今回は、新生児期の機能的腸閉塞の代表疾患、肛門側腸管の腸管壁内神経節細胞の先天的欠如に由来する、ヒルシュスプルング病についてをまとめていきます。
1. 概念・病態生理
・ヒルシュスプルング病は、消化管の壁内神経叢(Auerbach神経叢およびMeissner神経叢)の神経節細胞が先天的に欠如することで発症する機能的腸閉塞症である。
・胎生期における神経堤細胞(Neural crest cells)の遊走停止障害に起因し、無神経節部は蠕動運動の欠如と持続的な攣縮状態(spasticity)を呈する。これにより、口側の正常腸管における著明な拡張と、排便障害を引き起こす。
・直腸末端まで神経細胞が認められるにもかかわらず、先天的な下部消化管の運動機能障害を示す「ヒルシュスプルング病類縁疾患」という概念もある。
- 疫学: 出生約5,000人に1人。男女比は約4:1で男児に多い。合併奇形は少ない、Down症候群児に比較的多い。
- RET遺伝子: 家族発症例や全結腸型などでRET原がん遺伝子の変異が関与することが知られている。
2. 分類
無神経節腸管の広がりに基づき、以下の病型に分類される。
- 短域型(Short-segment type): 直腸〜S状結腸に限局するもの。全症例の約75〜80%を占める。
- 広域型(Long-segment type): S状結腸を超えて口側に及ぶもの。
- 全結腸型(Total colonic aganglionosis): 結腸すべて、あるいは回腸末端まで及ぶもの。
- 全腸管型(Total intestinal aganglionosis): 十二指腸あるいはそれ以深の全腸管に及ぶもの。
3. 臨床所見・身体所見
新生児期
- 胎便排泄遅延: 生後24時間(または48時間)以内の胎便排泄が見られないことが最大の初発症状である。
- 低位腸閉塞症状: 腹部膨満、胆汁性嘔吐、哺乳不良。
- 直腸指診: 肛門管は緊張が高く(tight)、抜指時に貯留したガスと便が爆発的に排出される現象(Blast sign / Explosive stool)を認めることがある。
乳児期以降
- 頑固な便秘: 自力排便が困難で、浣腸や摘便を常用する。
- 成長障害: 慢性的な腹部膨満と栄養吸収障害による体重増加不良。
- ヒルシュスプルング病類縁疾患との鑑別: 慢性特発性偽性腸閉塞症などとの鑑別を要する。
Warning: ヒルシュスプルング病腸炎(HAEC) 腸管内圧の上昇による血流障害、粘膜バリアの破綻により細菌感染を生じ、敗血症に至る重篤な合併症。発熱、腹部膨満の増悪、悪臭を伴う泥状便が三主徴である。
また、症状は無神経節腸管の長さや排便処置の有無によりかなり個人差があり、浣腸や肛門ブジーなどにより排便することも少なくない。
4. 画像所見
生後48時間以上排便排泄がなければ、まず腹部単純X線を撮影する。
腹部単純X線
- Low ileus pattern: 結腸全体のガス貯留と鏡面像(nivel)を認める一方、骨盤腔内(直腸)にはガス像が乏しい(empty rectum)。
注腸造影検査(Contrast Enema)
診断における重要度が高い。ただし、新生児期や全結腸型では典型的所見に乏しい場合がある(新生児期は腸管の拡張が明瞭ではない)。
無神経節腸管はnarrow segment (=狭小部)として造影され、口側の正常腸管は拡張し、caliber change (=径の変化)が特徴的である。narrow segmentの範囲により病型分類される。
- Caliber change(口径差): 攣縮した無神経節部(狭小化)と、その口側の著明に拡張した正常神経節部との移行帯(Transition zone)を認める。
- Rectosigmoid Index(R/S index): 正常児ではS状結腸より直腸が太いが、本症(短域型)では直腸が狭小化し逆転現象が起きる(R/S index < 1)。
- 不整な鋸歯状収縮: 無神経節部に特有の無秩序な収縮波。
- 造影剤の排泄遅延: 24時間後もバリウムが残存する。
5. 検査所見・病理診断
直腸肛門内圧検査(Anorectal Manometry)
- 直腸肛門反射(RAIR)の欠如: 正常では直腸壁が進展すると内肛門括約筋が弛緩するが、本症ではこの反射が消失し、内圧の低下を認めない(陰性所見)。
直腸粘膜生検(Rectal Suction Biopsy) / 全層生検
確定診断に必須である。
- H&E染色: 神経節細胞の欠如を確認する。
- アセチルコリンエステラーゼ(AChE)染色: 粘膜固有層および粘膜筋板において、コリン作動性神経線維の異常増生(濃染)を認める。ACh-E活性が著しく増強していれば診断確定。
- カルレチニン免疫染色: 近年普及しており、神経節細胞および神経線維の欠損(陰性)をもって診断する。
6. 治療法
基本方針は、機能不全に陥っている無神経節腸管を切除し、正常な神経節をもつ腸管を肛門管に吻合することである。
浣腸、ブジーなどの排便処置を繰り返しながら保存的治療を試みる。
術前管理
- 減圧処置: 洗腸(Colonic irrigation)により糞便を除去し、腸炎の予防と拡張腸管の縮小を図る。
- 人工肛門造設(Stoma): 保存的減圧が困難な場合や、全結腸型などの長域病変、高度な腸炎を合併している場合に選択される。体重増加を待って二期的に根治術を施行する。
- 抗菌薬投与:重篤な腸炎を合併する場合・敗血症に陥った場合には使用。
根治手術(Pull-through procedure)
保存的治療が可能で無神経節腸管が短ければ、体重増加を待って生後2~3ヶ月ごろに一期的根治術を行う。
無神経節腸管が長くても保存的治療可能な場合は、できるだけ早期に一期的根治術を行う。
近年は腹腔鏡補助下あるいは経肛門的アプローチ(Transanal Endorectal Pull-through: TEPT)が主流となり、低侵襲化が進んでいる。代表的な術式は以下の通り。
- Swenson法: 無神経節腸管を全切除し、正常腸管と肛門を端々吻合する。
- Duhamel法(直腸後壁癒合術): 直腸前壁を残し、その後壁に正常腸管を吻合する。神経機能の温存に優れるとされる。
- Soave法(直腸粘膜抜去・筋層筒内結腸プルスルー法): 直腸の筋層筒(Cuff)を残し、その中を通して正常腸管を引き出し吻合する。骨盤内神経損傷のリスクが低い。
予後・術後合併症
- 術後は一般に予後良好であるが、長期的な排便機能管理(QOL)が重要となる。
- 合併症として、便秘再発、遺糞(Soiling)、術後腸炎、吻合部狭窄などが挙げられる。


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