総論
・QT延長症候群(Long QT Syndrome, LQTS)は、心臓の電気的活動に異常が生じ、心拍リズムが乱れることで、致命的な不整脈や突然死のリスクが高まる疾患です。
・LQTSは、心電図(ECG)で確認される「QT間隔」が通常よりも長くなることが特徴です。QT間隔は、心室の興奮(脱分極)から回復(再分極)までの時間を示しており、この時間が延びることで心臓のリズムが乱れやすくなります。
・LQTSは大きく分けて先天性と後天性に分類されます。先天性LQTSは遺伝的要因によって発症し、一部の遺伝子変異が原因となります。一方、後天性LQTSは薬剤や電解質異常など外的要因によって引き起こされます。これらのタイプに応じた適切な治療や管理が必要です。
・先天性のものには、難聴を伴うJervell and Lange-Nielsen症候群(常染色体劣性遺伝)と、難聴を伴わないRomano-Ward症候群(常染色体優性遺伝)がある。
・LQTSは女性に多く、常染色体優性遺伝ですが、浸透率は60%前後です。
・LQTSの型と失神発作が起こる誘引には密接な関係があり、LQTS1型は運動、特に水泳中、LQTS3型は安静時・特に睡眠時、覚醒する際におきやすい。LQTS2型は、安静時、情動、運動でも起こりますが、目覚まし時計などの突然の音刺激により起こるのが特徴的です。
・LQT1〜3で90%を占める。
QT間隔の判読
・QT間隔の正常な評価は、V5誘導あるいはⅡorV6誘導で接線法を用いて行う。
・心拍数が安定した状態で、先行するRR間隔による補正値(QTc)を求めることが一般的で、Bazettの補正式とFridericiaの補正式がある(心拍数の早い小児では、Fridericiaの補正式で小学生0.43秒、中学生0.445秒以上で延長あり)。
・上記の式は計算が煩雑であり、実際は自動解析の補正値やQT間隔の実測値、T波の形も参考にして、疑わしい例を詳しく解析する。
注意すべき不整脈:TdP
・QT延長症候群では、QT間隔が延長し心室期外収縮が(心電図上いわゆるR on Tの形で)出現し、TdPへ移行する。
・TdPが起こると脳全般の低灌流により失神、けいれんを起こす。一過性であることが多いが、寝室細動への移行、突然死のリスクもあり要注意である。
診断(Schwartzの診断基準)
・臨床診断はSchwartzの診断基準に則り、合計が『3.5点以上』でQT延長症候群の可能性が高く、Ⅰ点以下では低くなる。以下の3つの点から診断を行う。
心電図所見
QTc:≧0.48秒 3点、0.46~0.479秒 2点、0.45~0.459秒 1点
QTc(運動負荷試験リカバリー4分)≧0.48秒 1点
torsade de pointes(TdP):2点
T wave alternans(TWA):1点
3誘導以上でノッチを伴うT波:1点
年齢不相応の徐脈:0.5点
臨床症状
失神:ストレスを伴う 2点、ストレスを伴わない 1点
先天性難聴:0.5点
家族歴
先天性QT延長症候群の家族歴:1点
30歳未満での突然死の家族歴:0.5点
・注意点としては、QT延長症候群の遺伝子変異を持ちながらQT延長が顕在化していない、不完全浸透例も存在していることを留意しておく。心電図のQT間隔の計測だけでは発見できない可能性もあるので、家族歴、失神の既往歴を詳細に聴取することが重要である。
分類
・先天性と後天性(二次性)に分類される。
先天性
・先天性には、常染色体優性遺伝で聴力障害を伴わないRomano-Ward症候群(15種類、LQT1~LQT15の遺伝子変異の報告あり)、常染色体劣性遺伝で聴力障害を伴うJervell and Lange-Nielsen症候群、孤発例がある。
・遺伝子変異はイオンチャネル(カリウムやナトリウムなど)の機能を障害し、心臓の再分極過程を遅らせることでQT間隔を延長させます。先天性LQTSは家族歴との関連も強く、多くの場合、家族内で同様の疾患歴が見られます。
・特徴的な先天性の5疾患は以下の通り
LQT1
・KCNQ1遺伝子変異: カリウムチャネルに関連する障害で、運動中やストレス時に不整脈が発生しやすい。
・心イベントは運動時や感情ストレス時に多く、安静時には少ない。
・心イベントと運動、特に水泳とマラソンとの関連が強い
・活動性の高い男児の心イベントリスクが高い。
LQT2
・KCNH2遺伝子変異: カリウムチャネルの異常であり、大きな音や驚きなど急な外的刺激によって不整脈が誘発されることがある。
・心イベントリスクは運動時や情動ストレス時に起きやすいが、睡眠からの覚醒時にも多く、目覚まし時計、電話の着信音で心イベントを起こす。
・妊娠中や出産後にリスクが高い。
LQT3
・SCN5A遺伝子変異): ナトリウムチャネルの機能障害であり、特に安静時や睡眠中に不整脈が発生しやすい。
・心イベントは安静時や睡眠時に多い
・運動との関連は少ない
・致死的心イベントリスクは高い。
・SCN5A遺伝子の変異であるためBrugada症候群や進行性心臓電動障害の家族歴がある場合がある。
LQT7
・別名Andersen症候群。
・不整脈の他、合指症、小顎症、耳介低位を特徴とする
・比較的予後は良好
LQT8
・別名Timothy症候群。
・不整脈の他、合指症、先天性心疾患、免疫不全、低血糖発作、認知障害、自閉症スペクトラム障害を特徴とする。
後天性(薬剤性, 電解質異常, 栄養障害, 甲状腺機能低下…etc)
・後天性には薬剤性、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症)、徐脈、栄養障害(神経性食思不振症)、甲状腺機能低下症、脳血管障害がある。
・以下の薬剤は心臓の電気的活動に影響を与え、不整脈を誘発することがあります。
• 抗不整脈薬(例:アミオダロン、キニジン、ジソピラミド、プロカインアミド、ニフェカラント、ソタロール、ベプリジル)
• 抗精神病薬(例:ハロペリドール、アミトリプチン、クロルプロマジン、ピモジド、チオリダジン)
• 抗生物質(例:エリスロマイシン、クラリスロマイシン、スパルフロキサシン)
・抗アレルギー薬(例:テルフェナジン、アステミゾール)
・とくに遺伝子変異を保有する不完全浸透例はQT時間を延長する誘引に注意が必要である。
検査
12誘導心電図
・最も診断的価値が高い。
・学校検診など自動計測ではBazettの補正式を用いることが多いが、心拍が早いと過補正になるためFridericiaの補正式を用いる。
・新生児、乳児発症のQT延長症候群では2:1房室ブロックを伴うことがある。
・先天性QT延長症候群では特徴的な心電図所見がみられる。
LQT1:幅広いT波
LQT2:ノッチを伴う低いT波
LQT3:T波の立ち上がりが遅いT波
Holter心電図
・QT時間の日内変動、T wave alternans(TWA)、心室不整脈の有無について検討が可能。
・TWA:1拍ごとにT波の波高または極性が変化する心電図所見で、TdPの直前に見られる
負荷試験
・顔面浸水負荷試験、運動負荷試験、カテコラミン負荷試験がある。
・いずれもQT延長が顕在化し心室不整脈を誘発する可能性があるため、明らかなQT延長症例では必須ではない。
・水泳中や運動中の失神が出現した症例で、徐脈性不整脈やカテコラミン誘発多形性心室頻拍との鑑別、不完全浸透例を疑う場合に適応あり。
遺伝子解析
・QT延長症候群はほかの遺伝性不整脈と比較して検出率が高く70%ほどであり、治療方針の決定に有用
・一方、遺伝子変異があっても浸透率は低く、QT延長が明らかでない症例も多い。
・遺伝子解析で同定されるサブタイプの9割がLQT1~LQT3(LQT1 40%, LQT2 30-40%, LQT3 10%)で、その他は稀である。
・常染色体優性の遺伝形式であるため、両親のどちらかが同じ遺伝子変異を持っていれば、患者の同胞についても検索する。両親のどちらも遺伝子変異がなければ孤発例ということになる。
治療
急性期治療(TdP頻拍時の治療)
・心室細動時は小児二次救命処置法(Pediatric advenced life suppport: PALS)に準じた心肺蘇生法を開始し、速やかな除細動が必要であるが、QT延長が関与したTdPを認める時は、心肺蘇生と同時にQTを延長する因子(徐脈、低カリウム血症、低マグネシウム血症)を是正する必要がある。
・日本循環器学会の不整脈薬物治療ガイドライン(2020)では、TdPには以下の治療が推奨。
硫酸マグネシウム
TdP出現時:硫酸マグネシウム水和物 30−40 ㎎/㎏(5%ブドウ糖液で希釈) 5-10分で投与
持続投与(不整脈が落ち着いた後):0.05〜0.3 ㎎/㎏/分
・硫酸マグネシウムの副作用として、急激なMg上昇による徐脈、房室ブロック、呼吸抑制があり、濃度モニリングするなど注意が必要。
非発作時の管理
・先天性QT延長症候群の第1選択薬は、7-8割を占めるLQT1とLQT2および女性のLQT3ではβ遮断薬(内服薬ではプロプラノロールやナドロール、静注薬ではランジオロール)、QTc>0.50秒のLQT3ではメキシレチン。
・また、心イベントを予防する観点においては生活指導が最も重要。規則正しい生活を心がけ、過度な疲労や電解質の喪失を防ぐ必要がある。
・二次性QT延長症候群の原因薬剤を避けることも重要。
・先天性QT延長症候群と診断され、失神やTdP、心室細動を経験した際はβ遮断薬内服が勧められる。
・QT時間が長い方がハイリスクであり、QTcが0.5秒以上で心イベントリスクが3.3倍という報告もある。
サブタイプ別の対応
・LQT1では運動制限とβ遮断薬の有効性が高い。マラソンなどの長時間の運動を含め、競技的スポーツは一切禁止とし、水泳中の心イベントが多いので、水泳も禁止とする。
・LQT2も運動制限とβ遮断薬投与を行うが、心イベントの予防効果が期待できない症例もある。急激な交感神経の緊張(目覚まし時計、電話の着信音)が心イベントを誘発するため、そのような状況をさける必要あり。
・LQT3は安静時や睡眠中に心イベントが多く、運動制限やβ遮断薬の予防降下は乏しい。メキシレチンの使用が推奨されており、心イベントの予防に有効とされるペースメーカーの適応を早期に考える。
最新研究
・近年では、新しい治療法として遺伝子編集技術やiPS細胞技術への期待が高まっています。特に先天性LQTS患者への根本治療として注目されています。
遺伝子治療とCRISPR/Cas9技術
・CRISPR/Cas9技術を用いた遺伝子編集によって、一部の先天性LQTS患者への根本的な治療法として研究されています。この技術では、不良遺伝子部分を修正することで正常なイオンチャネル機能を回復させることを目指しています。ただし、安全性と倫理面からまだ臨床応用には至っておらず、更なる研究開発と慎重な評価が求められています。
iPS細胞技術による個別化医療
・iPS細胞から作成された心筋細胞モデルを用いることで、新しい薬剤スクリーニングや個別化医療への応用も進んでいます。この技術によって患者ごとの細胞レベルで適切な治療法を選択できる可能性があります。また、新しい薬剤開発にも寄与しています。
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