だんだんと寒く、感染症の季節の足音がしてきましたね。
その代表の一つがRSウイルスという下気道感染を引き起こすウイルスです。
感染によるリスクの高い子どもたちには、従来シナジスという抗体製剤が使用されていましたが、最近ではベイフォータスという新薬が一般適用され、多くの小児科では、このベイフォータスが使用されています。
今回は、この新薬についてまとめていきます。
(↓シナジスについては過去Blog記事参照)
分子構造と作用機序
ベイフォータスは、RSウイルスの表面タンパク質Fに対する高度に中和的なIgG1モノクローナル抗体です。その分子構造には以下の特徴があります
- Fc領域の修飾: YTE技術(M252Y/S254T/T256E変異)により、新生児Fc受容体(FcRn)との結合親和性が向上し、半減期が延長されています。
- 抗原結合部位: RSウイルスFタンパク質のプレフュージョン構造に特異的に結合し、ウイルスの細胞侵入を阻害します。
投与量
生後初回のRSウイルス感染流行期
単回筋肉内注射で、体重5kgを境界として下記の投与量となる。
体重5kg未満の乳児:50mg
体重5kg以上の児:100mg
生後2回目のRSウイルス感染流行期
通常、200mg を接種する。(体重によらない)
適応
このカテゴリーの患児に対しては、公的医療保険が適用されます。対象は以下の通りです
A. 生後「初回」の流行期における対象
• 在胎期間28週以下の早産で、12カ月齢以下の新生児および乳児
• 在胎期間29〜35週の早産で、6カ月齢以下の新生児および乳児
B. 生後「初回」および「2回目」の流行期における対象
以下の基礎疾患を有する、24カ月齢以下の新生児、乳児および幼児が対象です。
• 慢性肺疾患(過去6カ月以内に治療を受けた児)
• 先天性心疾患(血行動態に異常のある児)
• 免疫不全を伴う児
• ダウン症候群の児
【自費(任意接種)】上記以外のすべての新生児および乳児
• 対象: 生後初回のRSウイルス感染流行期を迎える、上記以外のすべての新生児および乳児
• 備考: 添付文書上の効能・効果には記載されていますが、現時点(2024年5月発売以降)で保険適用外となっており、接種する場合は原則として自費(任意接種)となります。
薬物動態学的特性
- 半減期: 約117日(範囲: 60-182日)と非常に長く、単回投与で5ヶ月以上の予防効果を発揮します。
- 分布: 主に血管内に分布し、組織への移行は限定的です。
- 代謝: 他のIgG抗体と同様に、主にリソソームでのタンパク質分解によって代謝されます。
臨床試験データの詳細解析
MELODY試験(第III相)
- 対象: 妊娠週数35週以上で生まれた健康な新生児1490名
- 主要評価項目: 医療機関受診を要するRSV下気道感染症(LRTI)の発生率
- 結果:
- 相対リスク減少: 74.5% (95% CI: 49.6%-87.1%; P<0.001)
- 絶対リスク減少: 4.9% (95% CI: 2.3%-7.7%)
- Number Needed to Treat (NNT): 20.4 (単回投与で20.4人に投与すると1人のLRTIを予防)
MEDLEY試験(第II/III相)
- 対象: RSV感染症の重症化リスクが高い乳幼児925名
- 主要評価項目: 安全性と忍容性
- 結果:
- 重篤な有害事象の発生率: ニルセビマブ群 6.8% vs パリビズマブ群 7.3%
- 有効性(探索的評価): 医療機関受診を要するRSV-LRTIの相対リスク減少 62.1% (95% CI: -8.6%-86.9%)
免疫原性と安全性プロファイル
- 抗薬物抗体(ADA): 臨床試験では、ADAの発生率は低く(<5%)、中和抗体の産生はさらに稀でした。
- 過敏反応: アナフィラキシーを含む重度の過敏反応は報告されていませんが、軽度から中等度の過敏症状(発疹など)が観察されています。
- 長期安全性: 現在進行中の追跡調査で、2年間の長期安全性データが収集されています。
シナジスとの違い
シナジスとベイフォータスは、どちらもRSウイルス感染症の予防に使用される抗体医薬品ですが、いくつかの重要な違いがあります。以下にその主な違いをまとめます
有効成分と構造
- シナジス: パリビズマブ(遺伝子組換え)、ヒト化マウスモノクローナル抗体
- ベイフォータス: ニルセビマブ(遺伝子組換え)、完全ヒト型モノクローナル抗体
投与方法と頻度
- シナジス: RSウイルス流行期を通して月1回の筋肉内注射
- ベイフォータス: 1シーズンに1回の単回筋肉内注射
作用持続時間
- シナジス: 約1ヶ月間
- ベイフォータス: 約5ヶ月間(150日)
適応対象
- シナジス: 主に早産児や特定の基礎疾患を持つハイリスク児
- ベイフォータス: ハイリスク児に加え、健康な正期産児も含む幅広い対象
有効性
- ベイフォータスは、シナジスと比較してより広範な乳幼児集団に対する有効性が示されています。
製造方法
- シナジス: マウスミエローマ細胞(NS0)で産生
- ベイフォータス: チャイニーズハムスター卵巣細胞で産生
分子構造の特徴
- ベイフォータスは、抗体の一部に薬の作用を長く保つ構造(YTE技術)が付与されており、通常の抗体よりも効果がより長く続きます。
参考
- アストラゼネカ公式
2.サノフィPress release
https://www.sanofi.co.jp/assets/dot-jp/pressreleases/2023/230727.pdf



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