【小児科医🍎Blog】インフルエンザ感染時に要注意!『急性心筋炎 (Acute Myocarditis)』のサインと命を守る行動 | ゆるっと小児科医ブログ
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【小児科医🍎Blog】インフルエンザ感染時に要注意!『急性心筋炎 (Acute Myocarditis)』のサインと命を守る行動

循環器

こんにちは。小児科医りんご🍎です。

毎年、冬から春にかけて猛威を振るうインフルエンザ。高熱や咳でぐったりする我が子を見るのは、親として本当に辛いですよね。

ほとんどの場合は数日で回復に向かいますが、小児科医として

「これだけは絶対に知っておいてほしい、見逃してはいけない合併症」があります。

それが「インフルエンザでの急性心筋炎」です。

発症すること自体はごく稀ですが、進行が非常に早く、あっという間に命に関わる状態に陥る恐れがあります。 いざという時、お子さんの命を守れるのは「いつもと違う」と気づける親御さんの目です。今日は、そのための具体的なサインと対処法について、詳しく、そして分かりやすくお話しします。

そもそも「インフルエンザ心筋炎」とは?

インフルエンザウイルスは、通常は喉や鼻などの「気道」で増殖します。

しかし、何らかの理由でウイルスが心臓の筋肉(心筋)に感染したり、ウイルスをやっつけようとする免疫システムが暴走して心臓を攻撃してしまったりすることで、心臓に強い炎症が起きるのがインフルエンザでの「急性心筋炎」です。

どんな人がなりやすい?

インフルエンザにかかった人全体から見れば非常に稀な合併症です。

しかし、「基礎疾患のない健康な子どもや若者」でも突然発症するのが一番恐ろしいところです。

A型インフルエンザでの報告が多いですが、B型でも起こります。

心臓は全身に血液を送る「ポンプ」です。心筋炎になるとこのポンプが急激に動かなくなり、全身の臓器が酸欠状態(心不全・ショック状態)に陥ってしまいます。

※原因となるウイルスはインフルエンザ以外にも、あらゆるウイルスが候補になります。コクサッキーやエコーなどのエンテロウイルス、アデノウイルス、パルボB19ウイルス、水痘ウイルス、B・C型肝炎ウイルス、RSウイルスなど。

絶対に見逃してはいけない「5つのサイン」

小さな子どもは「胸が痛い」「息苦しい」と上手く言葉で伝えられません。

インフルエンザと診断された後、特に発症から数日以内に以下のサインが見られたら、迷わず救急受診(状況によっては救急車)を検討してください。

① 熱が下がったのに「脈が速い・胸がバクバクする」

熱が高い時に脈が速くなるのは自然なことです。

しかし、熱が下がっている(あるいは解熱剤で下がった)のにも関わらず、脈が異常に速い、胸に手を当てると異常にバクバクしている場合は、心臓が無理をして動いているサイン(頻脈)の可能性があり、非常に重要です。

反対に、発熱がある時は脈が早くなるのが普通ですが、発熱時に年齢不相応に脈が遅い場合も注意を要します。また、今まで指摘されたことのない脈の不整にも注意です。

② 呼吸がおかしい

  • 肩で息をしている(陥没呼吸)
  • 呼吸の回数が異常に多い
  • 横に寝かせると苦しがり、座りたがる(起座呼吸:心不全の特徴的なサインです)

③ 顔色が悪く、手足が「氷のように冷たい」

心臓のポンプ機能が落ちると、体は脳などの重要な臓器を優先し、手足の末端への血流をカットします。顔面蒼白で、唇が紫色(チアノーゼ)になり、手足が異常に冷たく・青白くなっている場合は一刻を争います。

④ 異常なだるさ・意識のモヤモヤ

  • 自力で座っていられないほどぐったりしている
  • 呼びかけても反応が鈍い、視線が合わない
  • 意味不明なことを言う、失神する

⑤ 吐き気・嘔吐・お腹を痛がる

意外かもしれませんが、心不全になると肝臓や胃腸に血液がうっ滞して腫れ上がり、激しい腹痛や嘔吐として症状が出ることが多々あります。「お腹の風邪かな?」と誤解されやすいポイントです。

消化器症状の出現割合は、小児では以外と多いので注意が必要です。

一刻を争う「病状の進行スピード」

インフルエンザ心筋炎の最大の特徴は、「急激な悪化(劇症化)」です。

最初は通常のインフルエンザと同じ発熱やだるさから始まりますが、そこから数時間〜1日単位で、一気に心不全や致死的な不整脈を引き起こし、血圧が保てないショック状態(劇症型心筋炎)へと進行することがあります。

「さっきまで会話できていたのに、急に意識がなくなった」というケースも珍しくありません。

検査・治療について

「心筋炎かもしれない」と疑われた場合、小児科や救急病院では以下のような検査と治療を大至急行います。

【検査】

●心エコー(超音波)検査

心臓の動きがどれくらい落ちているか、直接目で見て確認する最も重要な検査です。

●心電図

心筋のダメージ(波形の異常)や、危険な不整脈が出ていないかを見ます。

1)リズム異常

2)心腔拡大・心筋肥厚に伴う変化

●血液検査

心筋が壊れたときに出る酵素(トロポニン、CKなど)や、心不全の強さを示す数値(BNPなど)を調べます。

・AST、ALT、LDHの異常上昇があり、T-Bilが正常であれば、心筋傷害を疑います。T-Bilも上昇しているならば、急性肝障害も疑います。

・心筋細胞傷害マーカー:心臓トロポニンIまたはT(cTnI/T)、CK-MB、心筋由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)、ミオグロビン(Mgb)

・心筋ストレスマーカー:心機能低下が起こっている証拠。BNP, NT-pro BNP

※心筋細胞傷害はCK-MB、cTnI/T、AST、LDHでモニタリング。急性期は動脈血中乳酸値、症状安定後はBNPが心機能低下のマーカーとして有用。

●胸部レントゲン

心臓が腫れ上がっていないか、肺に水が溜まっていないか(心不全状態)を確認します。

しかし、心機能の低下が急激な場合はCTR増大など心拡大所見は示さないので要注意。

【治療法】

一般的なクリニックでは対応できないため、必ずICU(集中治療室)のある大きな病院での治療となります。

薬物治療と全身管理

抗インフルエンザ薬の投与に加え、心臓を休ませるための薬(利尿薬)や、ドブタミンなどのカテコラミン、PDE阻害薬などを組み合わせた治療を行います。危険な不整脈(高度房室ブロック)が出れば、それを抑える薬や一時的なペースメーカーを使います。

補助循環装置(ECMO / IABP)

自分の心臓だけでは全身に血液を送れない「劇症型」に陥った場合の最終手段です。太い血管に管を入れ、一時的に心臓と肺の代わりをする体外循環装置(ECMO・エクモ)や、心臓の働きを助ける風船(IABP)などを装着し、心臓の炎症が治まり、再び自力で動き出すのを待ちます。

おわりに:親の「直感」は、医療機器に勝る

恐ろしい話をしてしまいましたが、過度に怯える必要はありません。

インフルエンザにかかった子どもの大多数は、何事もなく元気に回復します。

リスクを下げるための基本として、まずは毎年のインフルエンザワクチンの接種(重症化予防効果があります)を心がけてください。

そして何より大切なこと。

私たち小児科医が診察室で子どもを見るのは、ほんの数分です。

日頃からお子さんを見つめている親御さんの

「熱はいつもの風邪と同じだけど、何かが決定的に違う」

「様子が明らかにおかしい」

という直感は、時にどんな精密検査よりも正確です。

「夜中だから…」と迷う必要はありません。

この記事で挙げたようなサインが見られたら、すぐに行動を起こしてください。

この知識が、どこかで誰かのお子さんの命を救うきっかけになればと願っています。

+α:病態生理

ここから、医療従事者向け。

ウイルス性心筋炎の病態生理は、1期〜4期に分かれます。

1期:ウイルスの心筋細胞への感染

・この時期は炎症性細胞の心筋組織への進展はない。

・ウイルスは心筋細胞膜受容体と結合した後に、エンドサイトーシスによって心筋細胞内に取り込まれる。取り込まれたウイルスは、ウイルス蛋白を酸性して心筋傷害を起こす。

2期:自然免疫による防御

・自然免疫は抗原特異的な反応であり、ウイルス感染後4~5日目に起こっているとされる。この時期はサイトカイン産生が最も重要である。

・IFN-γ、IL-1α、IL-1β、IL-2、TNF-αなどのサイトカインは、マクロファージ、リンパ球によって主に産生されますが、免疫細胞以外からも産生されます。これらの炎症性サイトカインは、心筋の誘導型NO合成酵素を活性化させます。結果、NOが過剰に産生されます。

・炎症性サイトカインやNOはウイルス排除にも重要な役割を果たしますが、陰性変力作用や細胞傷害作用も有します。これらの作用のバランスが崩れて、陰性変力作用や細胞傷害作用が優勢になると、心機能が低下するのです。

3期:獲得免疫による防御

・動物実験ではウイルス感染後6~7日目に起こります。

・T細胞、ナチュラルキラー細胞が活性化され、感染した心筋細胞が攻撃されます。結果、感染心筋細胞は壊死します。

・このT細胞の浸潤は、動物実験では感染後7~14日目で最高となります。劇症型心筋炎では、この心筋細胞壊死が大量に起こります。

・液性免疫は、心筋炎極期においてIgM、次にIgGクラスの抗ウイルス抗体によってウイルスが排除されます。

4期:炎症の消退

・自然免疫、獲得免疫の機能でウイルス排除に成功した時期。

・炎症が消退すると、心機能が回復します。しかし、ウイルス浸潤が持続する例、炎症が慢性化する例、炎症が消退せず劇症化する例もあります。

+α:心電図異常

心筋のダメージ(波形の異常)や、危険な不整脈が出ていないかを見ます。

1)リズム異常

①心拍数異常:洞性頻脈、心室頻拍

②完全房室ブロック:ウイルス性急性心筋炎の約40%に存在するとされる。

③期外収縮:主に心室性期外収縮(VPC)である。3連発する場合は心室頻拍となるが、連発せずとも多発性、多型性では注意。

2)心腔拡大・心筋肥厚に伴う変化

①P波異常

・心機能低下によって心室拡張末期圧が上昇することで心房圧が上昇し、P波異常が起こる。

・標準肢誘導で下壁を示す誘導(Ⅱ、Ⅲ、aVF)と右側胸部誘導の頂上が尖っている形(V1誘導では鋭い2相性)を示せば、右房負荷を疑う。

・右側胸部誘導で幅広い陰性部分を伴う2相性P波や左側胸部誘導で2峰性P波をみたら、左房負荷を疑う。

②QRS波異常

・完全右脚ブロック+左軸偏位:右脚と左脚前枝の2枝ブロックを疑う。すなわち、この所見の新たな出現は、広範な心筋細胞傷害または心室筋浮腫の存在を示唆する。急性心筋炎の場合、完全房室ブロックへ、容易に移行しやすい。

・以前より幅の広いQRS波:以前に記録された心電図記録があれば重要な所見となる。新たに出現した幅の広いQRS波は心室内伝導障害を示し、心筋細胞自体の傷害か間質の浮腫を疑う。

・異常Q波:心筋虚血による心筋細胞膜電位上昇に伴う基線の上昇による異常Q波と、心室自体の拡張や心室中隔の肥厚による中隔成分としてのQ波増大の2種類がある。

・ST異常:ST上昇は、心室筋の静止膜電位が浅くなったために、心電図の基線が低下する変化。

+α:心臓エコー検査

心臓の動きがどれくらい落ちているか、直接目で見て確認する最も重要な検査です。

特徴的な所見は以下の通り。

①びまん性の左室壁運動低下

②左室拡張期末期径の縮小または拡大

・初期は左室心筋間質の炎症による浮腫が出現し、この浮腫で左室心筋が求心性に肥大し左室拡張期末期径が縮小。時間がたつと、浮腫がとれ、心筋変性が持続性に進行すると拡大する。

③一過性の左室壁肥厚

・先ほど記述した通り、左室心筋間質の浮腫による。急性期をこえれば1〜2週間で正常化。

④心嚢液貯留

・急性心筋炎の多くは心膜炎も併発する。

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