総論
・Down症候群は、21番染色体のトリソミーが原因で起こるヒトで最多の染色体異常である。
・本邦では、600-800出生に対して1人の割合で生まれると推定されている。
・Down症候群の新生児の約5-10%に、未熟な血液細胞が末梢血、肝臓、骨髄などの臓器で一過性に増殖する、「一過性骨髄異常増殖症(TAM)」という骨髄増殖性疾患を発症する。
・TAMでみられる芽球は、形態学的にも細胞表面マーカーや遺伝子発現の面からも、Down症候群に伴う骨髄性白血病(myeloid leukemia associated with Down syndrome: ML-DS)の芽球と区別ができない。両者は赤血球系と巨核球系に共通の前駆細胞に由来すると考えられている。
・TAMのほとんどの症例は3ヶ月以内に自然に寛解するが、約20%の患者は肝線維症、心不全、呼吸不全などを合併し、臓器不全・播種性血管内凝固(DIC)などにより死亡する。
・重症例には少量シタラビン療法が有効であることが示されている。
・自然寛解例の約20%はその後、4歳までにML−DSを発症することが報告されている。
病態
・TAMのほとんどの症例では、赤血球・巨核球系転写因子GATA1の遺伝子に体細胞突然変異が認められる。
・モザイク型Down症候群に合併するTAMは、例外なくトリソミー21を有する細胞由来であることが知られており、TAMの発症においてトリソミー21が重要であることが強く示唆される。
・またDown症候群の胎児肝ではGATA1変異がなくても巨核球・赤芽球系前駆細胞の占める割合が高く、コロニー形成能も高いことが報告されている。
臨床所見
・TAMは症状のない軽症例から、胎児水腫をきたす重症例まで様々である。
・血液学的異常としては血小板減少をきたすことが最も多く、他の血球減少は少ない。
・重症例では著しい白血球増加を呈し、出血傾向、呼吸困難、黄疸、発疹がみられる。
・末梢血の芽球の比率が骨髄の芽球比率より高いことがある。
・多くの症例で肝脾腫がみられ、まれに心肺不全、過粘稠度症候群、脾壊死や進行性の肝線維症などの致死的な合併症を呈する。
診断・検査
・Down症候群の新生児では、TAMを診断するために肝脾腫などを認めなくても必ず末梢血検査をすることが重要である。
・骨髄よりも末梢血で芽球の割合が高い傾向がみられるため、必ずしも骨髄検査は必要ではない。
・芽球はCD7, CD33, CD34, CD36, CD117(KIT), CD41, CD42b, CD61などの血小板抗原が高発現していることが多く、フローサイトメトリーによる検査は診断に有用である。
・現時点で最も鋭敏な診断に役立つ検査項目(診断マーカー)は、GATA1変異である。次世代シークエンサーを用いたターゲットシークエンス法による解析では、GATA1変異陽性のTAMクローンをもつDown症候群児は約30%にものぼると推定される。
・TAMとML-DSの鑑別は形態学的にも表面マーカー、GATA1変異からも鑑別は困難である。現時点では、発症時期の違いで区別することが実際的であり、本邦のTAM-10の研究では、生後90日以内の症例をTAMと定義している。
治療
・TAMの新生児の多くは治療を必要とせず、生後3ヶ月以内に自然寛解する。しかし、約20%が肝不全、呼吸循環不全などのために早期死亡する。
・予後不良因子としては、白血球数高値(10万/μL以上)、直接ビリルビン・肝逸脱酵素の上昇、早期産、腹水、出血傾向、自然寛解に至らない場合などが挙げられる。
・本邦のJPLSG、TAM-10研究では、多変量解析で独立した予後因子は、白血球数(10万/μL以上)および全身浮腫であった。少量シタラビン療法は、白血球数高知群の生存率を有意に向上させたが、全身浮腫群ではその効果は観察されなかった。
予後
・TAM症例のうち、20%前後が1歳半前後をピークにML-DSを発症する。
・フローサイトメトリー法による3ヶ月時点での微小残存病変(FCM-MRD)陽性が白血発症の予測因子になることが明らかになっている。
 
  
  
  
  

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