【小児科医Blog:神経】難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS)について | ゆるっと小児科医ブログ
PR

【小児科医Blog:神経】難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS)について

神経

・難治頻回部分発作重積型急性脳炎(AERRPS: Acute Encephalitis with Refractory, Repetitive Partial Seizures)は、極めて稀かつ深刻な小児の神経疾患です。

・本疾患は、原因不明で頻回の部分発作を特徴とし、長期間にわたる集中治療が必要になることが多いです。この記事では、医療専門家向けにAERRPSについて詳細に解説します。

概要

・AERRPSは、日本で初めて確立された疾患概念であり、Febrile Infection-Related Epilepsy Syndrome(FIRES)「=発熱を伴う感染症に関連したてんかん症候群」やNew Onset Refractory Status Epilepticus(NORSE)と類似しています。

・この疾患は、発熱を契機に頻回の部分発作が出現し、その後もけいれんが持続することが特徴です。急性期には人工呼吸管理を含む集中治療が必要となり、神経学的予後は不良です。

・種々の薬物治療に対して難治で重責傾向を示す部分発作(顔面や四肢のけいれん)を主徴とします。

・幼児期〜学童期の発症が多いです。

参考

1.難病情報センター

難治頻回部分発作重積型急性脳炎 – 難病情報センター

2.厚生労働科学研究成果データベース

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の病態解明のための包括的研究 | 厚生労働科学研究成果データベース
厚生労働科学研究成果データベース MHLW GRANTS SYSTEM

疫学・発症年齢

  • 発症率: 非常に稀であり、日本国内外で報告されている症例数は100例以上に留まります。
  • 年齢層: 主に幼児期から学童期にかけて発症し、男女差はありません。

原因・病態

・現在のところ、AERRPSの明確な原因は解明されていません。しかし、以下のような仮説が提唱されています。

  • 中枢神経系の炎症: 特殊なてんかんとして捉えられることがあります。
  • 遺伝的要因: イオンチャネル遺伝子異常や自己免疫学的機序が関与している可能性。
  • 感染との関連: 発熱や感染症がトリガーとなるケースが多い

主な症状

AERRPSは以下のような特徴的な臨床像を示します。

  • けいれん: 発熱後(数日後)に出現し、徐々に頻度が増加し1~2週間でピークに達します。
    • 眼球偏位や顔面間代など焦点発作が多い。
    • 急性期には5~15分間隔で規則的に反復する群発型けいれん重積を呈する。
    • 発熱を伴い、発作増悪時に間欠的に発熱する例もある。
    • その後、発作症状は徐々に減少するが持続し、そのまま連続性に慢性期に移行する。
  • 意識障害: 急性期には意識レベル低下を伴うことが多い。
  • 精神症状・不随意運動: 一部の患者では精神的混乱や異常運動も見られます。

診断基準

診断は以下の要素を基に行われます

A. 症状

  • 発熱
  • 頻回かつ難治性の焦点発作
  • 群発型けいれん重積
  • 慢性的なてんかんへの移行

B. 検査所見

  • 髄液検査:軽度の細胞数増加、蛋白上昇がみられる。髄液中炎症マーカー(ネオプテリンやIL-6)の上昇。抗GluN2B抗体の上昇も半数以上に認められる。
  • 脳波異常(周期性放電):焦点性の発作活動が反復出現する。発作間欠時には多焦点性てんかん発射のほか、全般性または一側性周期性放電をしばしば認める。
  • 頭部MRI:当初は正常でも、経時的に海馬、島周囲皮質、視床、大脳基底核などに異常信号がみられる場合がある。最終的には紅斑性脳萎縮がみられる。

C. 鑑別診断

ウイルス性脳炎や自己免疫性脳炎など他疾患との区別が重要です。

治療

AERRPSの治療は非常に困難であり、以下のアプローチが取られます。

急性期

  1. 抗てんかん薬
    • バルビタール製剤による大量持続静注で脳波をバーストサプレッション状態に保つ。
    • フェノバルビタールやゾニサミドも使用される場合があります
  2. 集中管理
    • バルビツール系の高用量持続静注を行う場合、人工呼吸管理および昇圧剤投与を要します。

慢性期

  1. 長期抗てんかん薬治療
    • 臭化カリウムやレベチラセタムなどを併用。
  2. リハビリテーション
    • 運動障害や知的障害への対応として理学療法・作業療法が推奨されます。

免疫療法

・免疫抑制剤や免疫グロブリン療法については効果が限定的であり、さらなる研究が必要です

予後・合併症

AERRPSは長期的な神経学的後遺症を残すことが多く、以下のような問題が見られます。

  • 知的障害: 高率で認知機能低下を伴います。
  • 運動障害: 重症例では痙性四肢麻痺など最重度の障害を残すことがあります。
  • 生命予後: 突然死(SUDEP)のリスクも報告されています。

鑑別診断

・ウイルス性脳炎・脳症

・自己免疫性脳炎

・先天代謝異常(Alpers症候群)

・中枢性血管炎

・限局性皮質異形成

・Dravet症候群

・PCDH19関連てんかんなど

コメント

タイトルとURLをコピーしました