・遷延する発熱と頸部リンパ節腫脹を主訴に来院する患者さんが来た時、鑑別リストには、ウイルス感染症、細菌性リンパ節炎、川崎病、そして悪性リンパ腫などが常に挙げられるでしょう。
・しかし、忘れてはいけない鑑別疾患に、菊池氏病(Kikuchi-Fujimoto Disease: KFD)、またの名を、組織球性壊死性リンパ節炎(Histiocytic Necrotizing Lymphadenitis: HNL)というものがあります。
総論
- 菊池病とは、発熱、有痛性頚部リンパ節腫脹を主症状として約3週間から1ヶ月の経過で、自然に軽快するself-limited diseaseである。
- 組織球性壊死性リンパ節炎、亜急性壊死性リンパ節炎とも呼称される。
- 1972年に日本の菊池、藤本両博士によって初めて報告されたため、菊池病とも呼ばれます。
- 小児における原因不明熱(Fever of Unknown Origin: FUO)や頸部リンパ節腫脹の一般的な原因の一つとして重要です。
- ある研究では、良性の頸部リンパ節症例の実に41.6%を菊池氏病が占めていたとの報告もあり、もはや稀な疾患とは言えない状況です
- Kikuchi-Fujimoto disease: a rare but important cause of lymphadenopathy (Acta Paediatr. 2003;92(2):261-4. doi: 10.1111/j.1651-2227.2003.tb00539.x.)

2. Recurrence of Histiocytic Necrotizing Lymphadenitis in Children: A 10-year Multicenter Retrospective Study (J Inflamm Res. 2025 Mar 24;18:4307–4318.)
疫学
発症年齢
・従来、菊池氏病は若年成人に多い疾患とされてきましたが、近年、小児期における診断報告が著しく増加しています 。
・複数の研究報告をまとめると、小児における平均発症年齢は9.4歳から11.0歳の範囲にあり、学童期から思春期早期の患児が中心となることが分かります
Characteristics of Kikuchi-Fujimoto disease in children compared with adults (Eur J Pediatr. 2014 Jan;173(1):111-6. doi: 10.1007/s00431-013-2131-3. Epub 2013 Aug 17.)

Clinical features of histiocytic necrotizing lymphadenitis in children (Eur J Pediatr. 2024 Mar;183(3):1333-1339. doi: 10.1007/s00431-023-05391-5. Epub 2023 Dec 23.)

Kikuchi-Fujimoto disease with prolonged fever in children (Pediatrics. 2004 Dec;114(6):e752-6. doi: 10.1542/peds.2004-0485. Epub 2004 Nov 15.)

性差
・本疾患の最も特徴的な疫学データの一つが、年齢によって性差が逆転する点です。成人では女性に多く(女性:男性が約2:1)、特に若い女性の疾患というイメージが強いかもしれません 。
・しかし、小児期、特に思春期前においては、この関係が逆転し、男児に多い傾向が複数の研究で一貫して示されています(男児:女児が約1.4:1から2.2:1)。ただし、同じ小児でも思春期(adolescents)に限定すると、再び女児の割合が増加するという報告もあり、非常に興味深い現象です 。
Characteristics of Kikuchi-Fujimoto disease in children compared with adults (Eur J Pediatr. 2014 Jan;173(1):111-6. doi: 10.1007/s00431-013-2131-3. Epub 2013 Aug 17.)

Clinical features of histiocytic necrotizing lymphadenitis in children (Eur J Pediatr. 2024 Mar;183(3):1333-1339. doi: 10.1007/s00431-023-05391-5. Epub 2023 Dec 23.)

A clinical study of histiocytic necrotizing lymphadenitis (Kikuchi’s disease) in children (Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2008 Nov;72(11):1637-42. doi: 10.1016/j.ijporl.2008.07.019. Epub 2008 Sep 11.)

人種
・菊池氏病は、世界中で報告されていますが、特にアジア系の若年層で多く報告される傾向があります 。
・日本で最初に報告された疾患であることからも、遺伝的背景や環境要因の関与が推測されています。
Clinical features and recurrence predictors of histiocytic necrotizing lymphadenitis in Chinese children (Pediatr Rheumatol Online J. 2024 Jun 11;22:61. )
病因
- 原因は不明だが感染症が疑われている
- パルボウイルスB19、トキソプラズマ、EBウイルス、ヒトヘルペスウイルス6型・8型など
- 病理像では、病変リンパ節は傍皮質領域の凝固壊死像であり、リンパ球やCD68(+)の組織球にnuclear debrisとよばれる核崩壊産物がみられるが、好中球や形質細胞はほとんどみられない。
症状
・菊池氏病の臨床像は、多くの小児が経験する一般的な感染症と類似しており、これが初期診断を難しくする一因です。典型的な三主徴は「発熱」「リンパ節腫脹」「全身倦怠感」です。
発熱
・発熱は最も一般的な症状であり、ほぼ全ての患者(98.9%)で認められます 。多くの場合、38.5℃を超える高熱で、解熱剤への反応が悪いことも少なくありません。
・そして、最大の特徴は発熱が遷延することです。複数の報告を総合すると、入院前からの発熱期間の中央値が13日、発熱の総期間は19.5日から25.6日にも及ぶとされています 。特に、ピーク体温が40℃以上に達するような高熱は、より長い発熱期間と関連する可能性が指摘されており、臨床経過を予測する上での一つの指標となり得ます 。
頚部リンパ節腫脹
・発熱と並び、必発の症状です。最も多いのは頸部リンパ節腫脹で、患者の90%以上で認められます 。通常、片側性で、後頸部リンパ節に好発します。
・小児におけるリンパ節腫脹の特徴として、成人と比較して圧痛を伴うことが多い(小児69% vs 成人44%)点が挙げられます 。一方で、腋窩や鼠径など、複数の領域に及ぶ全身性のリンパ節腫脹は、成人と比べて少ない傾向にあります(小児1% vs 成人8%)。
・頸部リンパ節は数珠状に腫大しており、弾性硬であり、移動性がある。
Recurrent lymphadenopathy in children with Kikuchi-Fujimoto disease (Eur J Pediatr. 2014 Sep;173(9):1193-9. doi: 10.1007/s00431-014-2306-6. Epub 2014 Apr 9.)

・この「高熱」と「有痛性の頸部リンパ節腫脹」という組み合わせは、臨床現場で最も頻繁に遭遇する急性細菌性リンパ節炎(例:黄色ブドウ球菌、A群溶連菌によるもの)の典型像と酷似しています。そのため、多くの症例で初期治療として抗菌薬が投与されます。しかし、菊池氏病は細菌感染ではないため、抗菌薬には全く反応しません。
・したがって、臨床における重要な判断ポイントは、「適切な抗菌薬治療を開始したにもかかわらず、48~72時間経過しても解熱傾向が見られない」という事実です。この時点で漫然と抗菌薬を継続・変更するのではなく、一度立ち止まり、鑑別診断のリストの上位に菊池氏病を挙げて診断方針を再考することが、診断の遅れを防ぐ鍵となります。
全身症状
・発熱やリンパ節腫脹に伴い、倦怠感、体重減少、寝汗といった全身症状が認められることもあります 。これらの非特異的な症状は、特に悪性リンパ腫との鑑別を困難にする要因となります。
Laboratory diagnosis of 44 cases of pediatric histiocytic necrotizing lymphadenitis (Front Pediatr. 2025 Aug 28:13:1638239. doi: 10.3389/fped.2025.1638239. eCollection 2025.)

検査
血液検査
- 2週間から1ヶ月に及ぶ長引く発熱、肝機能障害、風疹様発疹、白血球減少、血小板減少を呈し、時に血球貪食症候群を併発する。
- 最も特徴的な所見の一つが白血球減少(Leukopenia)で、患者の50%から68.9%で認められます 。特に好中球の減少が主体となることが多いです。白血球数は増減するので、1回の検査では判断しない方が良い。
- 炎症マーカーでは、ESR(赤沈)の著明な亢進(77.3-96.9%)が見られる一方で、CRPはESRほどには上昇しないことがある、というのも特徴的なパターンです 。
- その他、LDHの上昇も高頻度(86.4-90.9%)に認められ、悪性リンパ腫との鑑別を難しくします 。
- 一部の患者では、後述するSLEとの関連を反映し、抗核抗体(ANA)が陽性となることがあります
病理検査
- 確定診断には病理的検査が必要だが、検査の侵襲度を考えると、行わないで臨床的に診断するケースも多いだろう。
- 臨床所見と検査所見を総合的に判断し、充分な除外診断のもと臨床的診断を行う。
- 病理組織学的には、リンパ節の傍皮質領域(paracortical area)に認められる、地図状・斑状の壊死巣が特徴です。壊死巣には、細胞核が崩壊して生じる核崩壊片(karyorrhexis)が豊富に見られ、その周囲を組織球(histiocytes)や形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cells)が取り囲んでいます。
- そして、本疾患を他の疾患から鑑別する上で最も重要な病理学的特徴は、壊死巣に好中球や好酸球の浸潤がほとんど見られないことです 。この「好中球なき壊死(necrosis without neutrophils)」こそが、細菌感染による化膿性リンパ節炎との決定的な鑑別点であり、菊池氏病の病理診断の根幹をなす所見です。
Pediatric Kikuchi-Fujimoto Disease: Case Report and Review of Cutaneous and Histopathologic Features in Childhood (Dermatopathology (Basel). 2025 Feb 13;12(1):7. doi: 10.3390/dermatopathology12010007.)

画像所見
・頸部超音波検査は、リンパ節の大きさ、形状、内部エコー、血流などを評価するのに有用な非侵襲的検査です。腫大したリンパ節や低エコー結節が描出されます 。
- 頸部造影CTでは、罹患リンパ節周辺部の脂肪組織の造影効果不良が特徴的。リンパ節自体は、結節性の軟部組織密度陰影として捉えられます。
- MRI画像では、T2強調で罹患リンパ節の均一化した低信号、T1強調で軽度高信号がみられる。
- これらの画像検査は、リンパ節腫脹の範囲を確認したり、生検に適したリンパ節を選定したりするのに役立ちますが、画像のみで確定診断はできません。
鑑別診断
- リンパ腫、伝染性単核球症、化膿性リンパ節炎、結核性リンパ節炎、猫ひっかき病、HIV感染症、川崎病、全身型若年性特発性関節炎、SLE(頸部リンパ節腫張を初発とすることがある。)など
- SLEも考慮し、自己抗体の検査も行う。
診断へのアプローチ:確定診断に至るまでのステップ
・菊池氏病の診断は、特徴的な臨床像と検査所見から本疾患を疑い、最終的にリンパ節生検で確定するという段階的なプロセスを辿ります。
鑑別診断の重要性
・前述の通り、菊池氏病の症状は非特異的であり、多くの疾患との鑑別が極めて重要です。
・特に、治療方針が全く異なり、予後を大きく左右する悪性リンパ腫との鑑別は最優先事項です
・その他、伝染性単核球症(EBウイルス)などのウイルス感染症、細菌性リンパ節炎、そして全身性エリテマトーデス(SLE)などが主要な鑑別疾患となります 。
・日常診療でこれらの疾患を整理し、鑑別を進める一助として、以下の表をご参照ください。

治療
菊池氏病の治療方針は、その経過と重症度に基づいて決定されます。
基本方針:対症療法
・菊池氏病は、基本的には数週間から数ヶ月で自然に軽快する自己限定性の疾患です 。
・したがって、治療の基本は、発熱やリンパ節の痛みに対する対症療法となります。
・具体的には、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられます 。ある研究では、治療介入なしで自然に軽快した症例も18.2%報告されており、全ての症例に積極的な治療が必要なわけではないことがわかります
ステロイド治療の適応
・一方で、症状が重篤な場合(40℃以上の高熱が続く、強い全身倦怠感で経口摂取が困難など)、症状が数週間にわたり遷延する場合、あるいは後述する再発を繰り返す症例では、ステロイド(グルココルチコイド)の投与が考慮されます。
・ ステロイドのルーチンでの使用は推奨されていませんが 、適応となる症例に投与した場合、しばしば解熱やリンパ節腫脹の縮小といった劇的な症状改善をもたらすことが報告されています
- プレドニゾロン 1-2mg/kg/day 内服
合併症
自己免疫疾患との関連:SLE
・菊池氏病の予後を考える上で、再発と並んで重要なのが、全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとする自己免疫疾患との関連です 。
・菊池氏病がSLEに先行して発症する、同時に発症する、あるいはSLEの経過中に出現するなど、様々な形で関連することが報告されています 。
・特に、初診時に抗核抗体(ANA)が陽性であった症例では、将来的なSLEへの移行に注意が必要とされています 。
血球貪食性リンパ組織球症(HLH)
・また、稀ではありますが、致死的となりうる重篤な合併症として、血球貪食性リンパ組織球症(Hemophagocytic Lymphohistiocytosis: HLH)を発症することがある点も忘れてはなりません 。
・急激な血球減少、高フェリチン血症、肝機能障害の進行などが見られた場合は、速やかにHLHを念頭においた精査と治療介入が必要です。
予後
- 予後は良好。
- 単周期の場合は問題なし。
- しかし、小児においては「再発」という問題が、成人以上に深刻であることが最新の研究で明らかになってきました。
再発
従来、菊池氏病の再発率は3~4%程度と、比較的低いと考えられてきました 。しかし、これは主として成人を対象としたデータであり、小児では実態が異なるとの指摘が以前からありました。
・近年の5つの病院にまたがる593例の小児を対象とした大規模な多施設共同研究では、より信頼性の高いデータが示されました。この研究における全体の再発率は14.8%でしたが、重要なのは、追跡期間が長くなるにつれて累積再発率が上昇し続けるという点です。具体的には、1年後の累積再発率は8.7%、5年後には20.0%、そして9年後には32.2%に達しました 。つまり、小児の菊池氏病患者の約3人に1人が、10年近い経過の中で再発を経験する可能性があるのです。
Recurrence of Histiocytic Necrotizing Lymphadenitis in Children: A 10-year Multicenter Retrospective Study (J Inflamm Res. 2025 Mar 24;18:4307–4318. )
まとめ
・本記事では、最新の知見に基づき、小児の菊池氏病について多角的に解説しました。最後に、本疾患を診療する上での重要なポイントを改めてまとめます。
- 小児の菊池氏病は「稀な疾患」ではなく、原因不明熱やリンパ節腫脹を呈する患児において、常に考慮すべき重要な鑑別疾患です。
- 診断の鍵は、特徴的な臨床像(遷延性発熱、有痛性頸部リンパ節腫脹、白血球減少)を認識し、抗菌薬不応性を確認した上で、最終的にはリンパ節生検による「好中球なき壊死」の証明にあります。
- 治療は対症療法が基本ですが、重症例、遷延例、再発例にはステロイドが有効です。
- SLEとの強い関連性から、症状が軽快した後も、自己免疫疾患の発症を念頭においたフォローアップが不可欠です。


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