PPHN: persistent pulmonary hypertension of the newborn
総論
・何らかの原因で胎盤が脱落した後も肺循環がうまく始まらない、新生児早期の適応障害のこと。
・肺循環が確立しないために低酸素血症を来す。
・通常、子宮内の胎児では、胎児循環といって、肺の血管が収縮していて肺に血液が流れない特別な血液循環をしています。そして出生して啼泣後に、肺の血管が拡張して、私たちと同じ、肺にも血液が流れる循環が始まります。
・胎児の間はお母さんの子宮内で羊水に満たされた空間で生活する胎児は、胎盤から酸素の含んだ血液をもらっているので、肺を使った呼吸は必要ありませんが、出生後、臍帯の取れた後は自分で呼吸し、酸素を体内に取り入れて行かなければなりません。そのために、肺に血液を送る必要があるのです。この肺への血管が収縮したままでは、血液が肺に流れず、呼吸が苦しくなってしまいます。
・このように、肺の血管が収縮したままで、肺への血液の流れがうまく行かない状態を肺高血圧症(PPHN)と言います。
概念
肺血管の機能的な異常、肺血管または肺血管平滑筋の構造上の異常により、出生後も肺動脈圧が異常に亢進しているため肺循環への血流が少なく、動脈管あるいは卵円孔を介する右左シャントが持続している状態
原因
肺血管抵抗が高いための絶対的な肺高血圧症
・MAS:胎便吸引症候群(出生時の適応障害)
・肺の解剖学的異常(先天性横隔膜ヘルニア、肺低形症など)
・dry lung症候群
・先天性肺炎(GBS、リステリアなど)
体血圧が低いための相対的な肺高血圧症
・新生児仮死(出生時の適応障害)
・出血性ショック
・敗血症(GBSなど)
・低血糖
・多血症
・低体温….etc
・一番多いケースは、MAS(胎便吸引症候群)後のPPHN
・どの原因も、低酸素血症が引き金となってPPHNが発症している。
病因:単純型と複合型
単純型:心筋障害を伴わない、肺動脈圧の絶対値が高い
特発性:胎内で異常筋層化した肺血管床が出生後わずかのストレスに過剰反応する
二次性:肺血管抵抗を高める基礎疾患を有するもの
①肺実質疾患:胎便吸引症候群(MAS)、呼吸窮迫症候群(RDS)、肺炎、気胸
②肺血管床減少:先天性横隔膜ヘルニア、肺低形成
③血液疾患:多血症、心内膜血栓
④代謝疾患:低カルシウム血症、低血糖、代謝性アシドーシス、低体温
⑤感染症:B群溶連菌(GBS)、Ureaplasma、echovirus2肺炎
⑥機序不明:腹壁破裂、胎児ヒダントイン症候群、肝の動静脈奇形
複合型:心筋障害による相対的肺高血圧
①新生児一過性心筋虚血(myocardial dysfunction)
②周産期の大量出血(hypovolemic shock)
病態生理
・肺血管の攣縮により右心系の血液が肺に流れなくなり(右心系の後負荷の上昇)、チアノーゼ血(還元型ヘモグロビン)は、まだ開存している卵円孔や動脈管を介して左心系に流れ込みます(シャント)。
・肺から左心系に還ってくる酸素を含んだ血液(酸化ヘモグロビン)が少なく、さらにそこにチアノーゼ血がシャント血液として流れ込むため、全身は強度のチアノーゼをきたします。
・シャントが動脈管レベルのみの場合、上半身(preductal)と下半身(postductal)でSpO2に差が生じてきます。
症状
・高度のチアノーゼ、特に下半身に強い(分離性チアノーゼ)
・啼泣、体動、処置などで増悪するチアノーゼ発作(flip-flop)
・Ⅱ音の亢進
・通常心雑音は聴取されないが、TR、MRによる収縮期雑音を聴取することもあり。
診断
血行動態の把握
・十分な酸素投与によっても低酸素血症が改善しない場合
・preductal(右上肢)とpostductal(下肢)でSpO2に較差(PDAを介したシャント)を認めた場合(下肢が上肢より5%以上低い)
・ただし、卵円孔レベルでのRLシャントが優位な場合、上下肢のSpO2の差を認めないこともあり、上下肢のSpO2の差がないことがPPHNを否定する根拠とはならない。
心臓エコー検査
・チアノーゼ性心疾患の否定(TAPVR, CoA, Ebstein奇形など)が重要
・動脈管、卵円孔レベルでの右-左シャント(or両方向性シャント)の証明
→三尖弁逆流、肺動脈血流速度の減弱も参考になる
・心室中隔の扁平化(左心室の拡張障害)
肺高血圧の評価
①右房圧の推定
・三尖弁逆流の最大流速(V)から右室圧が推定できる(簡易ベルヌーイの式)
右室圧=ΔP+5(〜10), ΔP=4×V*2
②Main PAでの加速時間(AcT)と駆出時間(ET)の比
・全駆出時間がET(Ejection time)で、立ち上がりからピークまでの時間がAcT(Accerelation time)
・AcT/ET≦0.25は肺高血圧がある(正常値は0.4前後)
治療
・PPHNの治療の原則は、肺血管の拡張(=肺動脈圧の低下)と体血圧の上昇です。
基本方針
・十分な鎮静:flip-flop防止
・呼吸条件調節, O2上昇、CO2下降:肺血管抵抗を下げる
・アルカリ化:肺血管抵抗を下げるため
・原因に対する治療:サーファクタント(肺拡張不良)、ステロイド(炎症、肺浮腫)、抗菌薬(感染症)
処置方針
・刺激を避ける(ミニマルハンドリング)
・気管内吸引などの処置の直前に鎮静薬を追加投与
・下肢または臍動脈に動脈ライン確保
・中心静脈ライン確保
・尿道カテーテルの留置
人工換気療法
①高濃度酸素吸入
・低酸素血症は肺血管の収縮に対して最も強い刺激になっているので、悪循環を断つのに有効
②過換気療法
・肺血管抵抗は血液pHと反比例の関係にあり、アルカローシスを保つと有効。
・過換気によりCO2を下げると、卵円孔・動脈管での右-左シャントが消失する値があり、critical CO2:TcPCO2と呼ばれる。過換気でcritical CO2を維持する。しかし、PaCO2 35mmHg以下を避ける(聴力障害リスク)。
・Flip-flopが消失するまでは、換気条件を下げない。
・脳虚血や肺の圧損傷に注意する。
③HFO
・過換気療法による圧損傷を防ぐ人工換気療法である。
・ただし、MASのように気道の閉塞性病変を伴っている場合は振動が肺胞まで伝わらない可能性あり注意が必要。
薬物療法
・NO療法と血管拡張薬、昇圧剤による治療がある。
一酸化窒素(NO)吸入療法
・体血圧を下げずに肺血管抵抗のみを選択的に下げる唯一の治療方法。呼吸管理でうまく行かない場合に考慮される。
概念
人工呼吸器回路内へNOガスを投与することにより、吸入されたNOが肺血管平滑筋へ直接作用し、血管拡張作用を期待する治療法。NOは肺血管内へ拡散すると、ただちに不活性化され、体血圧に影響がないのが特徴。
Topics
・2008年にNOガス「アイノフロー吸入用800ppm」が医薬品として製造販売承認
・NO投与装置「アイノベント」が医療機器として製造販売承認されている。
適応
・新生児のPPHNに対しては、後ほどまとめる他の薬物療法よりも効果に優れ、副作用も少ない。そのため第1選択として用いられる治療法。
・原則NOは、20ppmで開始する。しかし肺血流の急速な増加がPDAをの症候化を招く危険性のある早産児では、5ppmから開始した方が安全という意見もある。
①重度の呼吸不全がある
・FiO2=100%でもPaO2 80以上かつSpO2 94%以上が保てない場合などが目安
・状況によってはより早期に導入する場合もあり
②PPHNの所見あり
・必須所見:動脈管(PDA) and/or 卵円孔(PFO)の右左短絡
・参考所見:肺動脈血流の減少、重度の三尖弁逆流、上下肢のSpO2較差を認める
NO吸入療法の副作用
肺胞上皮の障害:フリーラジカルとしての作用
メトヘモグロビン血症:NOとヘモグロビンの結合
出血傾向:血小板凝集の抑制
動脈管開存症の悪化:肺血流の必要以上の増加
肺出血:血小板機能低下、肺血流増加
血管拡張薬
・現在、注射薬で体血圧を下げずに肺血管抵抗のみを選択的に下げる薬剤はない。
①ニトログリセリン(ミリスロール)
静脈拡張作用を期待するとき:0.5-2 μg/kg/分
動脈拡張作用を期待するとき:5-8 μg/kg/分
・静脈拡張作用が強いので、循環血液量を十分に保つ必要がある。しかし、心機能が低下している症例では、急速で多量の輸液は心機能を悪化させるので注意。
②PGE1(プロスタンディン) 0.01-0.1 μg/kg/分
③PDE3阻害薬(ミルリーラ) 0.25-0.75 μg/kg/分
カテコラミン
・心不全の治療、体血圧上昇の目的で使用する。
・正期産児では、収縮期血圧50-60 mmHgを目標とする。
①ドパミン(イノバン) 2-5 μg/kg/分
②ドブタミン(ドブトレックス) 1-10 μg/kg/分
※ドパミンで血圧上昇が不十分なとき, ドパミンと併用
③イソプロテレノール(プロタノール) 0.02-0.1 μg/kg/分
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