定義
・急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)は、急性〜亜急性に中枢神経症状が発症します。炎症性脱髄を病因とする疾患です。
・行動変化や意識の変容を主体とする脳症症状を伴います。
・脳症症状がない場合には、clinically isolated syndrome(CIS)などを考えます。
・発病後3ヶ月以上して新規の神経症状やMRI病変が出現することはありません。もし出現した場合は、多発性硬化症や視神経脊髄炎などを考えます。
病因・病態
・小児のADEMは、発病前に感染症やワクチン接種が見られることが多く、免疫介在性の炎症性脱髄が病態と考えられているが、未解明な点が多い。
・分子相同説では、髄鞘を形成するミエリンの構成蛋白であるミエリン塩基性蛋白(MBP:myelin basic protein)やmyelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)が感染病原体と相同する構造を持つため、ミエリンに対する免疫的な攻撃が起こると考えられている。
・HHVー6、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、EBウイルスに反応するT細胞はMBPと交差反応を起こすことが知られている。炎症カスケード説では、先行感染症によるサイトカインやケモカインで影響を受けた脳からミエリン関連蛋白が流出し、T細胞を活性化させると考えらえる。
疫学
・英国での前方視的疫学調査によると、ADEMは脳炎の11%を占めるとされ、免疫介在性の脳炎ではもっとも多い。
・小児ADEMの有病率は0.69/100,000、発生率は0.40/100,000、男女比は2.0:1、平均発病年齢は5.5歳である。
診断基準
以下の5項目の全てを満たす。
①初発の多巣性の中枢神経症状・徴候で、炎症性脱髄が推定される。
②発熱のみでは説明できない脳症症状(行動変化、意識障害など)
③発病後3ヶ月経過したのちには新たな臨床症状やMRI病変が出現しない。
④脳MRIは急性期(3ヶ月)の間、異常所見を示す。
⑤典型的なMRI異常は、以下の特徴を有する。
・大脳白質主体のびまん性、境界不鮮明の1~2cm以上の大きな病変
・白質のT1強調像での低信号病変は稀
・視床、大脳基底核などの深部灰白質病変があることがある。
病歴・症状
・感染症やワクチン接種後6-12日して、発熱、不快感、眠気、悪心、頭痛などが起こって先行症状期に入る。
・先行症状が始まり4.5~7.5日すると、神経症状が急性~亜急性に出現してきて、ADEMを疑うことができる状況になります。しかし、障害されている部位の違い、あるいは重症度の違いから臨床症状には多様性があります。
・ADEM発病期の症状には、診断基準から必ず認められる脳症症状(行動変化や意識の変容を主体とする症状)以外には、歩行障害、発作、運動麻痺、排尿障害、感覚障害、視覚障害、脳幹障害などが高頻度にみられる。
・症状や兆候の多巣性、すなわち脳や脊髄の多数の部位の障害を示唆する所見がADEMの特徴です。
MRI検査
・経過や症状からADEMを疑う場合はMRI検査を行う。
・ADEMでは、特徴的なMRI検査病変をFLAIR画像などで確認します。
・急性期のMRI検査では、大脳白質主体のびまん性、境界不鮮明の1~2cm以上の大きな病変が特徴で、造影効果は1/3以下の症例でみられるにすぎません。
・多発性硬化症とは異なり、白質のT1強調画像での低信号病変はまれで、視床・大脳基底核などの深部灰白質病変がみられる場合もあります。


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