総論
・ダウン症候群(21トリソミー)は、21番染色体もしくは一部の責任領域の過剰によって引き起こされる遺伝的疾患です。特異顔貌、筋緊張低下、低身長などの外表所見と、心奇形など各種の合併症および知的障害(IQ30-60, 多くは40-50)を生じることがあります。
・長期的予後のためには、適切な診断と合併症の管理が求められます。以下に、診断方法、合併症、診察のポイントをまとめます。
診断方法
病因
・Down症候群の責任領域は、21q22.3と考えられています。21番染色体全体か、もしくはこの責任領域の遺伝子コピー数が1.5倍になり、遺伝子量効果によりDown症候群を特徴づける症状が発現します。
・標準型、モザイク型、転座型の3種類に分類されます。モザイク型はトリソミー細胞と正常細胞が混在するタイプで、正常細胞の比率が高いと臨床症状が軽いことがありますが、基本的には臨床症状は同様です。
年齢的な特徴
新生児期〜乳児期
・低出生体重の頻度は高いです。
・特徴的外表所見:短い頭部前後径、鼻根部扁平で平坦な顔面、内眼角贅皮、眼瞼裂斜上、睫毛内反、下向きの口角、舌挺出、後頭部皮膚のたるみ、短頚、短い指趾、単一手屈曲線、第5指短小および内弯、第1,2趾間解離、指尖の尺側蹄状紋などがある。
・哺乳不良で胃管を留置することも多いですが、次第に必要量を経口哺乳できるようになることが多いです。
・乳児期の気道感染症では重症化および治癒遷延が見られます。これは過半数が先天性心疾患を合併していること、喉頭軟化症などの構造的問題、筋緊張低下に伴う喀痰排出不良、免疫グロブリンの低値などが原因として挙げられます。
幼児期〜
・精神運動発達はゆっくりめ。独歩は2歳ごろ。
・自閉症もしくはAD/HDなどの発達障害を合併していることも少なくないので、知的障害以外に関しても早期介入が望ましいです。
・3歳以降では、感染症の頻度も減っていきます。
・食習慣、行動様式によっては、肥満傾向が生じてきます。
思春期〜
・適切な健康管理がなされない場合、偏食や過食、運動不足などが重なり、成人前に脂質異常症、脂肪肝、痛風などを発症するケースもあります。
・特定の原因ははっきりしないものの、比較的短期間のうちに活動性が落ち、日常生活機能が著明に低下する、いわゆる「急激退行」が知られています。職場でのストレスや、親しいスタッフの移動、家族の他界などが原因の心因性うつの状態も含まれ、器質的疾患の除外を含め、総合的な評価が必要です。
出生前診断
- 非確定的検査
- 母体血清マーカー検査(妊娠15~20週)や新型出生前診断(NIPT)(妊娠10週以降)は、ダウン症候群の可能性を評価しますが、確定はできません。
- 確定的検査
- 羊水検査(妊娠15週以降)や絨毛検査(妊娠11~14週)は、染色体異常を直接確認するために行われます。これらは流産のリスクが伴いますが、確定診断が可能です。
※出生前診断を行う際、遺伝カウンセリングは必須!
出生後診断
- 出生後は、特徴的な身体的特徴をもとに疑われます。これには低い鼻根部、つり上がった目、筋緊張低下などがあります。
- 確定診断には血液サンプルを用いた染色体検査(FISH法、G-banding)が必要です。
※染色体検査の前には、必ず両親に検査の意味を説明し、同意を得てから行うこと
主な合併症
・ダウン症候群には多くの合併症が伴うことがあり、それぞれの管理が重要です。
循環器
・先天性心疾患(多い順:心室中隔欠損症VSD、房室中隔欠損AVSD、動脈管開存症PDA、心房中隔欠損症ASD)が高頻度で見られます
・一般的先天性心疾患の約5%とされるAVSDが、Down症候群では20%と高率にみられることが特徴的です。
・Down症候群では、もともと肺血管の脆弱性があり、肺高血圧症の進行が早いことが知られています。そのため薬物療法も高頻度に行われています。
消化器系
・十二指腸閉鎖、食道閉鎖、鎖肛などの先天性消化管閉鎖の頻度が高く、生後早期に手術を要します
・消化管閉鎖ではなく狭窄の場合、通過障害の程度が軽ければ発見が遅くなる場合もあります。
・便秘は、特に乳幼児期では高頻度に見られます。便性自体が硬いわけではなく、腹筋の力が弱いため、離乳食が進みにくいため、水分摂取を好まないため…などの理由が考えられます。食事量や運動量が増えてくると、自然に軽快することが多いです。
内分泌系
・甲状腺機能低下症や糖尿病などが発生することがあります
・先天的な甲状腺機能低下症であるクレチン症では、活気のなさ、哺乳不良、便秘、浮腫、皮膚の感想などがみられます。放置すれば心身の発達が遅れますが、現在では新生児マススクリーニングで発見され、甲状腺薬の内服を行うことで予防されるケースがほとんどです。
・Down症候群における平均的身長は、健常児の3%タイル程度ですが、多くの場合成長ホルモンの分泌不全がある訳ではありません。しかし、Down症候群用の成長曲線で検討しても身長が低い場合、途中で身長の伸びが停滞している場合、負荷試験の上成長ホルモン(GH)自己注射を行います。
眼・耳・鼻・喉
・中耳炎、難聴、視覚障害(例:白内障)が一般的です。
・Down症候群の外耳道は狭く、鼓膜の観察は難しいです。滲出性中耳炎になりやすく、治療期間も長くなります。反復しやすい場合・長期化する場合は鼓膜チューブ留置の適応です。
・眼科的合併症としては、斜視、睫毛内反、遠視なども見られます。遠視はDown症候群の69%、2D異常の乱視は58%に見られ、眼鏡を要する例は多いです。小児の弱視や斜視、先天性白内障の手術後のような、治療を目的とする眼鏡の作成には、9歳まで健康保険の適用となります。
造血器系
・血小板減少症や急性巨核芽球性白血病などのリスクがあります。
・TAM(transient abnormal myelopoiesis:一過性骨髄異常増殖)は、Down症候群患者全体の10%に見られる、類白血病状態です。無治療で自然軽快する例もあれば、臓器障害のために早期死亡する例もあります。代表的症状は白血球数増多、血小板減少、肝脾腫などで、重症では冠不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、全身浮腫などが見られます。
・TAM既往者の20%は、1-3年後に白血病を発症します。多くはAML(急性骨髄性白血病)で、中でもAMKL(acute megakaryoblastic leukemia:巨赤芽球性白血病)が多いです。ほとんどは4歳以下で、非Down AMLより減弱した治療を行います。
・TAMは21番染色体上の責任遺伝子(特にRUNX1)が3コピーあるために血液前駆細胞数が増加し、また血球分化に必須の転写因子であるGATA1の変異の存在が異常巨核球の酸性を引き起こし、さらに責任領域(特にERG, ETS2, RUNX1)が3コピーあることが変異GATA1の発現増加を引き起こす相乗効果で生じると考えられています。
・Down症候群の患者では、白血病の頻度が高い一方、固形がんは非常に少ないです。これは血管新生の責任遺伝子であるDSCRが21番染色体上にあり、発現量が多いためとされます。
筋骨格系
・環軸椎不安定性や関節弛緩が見られることがあります
・環軸椎亜脱臼については、2-3歳で歩行が可能になる頃からの評価が合理的。頚椎のX線検査で、環椎前弓と軸椎歯突起の間隙(atlanto-dental interval: ADI)が前屈時4.0mm未満ならば、ほぼ正常と考えます。4.0mm以上であれば、マット運動での前転などは制限します。5.0mm以上ならMRI精査とし、不安定性が強ければ手術を行います。
・また、大部分で外反扁平足でもあります。歩行時に必要であれば、足底板(インソール)を用います。足関節が不安定であれば、ハイカット靴を使用します。
●MSDマニュアル(プロフェッショナル版)

診察のポイント
初期評価
・出生直後から心臓超音波検査を実施し、心疾患の有無を確認します。
・また、甲状腺機能や聴覚・視覚検査も推奨されます。
成長モニタリング
・ダウン症候群専用の成長曲線を使用して身長、体重、頭囲を定期的に記録します
神経学的評価
・知的発達遅滞や運動機能の評価を行い、必要に応じて早期介入プログラムを導入します。
・Down症候群の発達指数(IQ)は30-50であり、半数以上は特別支援学級を選んでいます。しかし、本人の状態、家族の希望など、様々な要素を併せて、個人に合わせた教育内容を考えていくことが最も重要です。
合併症管理
・各種合併症について専門医と連携しながら適切な治療を行います。特に心疾患や消化器異常は早期治療が重要です
・特定の合併症がない場合でも、定期的な検査を行うことが望ましいです。合併症の早期発見にも繋がりますし、採血などの医療行為に極端な恐怖心を抱かず、どの診療科での診察の際にも診療が円滑になる効果もあります。血液検査の頻度としては、少なくとも幼児期は半年に1回、就学後は1年に1回は行った方が良いでしょう。
トリソミー型・モザイク型・転座型それぞれの特徴と注意点
・Down症候群にはトリソミー型(95%)、転座型(3~4%)、モザイク型(1~2%)がある。
・転座型は多くの場合親に保因者がいるため、両親の遺伝子検査を要する。また母親の年齢に限らず発症する。しかし、正常な染色体を受け継げば、正常核型となる。
・モザイク型、通常のDown症では、母親の年齢上昇に依存して頻度が増加します。
・21トリソミー型と転座型との間に症状の差はみられませんが、モザイク型は症状が軽いことがあります。
・均衡型転座型の場合、母が均衡型転座では約10%、父の場合は約2-3%、両親の染色体に異常のない場合には約1%以下の頻度で、転座型Down症候群の出生の可能性がある。
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