「インフルエンザで高熱が出ているけれど、解熱剤を使うとインフルエンザ脳症になると聞いたから怖くて使えない……」
外来で診察をしていると、不安そうな顔をしたお母さん・お父さんから、このような相談をよく受けます。ネット上には様々な情報が飛び交っており、何が正しいのか分からなくなってしまいますよね。
結論から申し上げますと、「全ての解熱剤がダメなわけではない」ですし、「アセトアミノフェンであれば、インフルエンザの時でも安心して使える」というのが医学的な常識です。
今回は、なぜ「解熱剤=怖い」という誤解が生まれたのか、そして医師として推奨する「正しい解熱剤の使い時」について、詳しくお話しします。
1. なぜ「インフルエンザに解熱剤は危険」と言われるのか?
まず、この「怖い」という情報の根拠をはっきりさせましょう。 実は、使ってはいけない解熱剤があるというのは事実です。
脳症のリスクを高める「NGな解熱剤」
過去の研究や調査から、特定の成分を含む解熱剤をインフルエンザ患児に使用すると、「インフルエンザ脳症」の重症化や「ライ症候群(激しい嘔吐や意識障害)」のリスクを高める可能性があることが分かっています。
具体的には、以下の成分です(※一般的に大人用として売られているものに多いです)。
- アスピリン(サリチル酸系)
- ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンなど)
- メフェナム酸(ポンタールなど)
これらは強力な抗炎症作用を持つ解熱鎮痛剤(NSAIDs)の一部です。昔、「インフルエンザの時に解熱剤を使って脳症が悪化した」という事例の多くは、これらの薬剤が関係していました。
この情報が広まる過程で、「(特定の)解熱剤はダメ」→「解熱剤は全部ダメ」という誤解に変わってしまったのです。
2. なぜ「アセトアミノフェン」なら大丈夫なのか?
小児科で処方されるピンク色の粉薬や、アンヒバ・アルピニーといった坐薬。これらの主成分は「アセトアミノフェン」です。
アセトアミノフェンは、先ほど挙げたNGな薬(NSAIDs)とは、熱を下げる仕組みが全く異なります。
作用が穏やか
脳の体温調節中枢に優しく作用して熱を下げます。
実績
世界中で長年子供に使われており、インフルエンザ脳症を誘発したり、重症化させたりするデータは報告されていません。
ガイドライン
日本小児科学会のガイドラインでも、インフルエンザ時の発熱にはアセトアミノフェンを使用することが推奨されています。
つまり、「アセトアミノフェンであれば、インフルエンザの高熱に使っても脳症の原因にはならない」ので、安心して使ってください。
⚠️注意点
市販の風邪薬や解熱剤には、アセトアミノフェン以外の成分(イブプロフェンやアスピリン類)が含まれていることがあります。インフルエンザの疑いがある場合は、自己判断で市販薬を使わず、必ず「アセトアミノフェン単剤」であることを確認するか、病院で処方された薬を使ってください。
3. 医師が教える「解熱剤を使うタイミング」の見極め方
「安全なのは分かったけど、いつ使えばいいの?」 ここが一番の悩みどころだと思います。
大原則として、熱はウイルスと戦っている証拠です。無理に平熱まで下げる必要はありません。解熱剤の目的は、「熱を治すこと」ではなく「つらさを和らげて、体力を回復させること」です。
✅ 使わなくていい時
- 熱が高くても(39度や40度でも)、顔色が比較的良い。
- 水分が摂れている。
- 眠れている、または機嫌よくおもちゃで遊んでいる。
- 手足が温かい(熱の上がりきったサイン)。
この場合は、体が戦えている証拠なので、氷枕などで頭を冷やして見守ってあげればOKです。
✅ 使ってあげたい時
体温計の数字ではなく、お子さんの様子を見て判断します。
- 水分が摂れない(高熱による倦怠感や不機嫌で飲まない)。
- 眠れない(熱くてうなされたり、すぐ起きてしまう)。
- 痛がる(頭痛や関節痛を訴えて泣く)。
- ぐったりしている。
このような時は、迷わず解熱剤を使いましょう。 一時的に熱を1度〜2度下げてあげることで、その隙に水分を摂ったり、数時間ぐっすり眠ったりすることができます。この「休息と水分補給」こそが、回復への近道です。
4. 本当に怖い「インフルエンザ脳症」のサインとは?
解熱剤を使うことよりも、親御さんに知っておいてほしいのは「本当の脳症のサイン」です。解熱剤の使用有無にかかわらず、インフルエンザ脳症は発症することがあります。
以下の症状が見られたら、解熱剤が効いているかどうかに関わらず、すぐに救急受診が必要です。
- 意識がおかしい(親が誰か分からない、意味不明なことを言う、視線が合わない)。
- 痙攣(けいれん)が続く(5分以上)、または繰り返し起こる。
- 異常言動(突然おびえる、部屋を走り回るなどの異常な興奮)。
- 激しい嘔吐や、呼んでも反応が鈍いほどのぐったり感。
これらは「熱のせい」だけで片付けてはいけない危険なサインです。
インフルエンザ脳症についての詳細は下記ブログ記事をご覧下さい👇️
まとめ:正しく恐れて、賢く使おう
- インフルエンザで使ってはいけない解熱剤はある(ボルタレン、アスピリンなど)。
- 「アセトアミノフェン」はインフルエンザでも安全に使用できる。
- 使う基準は「体温」ではなく「元気さ・水分・睡眠」。
- つらそうで眠れない・飲めない時は、体力を温存するために迷わず使ってOK。
お子さんが高熱で苦しんでいる時、何もしてあげられないのは親として辛いですよね。 「アセトアミノフェン」は、お子さんのつらい時間を少しでも減らし、回復のための体力を守ってくれる強い味方です。正しい知識を持って、上手につきあっていきましょう。
早く良くなりますように。お大事になさってくださいね。



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