【小児科医Blog:薬剤, 感染症】小児のステロイド・免疫抑制薬について | ゆるっと小児科医ブログ
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【小児科医Blog:薬剤, 感染症】小児のステロイド・免疫抑制薬について

感染症
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総論

・免疫抑制薬を投与中の患者の感染症診療では、背景疾患を整理することが重要である。年齢や基礎疾患、免疫抑制薬投与の理由、使用している薬剤の種類や量、予防的抗菌薬投与の有無、医療デバイスの使用などである。

・免疫抑制薬の使用により、通常の患者よりも多くの感染症に罹患するリスクが増加する。よって、問診や診察の際も、普段より注意の幅を広げておく必要がある。

・投与による感染症リスクをしっかりと把握し、普段の診療とは異なる、個別の対応を要する。

免疫能と感染症の関連

・ステロイド、免疫抑制薬では、それぞれの薬の特徴に応じて障害される免疫能が異なる。

・以下では、まず免疫能について分類し、それぞれに感染性、難治性を示す微生物をまとめる。

免疫能について

・基本的に、生体にとっての異物をマクロファージや樹状細胞が認識、IL-1などのサイトカインを放出して、免疫の司令塔であるヘルパーT細胞に情報を伝えるところから始まる。

細胞性免疫

・CD4陽性ヘルパーT(CD4+T)細胞を介して、細胞傷害性T細胞が活性化される経路。

・CD4+T細胞はIL-2を放出しキラー前駆T細胞に命令、分化増殖し細胞傷害性T細胞となる

液性免疫

・CD4+T細胞を介して、形質細胞による抗体産生が活性化される経路。

・ヘルパーT細胞からIL-4などのサイトカインが放出され、B細胞を活性化、分化増殖し形質細胞となる

好中球の障害

障害される免疫能

・細胞性免疫

・自然免疫

リスクの上がる微生物

細菌

・黄色ブドウ球菌、CNS、腸球菌、Klebsiera属、大腸菌、緑膿菌、Burkholderia属、Seratia属など

真菌

・Candida属、Aspergilus属

抗酸菌

・非定型抗酸菌、結核菌

T細胞の障害

障害される免疫能

・細胞性免疫

・獲得免疫

リスクの上がる微生物

細菌

・Listeria属、Legionella属、Nocardia属などの細胞内寄生菌

真菌

・Pneumocystis jirovecii、Candida属、Aspergilus属、Cryptococcus属

ウイルス

・CMV、EBV、ADV、HSV、VZV、JCV、BKV

抗酸菌

・非定型抗酸菌、結核菌

B細胞の障害

障害される免疫能

・液性免疫

・獲得免疫

リスクの上がる微生物

細菌

・肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、Mycoplasma属、Campylobacter属など

真菌

・Pneumocystis jirovecii

ウイルス

・エンテロウイルス

補体の障害

障害される免疫能

・液性免疫

・自然免疫

リスクの上がる微生物

細菌

・肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌、カプノサイトファーガ(動物咬傷)など

各論

以下に薬剤毎の感染症との関連をまとめる。

ステロイド

・ステロイドによる免疫不全は細胞性免疫不全が主である。

・特にT細胞系の免疫が障害される。日和見感染症に代表される細胞内寄生菌による感染症、ニューモシスチス肺炎などの真菌感染症、ヘルペスウイルスの再活性化や抗酸菌感染症に注意。

・ステロイドの投与量にかかわらず、少なくとも₄週間以内は感染症に特に注意。もちろん背景によりリスクは異なり、背景疾患や投与量、投与期間によって個別に判断は必要である。

免疫抑制薬

・免疫抑制薬は、体内で過剰に起きている免疫応答を抑制しようとする薬剤の総称であり、すべての免疫能を非特異的に抑制する薬剤である。

カルシニューリン阻害薬(タクロリムス、シクロスポリン)

・ヘルパーT細胞に作用し、カルシニューリンの酵素活性を阻害することでIL-2の産生を抑制し、主にT細胞系の活性化を阻害する。

・タクロリムスとシクロスポリンは主に作用機序は同じである。しかし、タクロリムスの方が固形臓器移植後の急性拒絶反応が少なく、臓器移植や造血幹細胞移植で使用される頻度は高い。もちろん治療ポロトコールによって使用する薬剤は決まっていることも少なくないので、治療アルゴリズムに従って使用薬剤を決定する。

・サイトメガロウイルスやEBウイルスによる感染症は、潜伏感染していたウイルスの再活性化が多いため、移植前のドナーとレシピエントのウイルス抗体価を確認し、特にリスクが高い症例では定期的な血中ウイルス量のモニタリングが必要になる。

シロリムス

・mTOR(哺乳類ラパマイシン標的蛋白)に作用し。IL-2によるシグナル伝達を阻害し、T細胞とB細胞の活性化を阻害する。

・基本的にはカルシニューリン阻害薬と作用機序が類似しており、T細胞系の免疫抑制。

・リンパ増殖性症候群の治療薬として使用されることも多い。

ミコフェノール酸モフェチル(MMF)

・in vivo系のプリン生合成経路に作用し、選択的にT細胞とB細胞の増殖を抑制する。

・一般的には長期に免疫抑制が必要な患者に対して、副作用の多いカルシニューリン阻害薬やステロイドを減量する目的で併用して使用されることが多い。

生物学的製剤

・生体がつくる物質を応用して作られた薬剤である。

・免疫抑制薬として使用されることの多いモノクローナル抗体は抗体医薬品に分類されることもある。

・生物学的製剤は特異的に免疫学的経路を抑制するため、全体的な免疫抑制は起こりにくいとされる。しかし、免疫能に意図せぬ影響を与え、深刻な感染症を引き起こすことがあり注意を要する。

抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン製剤(ATG)

・骨髄で産生されたT細胞の前駆細胞は、胸腺で分化増殖し、末梢血中に放出される。

・ATGは胸腺細胞に対するモノクローナル抗体であるため、非常に強力にT細胞系を抑制する。

・ヘルペスウイルス(特にサイトメガロウイルス)の再活性化に注意が必要。CMV抗原血症は通常、投与開始後1ヶ月以内に発症することが多いが、投与開始後3ヶ月程度でも出現することがあり、数カ月間は定期的なウイルス量のモニタリングが必要になる。

B細胞に対するモノクローナル抗体

・末梢血のB細胞を標的として枯渇させるため、液性免疫抑制が主な作用機序である。

・代表的な薬剤として、リツキシマブ(抗CD20マウス-ヒトキメラ型モノクローナル抗体)が挙げられる。リツキシマブ投与終了後からB細胞機能が正常化するまで6-9ヶ月間かかるとされている。

・低IgG血症に注意が必要であり、IgG<500 mg/dLでは特に感染症に注意すべきである。

・B細胞系の免疫抑制だけではなく、好中球機能不全(薬剤性無顆粒球症による)のリスクとなる場合がある。また、その他の特異的な感染症(PML.JCV再活性化による進行性多巣性白質脳症、B型肝炎ウイルス再活性化、脳トキソプラズマ症など)のリスクにもなりうる。

T細胞に対するモノクローナル抗体

・バシリキシマブ(抗CD25モノクローナル抗体)などが代表的。サイトカイン放出症候群が少なく、腎移植後の急性拒絶反応に対して保険適用となっている。

抗サイトカイン治療薬

・B細胞機能の阻害やサイトカインを中和、ブロックすることで、特的のサイトカインの作用を抑制する薬剤である。

・作用点によって様々な薬剤があるが、代表例としてトシリズマブ(ヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体)は使用頻度も多い。IL-6はT細胞の増殖や分化、B細胞の分化に関与するサイトカインである。また、IL-6はC反応性蛋白(CRP)産生にも関与するため、トシリズマブ使用患者は細菌感染症が発生したとしてもCRPが上昇しないことがあるので注意すべきである。

TNF-α阻害薬

・TNF(腫瘍壊死因子)-αが、マクロファージやファゴソームの活性化、単球の分化、好中球の動員に関与するサイトカインである。

・インフリキシマブが代表的な薬剤であり、様々な感染症リスクの増大に加えて、潜在性結核やB型C型肝炎ウイルスの再活性化のリスクが高まるため、開始前のそれらの感染症のスクリーニング検査が必要である。

・副作用として好中球減少がよく見られるので要注意。

抗補体モノクローナル抗体

・代表的なのはエクリズマブ。

・補体経路を構成する因子の一つであるC5に対するモノクローナル抗体であり、髄膜炎菌をはじめとする莢膜形成細菌による重症感染症のリスクが非常に高い。そのため米国のガイラインでは、エクリズマブ投与の2週間前までに髄膜炎菌ワクチンを接種し、さらに4週間後or抗体価が陽転するまで抗菌薬予防投与を推奨している。

・同じく莢膜形成細菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌については、C3を中心としたオプソニン作用によって除菌されるため、エクリズマブによる影響は少ないとされる。

低分子キナーゼ阻害薬

・代表的なのはトファシチニブなど。トファシチニブは潰瘍性大腸炎の治療薬であり、JAK-1とJAK-3などを阻害し、インターロイキンなどのシグナル伝達を阻害する。そのため種々の感染症リスクはあり。

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