はじめに
・かつて、好酸球性消化管疾患(EGIDs)は一部の専門医だけが知る珍しい病気でした。しかし、2000年を境に欧米で患者数が爆発的に増加し、日本でも今、急速に症例が増えています。
・2020年には「厚生労働省EGIDs研究班」からガイドラインが発行され、診療の質は飛躍的に向上しました。そして2025年現在、「新名称の確立」「強力な新薬=生物学的製剤の登場」「国内大規模データベース(JED)による実態解明」という、これまでにない大きな転換期を迎えています。
・本記事では、小児科医の視点から、明日からの診療に直結する「EGIDs診療」を解説します。
総論
・EGIDsは、好酸球の消化管局所への異常な集積から好酸球性炎症が生じ、消化管組織が傷害され、機能不全を起こす疾患の総称です。
・原因による分類では一次性と二次性に分けられます。
・一次性は消化管に好酸球増多をきたす他疾患の除外による診断が基本ではありますが、アレルギー反応が主たる原因と考えられています。食物抗原のみならず、吸入抗原が原因になっている症例や、家族性の症例も存在します。
・二次性は原疾患の診断と治療が基本になります。一時的に高度の好酸球増多をきたす疾患により、好酸球自体の増加や活性化など好酸球側の要因であることもあれば、またケモカイン産生の増強など組織側の要因がある場合もあります。消化管は生理的にも好酸球が存在することから、比較的浸潤が増強されやすいと考えられています。
分類・呼称の変化
・これまで食道以外の病変は「好酸球性胃腸炎(EGE)」と一括りにされてきましたが、現在は病変の場所を明記する形に整理されました。
- EoE(食道): 好酸球性食道炎(変更なし)
- EoG(胃): 好酸球性胃炎
- EoD(十二指腸): 好酸球性十二指腸炎
- EoN(小腸): 好酸球性腸炎
- EoC(大腸): 好酸球性大腸炎
これらを総称してEGIDsと呼びます。場所を特定することで、部位ごとの診断基準や治療反応性の違いを、より精密に分析できるようになりました。
疫学
・日本消化器内視鏡学会の巨大データベース(JEDプロジェクト)が明かした数字は衝撃的です。
| 項目 | 2015年 | 2022年 |
| EoE症例数 | 35例 | 2,613例 |
| 内視鏡での発見率 | 0.04% | 0.17% |
・わずか7年で症例数は約75倍に増加。背景には、診断基準の浸透だけでなく、食生活の欧米化やピロリ菌感染率の低下も関係していると考えられています。
リスク因子のポイント
- アレルギー合併: 喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎を持つ子はハイリスクです。
- 症状の多様性: 小児では「胸焼け」だけでなく、「食べ進まない」「腹痛」「嘔吐」「成長障害」がサインになります。
診断
・診断は、「症状」「内視鏡」「病理(組織)」の3つのポイントを組み合わせて行います。
内視鏡の目印(EREFSスコア)
・食道のむくみ(Edema)、輪っかのような収縮(Rings)、白いブツブツ(Exudates)、縦走溝(Furrows)、狭窄(Stricture)をチェックします。
生検(バイオプシー)の重要性
・見た目が正常に見えても、組織を採ると好酸球がびっしり、ということがあります。食道なら「上下2カ所以上ずつ、計4個以上」の生検が推奨されます(基準:15個以上/HPF)。
治療
薬物療法
- PPI/P-CAB: まずは胃酸を抑える薬(タケキャブなど)を8週間。これで良くなる「PPI反応性」のケースも多いです。
- 局所ステロイド(嚥下療法): 喘息用の吸入薬を「飲み込む」特殊な方法。2024年からはEoE専用の口腔内崩壊錠も登場し、より使いやすくなりました。
- 全身性ステロイド: 腹水が溜まる重症例などに使用しますが、減量後の再発率(約60%)が課題です。
食事療法(Step-up法)
・かつては6種類の主要抗原をすべて抜く「6FED」が主流でしたが、今は「2-4-6 Step-up法」が推奨されています。
- 2FED: まずは「牛乳・小麦」の2つを除去(これだけで約半数が改善)。
- メリット: 制限が少ないため、子供のQOL(生活の質)を保ちやすく、栄養不足のリスクも抑えられます。
生物学的製剤:デュピルマブ
・今、最も注目されているのがデュピルマブ(デュピクセント)です。
・アレルギー炎症の根源(IL-4/13)をブロックするこの薬は、海外ではすでに1歳以上のEoEに承認済み。日本でも導入が進んでおり、ステロイドが手放せない難治例や、重症のアトピー・喘息を合併する子にとっての「救世主」になると期待されています。
治療目標
・小児のEGIDs治療のゴールは、単に数値を下げることではありません。
- 成長を守る: 慢性的にお腹が痛い子は、食事が摂れず身長・体重が伸び悩みます。成長曲線が横ばいになったら、早急な介入が必要です。
- 食道を守る: 炎症を放置すると、10〜20年で食道が硬く細くなる「線維化」が起こります。将来、食べ物が詰まって手術…という事態を防ぐため、症状がない状態(臨床的寛解)だけでなく、組織もきれいな状態(組織学的寛解)を目指します。
- 大人の診療科への移行: 思春期以降、スムーズに消化器内科へバトンタッチできるよう、小児科のうちから自己管理の意識を育てることが大切です。
本ブログの内容が今後の診療に生かされていくのであれば幸いです。


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