定義
・脊髄の前角細胞の変性による筋萎縮と進行性の筋力低下を特徴とする疾患
病因
・原因遺伝子は5番染色体長腕5q13に存在するSMN(survival motor neuron)遺伝子の異常で、常染色体劣性遺伝である
・SMNタンパクをコードする遺伝子はSMN1とSMN2が存在する。
・Ⅰ〜Ⅳ型まで分類されるが、Ⅰ・Ⅱ型の95%以上にSMN1遺伝子から転写されたエクソン7, 8または7の欠失が認められる。
・乳児期〜小児期に発症する脊髄筋萎縮症の罹患率は10万人あたり1-2人で、Ⅰ型は出生2万人に対して1人前後と言われている。
病態
・脊髄の前角細胞の障害が原因のため、下位ニューロンの異常であり、知的に異常はない。
・SMAⅠ型を乳児型と呼び、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ型を遅発型と呼ぶ場合がある。
・また、生後早期に呼吸不全となる呼吸困難Ⅰ型(SMARD1)も報告されており、原因は免疫グロブリン微小結合蛋白2(IGHMBP2)遺伝子の異常である。

Ⅰ型:急性乳児型
・重症型で、Werdnig-Hoffmann病とも呼ばれる。
・妊娠中より胎動が弱いことも多い。
・生後6ヶ月までに発症してフロッピーインファントを呈する。
・深部腱反射は消失し、舌の繊維束性収縮を認める。
・頚定まで獲得できる場合もあるが、支えなしで座ることは難しい。
・重力に抵抗して手足を持ち上げることはできない。
・発症後はfrog-leg posture(蛙肢位)をとり、哺乳困難、嚥下困難、誤嚥、呼吸不全を認める。
・肋間筋に対して横隔膜の筋力が維持されているため、吸気時に腹部が膨らみ胸部が陥凹する奇異性呼吸(シーソー呼吸)を認める。
・呼吸不全のため人工呼吸器が必要となり、側湾も著明になる。
Ⅱ型(小児型)
・Dubowitz病とも呼ばれる。
・深部腱反射は減弱〜消失、舌の繊維束性収縮、手指の細かい振戦を認める。
・1歳6ヶ月までに発症する。
・歩行ができないが、座位は可能である。
・側湾は進行する。
Ⅲ型(軽症型)
・Kugelberg-Walander病とも呼ばれる。
・発症は1歳6ヶ月以降で、独歩は獲得する。
・次第に進行して、歩行が難しくなり、上肢の挙上も困難になる。
Ⅳ型(成人発症型)
・孤発性で成人から老年にかけて発症し、進行は遅いが上肢遠位筋より徐々に筋力低下が進行する。
・重症度は様々である。
診断
・症状から疑ってSMN1遺伝子の遺伝子診断を行う。
・筋電図では、高振幅電位や多相性電位を認める。
・運動神経伝導速度が正常下限の70%以上である。
治療
・高額な治療方法があるが、以下の選択肢がある。
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ヌシネルセン)を用いた治療(スピンラザ®︎)
・イントロン7に存在するスプライシング抑制部位に相補性のアンチセンスヌクレオチドを用いて、エクソン7のエクソンスキップを抑制することにより、エクソン7を含む全長のSMN2タンパクを合成させる治療法。
・適応基準は、SMN1遺伝子の欠失または変異を有し、SMN2遺伝子のコピー数が1以上であることが確認されていること。
・投与方法は、髄腔内投与
アデノ随伴ウイルスを用いた治療(ゾルゲンスマ®︎)
・薬価は1患者あたり1億6707万7222円。単価としては国内最高で、日本で初めて「億超え」の新薬
・SMN1cDNAを組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV9)を静脈内注射して、良好な結果が報告されている。
・対象はSMN1遺伝子の変異が確認されている2歳未満の患者。臨床所見は発現していなくても、遺伝子検査によりSMAの発症が予測されているものも含む。
・抗AAV9抗体が陰性の患者に限る。

参考
難病情報センター


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