場合あり | 優良 |
| III | 巣状(focal) | 糸球体の50%未満において、内皮細胞および外被細胞の増殖、炎症がみられる(通常は分節性分布) | 血尿や蛋白尿、高血圧、ネフローゼ症候群、血清クレアチニン上昇がみられる場合あり | 変動 |
| IV | びまん性(diffuse) | 糸球体の50%以上において、内皮細胞および外被細胞の増殖、炎症がみられる | 血尿や蛋白尿、高血圧、ネフローゼ症候群、血清クレアチニン上昇が頻繁にみられる | 変動 |
| V | 膜性(membranous) | 糸球体基底膜の肥厚とともに、上皮下および膜内への免疫複合体沈着が認められる | ネフローゼ症候群が主。時に顕微鏡的血尿や高血圧。血清クレアチニンは通常正常またはわずかに上昇 | 不明確 |
| VI | 高度硬化性(advanced sclerosing) | 糸球体毛細血管の90%以上が硬化している | 尿沈渣は無害。末期腎疾患または徐々に進行する血清クレアチニン上昇がみられる | 不良 |
・小児LN腎生検例における各組織型の頻度は、Ⅰ型2.9%、Ⅱ型14.4%、Ⅲ型10.6%、Ⅳ型67.3%、Ⅴ型4.8%と報告されている。
ループス腎炎の病態生理と新たな研究
病態生理:自己免疫反応による損傷
・ループス腎炎は、自己免疫反応によって引き起こされる複雑な病態生理を持ちます。
・免疫複合体が糸球体基底膜に沈着し、補体活性化や炎症反応を通じて組織損傷を引き起こします。
最新研究:Pim-1阻害剤とIL-33中和
・近年、Pim-1というリン酸化酵素がループス腎炎の進行に関与していることが示されました。この酵素を阻害することで、蛋白尿や糸球体炎症が改善される可能性があります。
・また、IL-33中和によるT細胞調節も新たな治療ターゲットとして注目されています。
参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24398614
治療法
腎病変は早期診断・早期治療が推奨されている。
治療目標は、treat-to-target(T2T)に示されているように、全身症状と臓器障害の寛解。
腎炎では、寛解導入後3年間は維持療法を行うことが目標。
寛解導入
・小児SLE診療の手引をもとにした各薬剤の投与量・方法をまとめる。
ステロイド薬
・LNⅢ型やⅣ型の高リスク群SLEに分類される例は、ステロイドパルス療法を行う。
メチルプレドニゾロン 15-30mg/kg (最大1g/日) 3日間/1クール total 2-3クール
後療法:経口プレドニゾロン(PSL) 0.8-1.0 mg/kg/day
・LNⅡ型やⅤ型の中等度リスク群に分類される例は、1-2クールのステロイドパルス療法後に経口PSL 0.7-0.8mg/kg/dayで行う。
シクロホスファミド(cyclophosphamide: CPM)
・小児SLE診療手引きでは、経静脈CPM療法は、1回500mg/㎡を4週ごとに7回、以降3ヶ月毎に2回の1年コースを投与の目安としている。
・Euro-Lupus-Nephritis trialでは、総CPM量を減らし、アザチオプリン(azathioprine: AZP)を寛解維持に用いても、従来の治療と同等の寛解導入効果があり、副作用は少なかったと報告されている。
ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil: MMF)
・本邦では、2015年に1歳以上のLNに対して保険適用となった。
・投与量:150-1200 mg/㎡/day から開始、適宜増量。(小児最大量 2g/day)
タクロリムス(tacrolimus: Tac)
・2015年、マルチターゲット療法としてタクロリムスとMMF併用による治療が、経静脈CPM標準療法と比べて尿蛋白0.4g/日 未満の達成率が高く、達成にいたる期間も短いことが報告された。しかし観察期間は短く脱落者も多かったため、小児例の知見の集積が必要である。
・投与量:0.05-0.15 mg/kg/日 (トラフ値 3-5 ng/mL となるように調整)
新規治療薬
上記の寛解導入に有効とされる治療でも、増殖性LNの治療開始半年後時点における寛解率は50%程度である。また寛解導入が遅くなると、慢性腎臓病/慢性腎不全(CKD/ESKD)のリスクとなる。このため新たな治療の選択肢の必要性があり、近年下記の薬剤が注目されている。
ベリムマブ(belimumab: BEL)
・SLEに対する治療効果は、BLISS-56, BLISS=72の2つの臨床試験において証明された。
・その後、BLISS-LNで、重症活動性LNに対するRCTが行われ、従来の治療よりも寛解導入効果が高いことが示された。
・本邦では、2019年に、5歳以上の小児SLEのへの適応が追加された。
ボクロスポリン(voclosporin: VCS)
・新規カルシニューリン阻害薬(calcineurin inhibitor: CNI)で、シクロスポリンアナログ製剤である。
・他のCNIに比べて代謝物の消失は速く蓄積しない特徴があり、血中濃度の測定が不要である。
・AURORA1試験においてMMFとの併用でプラセボ群と比較して寛解導入率は高く、副作用は同等であった。
・2021年に寝異国食品医薬品局(FDA)の認可がおりた。
リツキシマブ(rituximab: RTX)
・SLE、LNにに対するLUNAR試験およびEXPLORER試験において、抗dsDNA抗体価の低下などを認めたが、疾患活動性の有意な改善を示すことができなかった。この背景として、リツキシマブで排除できないrituximab抵抗性CD20陽性細胞のLNに関する作用も一因と考えられている。
・治療抵抗性のLNに対して適応。
オビヌツズマブ(obinutuzumab)
・新たに開発された抗CD20モノクローナル抗体。
・LNに対するNOBILITY試験が実施されており、実臨床への応用が期待される。
患者管理と予防
●生活習慣改善
患者には以下のような生活指導が推奨されます。
- 塩分制限による高血圧管理
- 定期的な尿検査・血液検査による早期異常発見
- 感染予防策(ワクチン接種など)
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