総論
・新生児発作は中枢神経の重篤な障害を反映する徴候であり、緊急を要する疾患の一つである。慢性のてんかん性の場合もあるが、低酸素虚血、出血、低血糖などによる脳の一時的な急性症状の場合も多い。
・新生児けいれんでは、けいれん以外の発作症状(無呼吸, 心迫上昇や血圧変動)しかみられない場合もある。
・頻度は、正期産児で出生1000に対して3例、早産児で出生1000に対して60例
症状
・年長児によくみられる間代性や強直性の発作型だけが症状ではない。
・無呼吸、徐脈、頻脈などのバイタルサインの異常を徴候とするものなど多彩な症状を呈する。
・脳波異常を認めるものの、臨床症状を伴わない発作も多い(subclinical seizure)。その一方、一見するとけいれんと思われる新生児の異常運動でも、脳波検査では発作波を伴っていない場合も多い。発作症状と発作時脳波所見との間に乖離があることが、新生児けいれんの特徴である。
原因
以下に新生児けいれんの原因疾患を頻度順にまとめる。
①低酸素性虚血性脳症
②頭蓋内出血(脳室内出血、実質出血、硬膜下出血、くも膜下出血)
③中枢神経感染症(細菌性髄膜炎、新生児ヘルペス脳炎)
④脳梗塞(動脈・静脈)
⑤先天代謝異常症(アミノ酸代謝異常、有機酸代謝異常、ミトコンドリア病など)
その他
・電解質、血糖異常(低血糖、低カルシウム血症、低マグネシウム血症)
・奇形、構造異常(脳形成異常症、神経皮膚症候群、神経細胞移動異常症)
・新生児発症てんかん
乳児早期てんかん脳症(EIEE), 早期ミオクロニー脳症(EME)
片側巨脳症などの皮質痙性障害、全前脳胞症
常染色体優性遺伝を示す良性家族性新生児けいれん
生後5日目に発症することが多いfifth day fitsとよばれる良性特発性新生児けいれん
検査
脳波検査, aEEG
・新生児脳波検査にはハードルが高いが、aEEG(amplitude integrated EEG)の使用が有用
・aEEGにおける発作パターンは最小振幅値の一過性の上昇として示される。
・また、発作が群発する場合は鋸歯状パターン(saw tooth pattern)と呼ばれる特徴的な波形となる
・あくまで新生児脳波検査がゴールドスタンダードであるので、aEEGで異常を見つけて脳波検査につなげることが重要。
・脳波検査なしに新生児けいれんと診断することは非常に難しい。発作間欠時にspikeが出現することは少なく、発作時脳波を捕まえる必要がある。
血液検査
・血糖、Ca、Mg、血液ガス、CRP、Na、K、Cl、Ht
鑑別疾患
以下は新生児けいれんではない異常運動であり、鑑別とする。
jitteriness
・ブルブル震える動きが主な症状。
・時々ミオクローヌスを伴う異常な運動。
・眼球の異常運動を伴わず、刺激で誘発され、抑制で改善される場合があるなどの特徴
良性睡眠時ミオクローヌス
・睡眠時のみにみられるミオクローヌス( ピクッとする運動)
・発作時にも脳波異常を伴わない
驚愕反応
・筋緊張の亢進を伴い、前額へのタッピングや音刺激で誘発される。
落陽現象
・水頭症などが原因疾患
・足間代(足クローヌス)、後弓反張
微細発作
・明らかな間代、強直、ミオクローヌスではない異常な運動性発作。あるいは自律神経機能の発作性変化と定義されている。曖昧な概念。
・具体的には眼球異常運動(固視や水平偏位を伴う持続性の眼振など)、吸啜・クロール・ペダルこぎのような異常運動、無呼吸、発作性の頻脈や血圧変動などが挙げられる。
無呼吸
・徐脈を伴う早産児の無呼吸ならばけいれんではない場合が多い。
・しかし、正期産児の無呼吸、特に徐脈を伴わない無呼吸はけいれんの場合が多い
治療
適応
・WHOが2011年に発表した「Guidelines on Neonetal Seizures」では、どのような新生児発作に対しても抗てんかん薬を投与するのかというクリニカルクエスチョンに対して、臨床症状がない発作を含むすべての新生児発作に対して治療を行うことを推奨している。
・また、新生児発作については単位時間あたりの頻度ではなく単位時間あたりの発作時間が予後不良と関係している。短時間の発作は抗てんかん薬の使用は必要ないが、30-60秒/時間以上の発作は抗てんかん薬の投与が推奨されている。またバイタルサインの異常や臨床症状はないが発作時脳波を認めるsubclinical seizureについても、頻回の場合は治療適応。
治療例
・第一選択としてフェノバルビタールが実臨床上多い。
①フェノバルビタール(ノーベルバール)
・1バイアル250mgを5mLの注射用水で希釈し、20mg/kg(0.4mL/kg)を30分かけて点滴
・追加で10mg/回を2回まで投与可能。追加する場合、人工換気補助を考慮する。
・発作が頓挫しなければ血中濃度をモニタリングして投与量を増やす。血中濃度が治療域にも関わらず発作のコントロールが不良な場合は、別の抗てんかん薬の追加投与を考慮する。
②ホスフェニトイン(ホストイン)
・1バイアル750mg/10mLを生理食塩液90mLで希釈し、約19mg/kg(2.5mL/kg)を30分かけて点滴
・投与速度は1mg/kg/分を超えない。
③レベチラセタム(イーケプラ)
・1バイアル500mg/5mLを生理食塩液20mLで希釈し、20mg/kg(1mL/kg)を30分かけて点滴
・しかし、基礎疾患によっては発作のコントロールが困難であるため、いたずらに抗てんかん薬を増やしてはいけない。
・新生児への抗てんかん薬の使用には注意が必要。抗てんかん薬には神経細胞のアパトーシスを誘導する作用があったり、ミダゾラムやフェノバールなどのGABA作動薬は成人では抑制系に働くが、新生児では興奮系に作用し、十分な抗けいれん作用が得られない、逆に新生児発作を誘発する可能性がある。


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