完全大血管転位(TGA)
総論
・完全大血管転位(transposition of great arterics: TGA)は、右房に連結した解剖学的右室から大動脈が、左房に連結した解剖学的左室から肺動脈が起始する疾患である。
・解剖学的右室、左室は必ずしも各々右側・左側にあるわけではなく、特徴的形態から定義される。解剖学的右室は粗い肉柱からなり、心尖部寄りに付着する房室弁(三尖弁)を有する三角形の形態である。解剖学的左室は平滑な肉柱からなり、心基部寄りに付着する房室弁(僧帽弁)を有するフットボール型の形態である。
・発生頻度は先天性心疾患の2%で、全出生の0.02%である。胎児診断率は50%未満で、依然として出生後診断が少なくない。
血行動態
・体循環に動脈血が供給されるには、心房中隔欠損:ASD(or卵円孔開存)、心室中隔欠損:VSD、動脈管開存:PDAなどの短絡によるmixingが必要である。
・分類として、VSDを伴わないⅠ型(50%)、VSDを伴うⅡ型(40%)、VSDと肺動脈狭窄:PS(肺動脈弁および弁下)を伴うⅢ型(10%)に分類される。
・出生直後よりチアノーゼを呈するが、心室中隔欠損や動脈管開存からのmixingは少なく、全身の酸素飽和度の維持には心房間での十分なmixingが必要である。
治療
・出生後は、PaO2>30mmHgを目標に管理するが、出生早期は酸素解離曲線が左方にシフトしているため、SpO2 75-80%以上を要することが多い。PaO2<25mmHgとなると乳酸アシドーシスをきたし、危機的状況となりうる。
・心房間交通の狭小化があれば、TGA型によらず、カテーテルによるバルーン心房中隔裂開術(balloon atrial septostomy: BAS)が必要である。
・TGA Ⅰ型では、プロスタグランジンE1製剤(PGE1)を投与して、動脈管左右シャントの増加で左房圧を上昇させることにより、心房間のmixingを促進させる。BASの効果が得られれば、PGE1を中止する。
大血管スイッチ手術(ASO)
・Ⅰ型、Ⅱ型では大血管スイッチ手術(arterial switch operation: ASO)を行うが、Ⅰ型では生理的肺血管抵抗の低下で左室圧が低下すると左室壁厚が薄くなり術後心不全をきたしうるため、生後1-2週間以内に行う。Ⅱ型では大きなVSDにより左室圧は低下しないが、高肺血流性心不全が経時的に進行するため。新生児期〜乳児期早期にASOを行う。
術後合併症と外来フォロー
・ASO術後の合併症として、肺動脈狭窄、冠動脈病変、大動脈基部拡張、大動脈弁閉鎖不全、不整脈などが挙げられる。よって、外来では上記の疾患を念頭に、心電図・心エコー検査でのフォローは推奨されている。
・肺動脈狭窄が最も高頻度で、ASO術後の3分の1で起こるとされている。
・冠動脈病変の確認事項として、狭窄病変を認める場合は、心筋虚血や不整脈、心ポンプ不全などに注意が必要である。よって運動負荷試験やCT・MRIでのフォローアップが重要。
予後
・無治療では1歳までの生存率が10%とされるが、近年では胎児診断の増加や周術期管理の進歩により、90%が成人に達している。
修正大血管転位(cTGA)
総論
・修正大血管転位(corrected transposition of the great arteries: cTGA)は、右房に連続する解剖学的左室から肺動脈が、左房に連結する解剖学的右室から大動脈が起始する疾患で、心房-心室と心室-大血管関係がともに不一致(discordant)となる。
・全身から還流する静脈血は、右房→解剖学的左室→肺動脈、肺から還流する動脈血は左房→解剖学的右室→大動脈へ流れ、正常心と同様の血行動態に修正されている。
・発生頻度は先天性心疾患の0.5%、前出生の0.006%とまれである。
血行動態
・心室中隔欠損(80%)、肺動脈弁・弁下狭窄や閉鎖(25-50%)、三尖弁の形態異常(32%)などの心合併症をcTGAの約9割で認めるが、それぞれの臨床像は多彩である。
・合併心病変のないcTGAは約1割で、小児期には無症状のこともあるが、加齢とともに右室機能低下や三尖弁逆流、うっ血性心不全を助長する。刺激伝導系の走行異常による房室ブロックも加齢とともに増加し、うっ血性心不全を助長する。
治療
・解剖学的右室を体心室としたままでVSD閉鎖、肺動脈狭窄解除、左室・肺動脈流出路再建、三尖弁手術など合併心病変を修復する「機能的修復術」と、解剖学的左室を体心室に変換する「解剖学的修復術」に大別される。
・解剖学的修復術は、心房スイッチ術(ダブルスイッチ術)あるいはRastelli手術を行う。
・肺動脈狭窄がないか軽度の場合は、大血管スイッチ術が選択され、肺動脈狭窄・閉鎖とVSDを伴う場合はRastelli手術が選択される。
・解剖学的修復術を行うには、解剖学的左室が体血圧に耐えられるように、術前に肺動脈狭窄あるいは肺動脈絞扼術により十分にトレーニングされている必要がある(体心室圧の70-80%以上)。しかし、左室トレーのングとしての肺動脈絞扼術の時期は10歳以降では成功率が低いとされており、乳児期から幼児期早期の施行が推奨される。
・心室の圧・容量・収縮能や肺動脈弁・弁下の形態、房室弁形態などを評価して、最適な術式を選択する。一側の心室低形成やVSD閉鎖困難例では、1.5心室修復術やFontan型手術の適応となる場合がある。
・大きな心室中隔欠損で高肺血流性心不全をきたす場合は肺動脈絞扼術を、高度の肺動脈狭窄・閉鎖で肺血流を動脈管に依存する場合はPGE1製剤を開始のうえで体肺動脈短絡術をそれぞれ新生児期に行う。
・経過中に三尖弁逆流の悪化や右室機能低下をきたす場合は、三尖弁形成術・弁置換術(3弁)、肺動脈絞扼術などを考慮する。
内服加療
・右室機能低下への薬物療法として、慢性心不全治療薬であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬や、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬などの効果が検討されている。しかし有効性は様々であり、症例ごとに個別の検討が必要である。
外来フォロー
・未手術のisolated cTGAや機能性修復術後では、右室機能不全や三尖弁逆流、房室ブロックなどの進行に注意してフォローする。
・解剖学的修復術後では遠隔期の左室機能不全や大動脈弁逆流、ダブルスイッチ術後の上室性頻拍や洞機能不全症候群などの不整脈や静脈路狭窄、Rastelli術後の人工導管狭窄や弁逆流、大動脈弁下狭窄などに注意する。


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