Chief Complaint
午後のとある小児科外来…。
小学校低学年くらいまでは良く風邪をひいていたが、それ以降元気であまり見ていなかったかかりつけのお子さんが久しぶりに受診。
15歳、女児。BT38.5℃
咽頭発赤。頸部リンパ節腫大あり。
「のど痛がって、ごはん食べなくなったんです」
「お腹のところ、すこしはれてる?」
Introduction
・今回は、若年層に多く見られる伝染性単核球症について、最新の医学知見を交えて詳しく解説します。
・伝染性単核球症は、エプスタイン・バーウイルス(EBウイルス)の初感染によって引き起こされる感染症です。10代後半から20代の若者に多く見られることから「キス病」とも呼ばれていますが、これは誤解を招く呼称であり、医学的には適切ではありません。
総論
・発熱、扁桃炎、頚部リンパ節腫脹、肝脾腫などの臨床症状と、白血球増加、異型リンパ球増加、血清学的検査で診断する。
・原因は、Epstein-Barrウイルス(EBV)であるが、サイトメガロウイルス(CMV)でも似たような症状を起こします、その場合「伝染性単核球症様症候群」と分類されます。
・原因:EBウイルス
・鑑別(IM様症候群) サイトメガロウイルス等
・感染経路:唾液を介した直接接触 (キスだけでなく、咳やくしゃみでも感染)
・EBウイルスは、ヘルペスウイルス科に属する二本鎖DNAウイルスで、世界中の成人の90%以上が感染しています。
症状
主要症状
1. 発熱: 38-40度の高熱が1-2週間持続
2. 咽頭炎: 激しい喉の痛み、時に偽膜形成
3. リンパ節腫脹:特に頸部、腋窩、鼠径部
4. 脾腫:患者の50%以上に見られる
5. 肝腫大:軽度の肝機能障害を伴うことも
その他の症状
・全身倦怠感
・頭痛
・筋肉痛
・食欲不振
・発疹 (第4-6病日頃:麻疹様、風疹様、猩紅熱様、多形紅斑様、じんま疹様、紫斑病様、血性性紅斑様など多彩な皮疹を10-15%に認める)
典型的な経過
1. 潜伏期 4-6週間
2. 前駆期 数日間の倦怠感、食欲不振
3. 急性期 1-2週間の高熱と主要症状
4. 回復期 数週間から数ヶ月
診断
・伝染性単核球症の診断は、臨床症状と検査結果を総合的に判断して行います。
血液検査
1. 末梢血塗抹標本 異型リンパ球の増加 (10%以上)
2. 白血球数 通常増加 (10,000-20,000/μL)
3. 肝機能検査 AST、ALT、ALP、γ-GTPの軽度上昇
血清学的検査
モノスポット試験
・迅速診断に有用 (感度75-90%、特異度96-100%)
EBウイルス特異抗体
VCA-IgM、VCA-IgG、EA-IgG、EBNA-IgG
感染急性期:抗VCA-IgM(+)
過去の感染:抗VCA-IgG(+)、EBNA(+)
血液:リンパ球数50%以上または5000/μL以上、および異型リンパ球が10%以上または1000/μL以上、AST上昇
VCA(Viral capsid antigen)
EBNA(Epstein-Barr nuclear antigen)
画像診断
・腹部超音波 脾腫や肝腫大の評価
・CT/MRI 重症例や合併症の評価に使用
Evansの診断基準
・「発熱」、「扁桃・咽頭炎」、「頸部リンパ節腫脹」、「肝腫大または脾腫」、以上のうち3つ満たせば古典的な伝染性単核球症。
Hoagland’s criteria
以下の臨床・検査的所見が特徴的と言われています。
①リンパ球割合≧50%
②異型リンパ球≧10%
③発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹
④血清学的評価
Hoagland’s sign
・上眼瞼のみならず頬部も浮腫をきたす
Gianotti-Crosti症候群
・EBV感染の経過中に顔面、四肢、臀部に米粒大(2-4mm)の丘疹が左右対称に生じることがある。20-30日持続後、落屑や色素沈着を伴わずに消退する。
治療方針
・治療の基本は休息と対症療法。症状管理と合併症予防が治療の中心となります。
基本的な治療
1. 十分な休養 特に急性期は安静が重要
2. 水分補給 経口または必要に応じて点滴
3. 解熱鎮痛剤 アセトアミノフェンやイブプロフェン (アスピリンは避ける)
4. 含嗽薬 咽頭痛の緩和に使用
重症例への対応
コルチコステロイド
・重度の扁桃腫脹および気道閉塞のある患者に対しては、コルチコステロイドの短期間(2週間未満)投与が有効。PSL(1mg/kg/日)
抗ウイルス薬
・通常は推奨されないが、重症例で検討される場合あり
なぜIMはヘルペスウイルスが原因なのに抗ウイルス薬の効果がないのか?
・ヘルペスウイルスに対する抗ウイルス薬であるアシクロビルは、ヘルペスウイルスのもつチミジンキナーゼによりリン酸化されて効果を発揮する。そのため、チミジンキナーゼを有する単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスには効果を示すが、チミジンキナーゼをもたないEBウイルス、サイトメガロウイルスにはほとんど効果を示さない。
注意点
・抗生物質 細菌性二次感染がない限り使用しない (特にアモキシシリンは禁忌)
・運動制限 腹部の鈍的外傷により脾臓破裂をきたすことがあり、発症から2-3週間の間は、あるいは脾腫の認める間は、接触競技への参加や激しい運動を避ける。
合併症と長期的影響
・伝染性単核球症は通常自然治癒しますが、稀に重篤な合併症を引き起こすことがあります。
急性期の合併症
– 上気道閉塞 (1-3.5%)
– 脾臓破裂 (0.1-0.2%)
– 血液学的異常 (溶血性貧血、血小板減少症等)
– 神経学的合併症 (髄膜炎、脳炎、ギランバレー症候群等)
長期的影響
– 慢性活動性EBウイルス感染症
– リンパ増殖性疾患 (特に免疫不全患者)
– 慢性疲労症候群との関連性 (議論が続いている)

アンピシリン疹
・伝染性単核球症の患者にアンピシリンまたはアモキシシリン投与後に皮疹が出現することが知られている。
・50-80%と高い頻度で「斑状丘疹」が生じるとされる。銅紅色紅斑性丘疹が特徴的な皮疹。
・AMPC/ABPC投与の「7-10日後」に出現することが多い。
・この発疹は血管炎による免疫介在性と考えられ、特に治療を行わなくても治癒する。
・サイトメガロウイルスでもIM同様にアンピシリン疹が出現することが知られている。
EBVとCMV感染症での対応の違いとは?
免疫機能が正常な小児や若年成人であれば、EBVもCMVも自然軽快する疾患であり、基本が「対症療法(解熱鎮痛剤や水分補給)」となる点では同じです。
しかし、日常の診療において「注意すべき合併症」と「生活指導(特に運動)」の面でいくつか重要な違いがあります。
脾腫のリスクと「スポーツ再開」の指導
EBV(IM): 脾腫を高頻度に伴い、外傷性の脾破裂の危険性があります。そのため、発症から約3〜4週間(脾腫が縮小するまで)は、体育の授業や接触性スポーツ(コンタクトスポーツ)を厳格に禁止する生活指導が必須となります。
CMV: EBVと比較すると脾腫を伴う頻度や程度は低く、脾破裂のリスクも相対的に低いです。ただし、超音波検査や触診で明らかな脾腫が確認された場合は、EBVと同様の指導が必要です。
気道閉塞のリスクとステロイドの適応
EBV(IM): 著明な扁桃腫大(Kissing tonsils)により、上気道閉塞や嚥下・水分摂取困難をきたすことがあります。この場合、気道確保や症状緩和の目的で、短期間の全身性ステロイド投与が適応となります。
CMV: 咽頭炎や扁桃腫大は軽度、あるいは伴わないことが多く、気道閉塞のリスクは低いため、ステロイドの出番は日常診療ではほとんどありません。
肝機能障害のフォローアップ
CMV: 咽頭所見が乏しい代わりに、肝機能障害(AST/ALTの上昇)が前面に出やすく、かつ遷延しやすい傾向があります。そのため、外来での血液検査によるフォローアップ期間は、CMVの方が長引くケースが目立ちます。
ペニシリン系抗菌薬による薬疹(共通の注意点)
- 伝染性単核球症の患者にペニシリン系抗菌薬(特にアモキシシリンやアンピシリン)を投与すると、高率で全身性の鮮紅色の発疹(アンピシリン疹)が出現します。
- これはEBVで非常に有名な現象ですが、CMVによるIM様症候群でも同様に起こり得るため、「熱とリンパの腫れ」を診てIMを疑った時点で、原因ウイルスが判明するまではペニシリン系の処方を避ける、という初期対応は共通になります。
まとめると、基本はどちらも対症療法で経過観察となりますが、「EBVと分かれば気道閉塞と脾破裂に注意(スポーツ制限の徹底)」、「CMVと分かれば長引く肝機能障害のフォローが中心」というように、外来で重点を置くマネジメントが変わってきます。
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