総論
・心膜切開後症候群(PPS:Post pericardiotomy syndrome)は、心臓外科術後・心膜を切開する手技の後に発症する可能性のある合併症の一つである炎症性疾患です。
・心膜切開後の数日から数週間以内に発症することが多く、自己免疫反応が関与していると考えられています。
・術式により発症頻度が異なり、小児領域では心房中隔欠損(ASD)閉鎖術後は発症率が高いです。また、21トリソミー合併例にも多いとされています。
症状
PPSの症状は以下のようなものがあります:
- 胸痛: 心膜炎による胸痛が典型的です。胸部の鋭い痛みや圧迫感があり、深呼吸や横になった時に悪化します。術後疼痛と鑑別が難しいです。
- 発熱: 発熱は一般的な症状であり、手術後の感染と区別する必要があります。
- 疲労感: 全身倦怠感や疲労感を訴えることがあります。
- 呼吸困難: 心嚢液の貯留により、呼吸困難が生じることがあります。
- 心嚢液貯留: 心膜炎により心嚢に液体が貯留することがあります。これが進行すると、心タンポナーデのリスクが高まります。心膜摩擦音が生じることもあります。
原因と病態
・PPSの正確な原因は不明ですが、心膜への損傷後に自己免疫反応が引き起こされると考えられています。
・心臓手術や心膜を切開する手技によって、心膜が外傷を受け、これに対する免疫反応が心膜炎や心嚢液貯留を引き起こします。
診断
PPSの診断は主に臨床的に行われ、以下の要素が考慮されます:
- 病歴: 最近の心臓手術や心膜切開歴があるかどうか。好発時期は術後1週間。
- 症状: 上述の典型的な症状があるかどうか。
- 検査: 心エコー検査で心嚢液貯留が確認される場合があります。血液検査では炎症マーカー(CRPやESR)の上昇が見られることがあります。しかし、白血球が上昇することは少ないです。また、CK、CK-MB、トロポニンなどが手術後として不適切には上昇はしません。
鑑別
・鑑別疾患として、診断では致命的疾患である心筋梗塞の除外が必要となります。
・PPSでは広範なST上昇を示しますが、心筋梗塞とは異なり、aVRとV1を除くST上昇の対側性変化が少ないことが特徴です。また、最初はST部が凹型に上昇します。時間経過とともにST上昇が戻ってから、T波が全体にわたり逆転します(心筋梗塞の場合は、ST上昇が戻る『前』にT波が逆転する)。
・心エコーでは、壁運動が低下していないかどうかも確認が必要です。
治療
PPSの治療は症状の管理を中心に行われます
内科的治療
心タンポナーデを発症しないように、細かくエコーでチェックすることが重要です。
利尿薬を通常より多めに投与し、アスピリンを抗炎症量で開始すると奏功することが多いです。しかし、アスピリンの投与量を増やすと血小板機能への影響もあるので要注意。
アスピリン以外にも、以下の薬剤も使用します。しかし、論文レビューではどの薬剤がベストなのかというデータはなく、ガイドラインでも明確には示されていません。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 軽度から中等度の炎症や痛みの管理に使用されます。
- コルヒチン: 心膜炎の再発防止に有効とされています。しかし日本ではPPSへの保険適応なし。
- ステロイド: 重症例やアスピリンが無効な場合に使用されます。予防的投与の有効性は示されていません。
外科的治療
心嚢ドレナージ
・心嚢液排出: 大量の心嚢液貯留がある場合、または心タンポナーデのリスクが高い場合に心嚢液の排出が必要になることがあります。
心膜開窓術
・難治性の心嚢液貯留を繰り返す症例に適応です。
・左胸腔アプローチがよく用いられますが、胸腔鏡下で施行する場合もあります。左横隔神経前方の心膜を大きめに切除し、心嚢液が胸腔に流れ出るようにします。
・心臓手術後以外の症例でも適応となる場合があります。
予後
・PPSは適切な治療によりほとんどの患者で良好に回復しますが、一部の患者では再発や慢性的な症状が続くことがあります。
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