こんにちは。小児科医りんごです。
子どもは本当に予期せぬ動きをするものです。ソファから落ちた、滑って転んだ、お友達とぶつかった……。「ゴチン!」という鈍い音がした瞬間、親御さんの心臓が止まりそうになる気持ち、痛いほどよくわかります。
診察室でも、頭部外傷(頭を打ったこと)は非常に多い相談の一つです。 今回は、「すぐに病院に行くべきサイン」と「お家で様子を見ていい場合」の境界線を解説します。
※前半は非医療従事者向けの情報、後半(「総論」〜)は医療従事者向けの情報となっています。ぜひご覧下さい。
最初に確認すること:「意識」と「泣き方」
頭を打った直後、一番大切なのは親御さんが落ち着くことです。そして、以下のポイントをチェックしてください。
- すぐに「ウワーン!」と泣きましたか?
- 顔色は悪くないですか?(青白い、土気色など)
- 呼びかけに反応しますか?
「打った直後にすぐ泣いた」というのは、意識が保たれている証拠であり、まずは良いサインと言えます。逆に、「打ったあと数秒~数十秒、声を出さずにぼーっとしていた」場合は、一時的な意識消失の可能性があるため注意が必要です。
【緊急】すぐに受診(場合によっては救急車)のサイン
以下のような症状がある場合は、迷わず医療機関を受診してください。緊急性が高いです。
🚨 危険なサイン(レッドフラグ)
- 意識がない、呼びかけへの反応が鈍い
- 激しく泣き叫び続け、なだめても泣き止まない(不機嫌)
- 繰り返し嘔吐する(1回吐いただけですぐ元気になれば様子見可能ですが、2回以上吐く場合は受診を)
- 痙攣(けいれん)を起こした
- 手足の動きがおかしい、歩かせるとふらつく
- 「ここどこ?」「何が起きたの?」と同じことを何度も聞く(健忘)
- 耳や鼻から透明な水や血が出ている
- 頭痛がどんどんひどくなる
特に慎重になるべきケース
- 3ヶ月未満の赤ちゃん: 骨が柔らかく、頭蓋内出血があっても症状が出にくいことがあります。見た目が元気でも必ず受診してください。
- 2歳未満の子ども: 自分の症状を言葉で訴えられないため、少しでもいつもと違うと感じたら受診をお勧めします。
- 1メートル以上からの転落: およそ子どもの身長以上の高さからの転落は、重症リスクが高まります。2歳以上では1.5メートル、2歳未満では0.9メートル以上の高さからの転落は高エネルギー外傷と考えられます。
お家で様子を見ていいケース
以下の条件がすべて揃っていれば、ひとまずお家で様子を見ても大丈夫なことが多いです。
- 打った直後にすぐ泣き、その後泣き止んで機嫌が戻った
- 嘔吐がなく、顔色が良い
- 普段通り遊んだり、食事がとれている(視線も合う)
- たんこぶができているが、固い
💊 たんこぶのチェックポイント
- 固いたんこぶ: 多くの場合は頭蓋骨の外側の出血(皮下血腫)なので、比較的安心です。
- ブヨブヨした柔らかいたんこぶ: 骨折や、頭蓋骨の下に血が溜まっているサインの可能性があります。小さくても受診が必要です。
家庭でのケアと注意点
病院に行くほどではないと判断した場合でも、受傷後24時間は急変の可能性があります。
- 冷やす: 腫れている部分は、保冷剤をタオルで巻いて冷やしてあげましょう。
- お風呂: 当日は長湯を避け、シャワー程度にしておくのが無難です(体が温まると血流が良くなり、痛みや腫れが増すことがあります)。
- 食事: 吐き気が出ないか確認するため、最初は消化の良いものを少しずつ与えてください。
⚠️ 寝てしまった場合の対応
子どもは泣き疲れて寝てしまうことがあります。無理に起こし続ける必要はありませんが、急変を見逃さないためのチェックをお願いします。
- 最初の数時間は、近くで見守ってください。
- 寝息が規則正しいか、顔色が悪くないかを確認してください。
- 1~2回、体を優しくゆすったり声をかけたりして、少し目を開けたり、寝返りを打つなどの反応があるか確認してください(反応があればそのまま寝かせて大丈夫です)。※ゆすっても全く反応がない、ぐったりしている場合はすぐに受診してください。
最後に
頭を打った後、数週間~数か月経ってから症状が出る(慢性硬膜下血腫など)ことも稀にありますが、基本的には「最初の24時間(特に6時間以内)の変化」が最も重要です。
医学的な判断基準はもちろん大切ですが、毎日お子さんを見ている親御さんの「なんとなくおかしい」「目が合わない気がする」といった直感は、非常に鋭く、重要な判断材料になります。
迷ったときは、遠慮なくかかりつけ医を受診してください。「何もなくてよかったね」と確認するために病院を利用していただいて構いません。
👇️ここからは医療従事者向けの情報になります。
総論 (←ここから医療従事者向けの情報です)
・子供の外傷のうち、頭部・顔面の外傷が占める割合は成人よりも割合が高い。
・これは、子供では体全体に占める頭部の割合が大きく、重心が高いため転倒すると頭部をぶつけやすいためである。
・こどもの頭部外傷では、外傷性脳損傷を伴う確率は約1%くらいである。
・外来で頭部外傷をみた時に悩むこととして、「頭部CT検査を行うか」がポイントとなる。この基準として、PECARNの基準が用いられる
頭部CT基準
最近多くの小児科外来で使用されているのは、PECARNの基準でしょう。下記のうち一つでも当てはまれば、頭部CTを撮影します。
PECARNの基準
2歳未満
- GCS15点未満
- いつもと精神状態が違う
- 頭蓋骨にさわってわかるような骨折がある
- 後頭部、頭頂部、側頭部の頭皮に血腫がある
- 5秒以上意識がなかった
- 外傷機転が重度(90cm以上の落下だと重度な外傷機転)
- 親の命令に正しく行動できない
2歳以上
- GCS15点未満
- いつもと精神状態が違う(興奮、傾眠、同じ質問ばかりする、反応が鈍い)
- 頭蓋骨骨折の徴候がある
- 意識がなかった
- 嘔吐した
- 外傷機転が重度(150cm以上の落下だと重度な外傷機転)
- 強い頭痛がある
他の基準について
PECARN以外の他の頭部CT検査基準については、下記のブログ記事をご覧下さい👇️
経過
・外傷性脳損傷は、受傷後3~6時間、時には24時間近く経過して徐々に症状が出現することがある。
受傷後24時間はいつもと異なる精神状態(興奮、傾眠、同じ質問ばかりする、反応が鈍い)や嘔吐に注意し、出現する場合は頭部CTを検討する。
・頭部CTに異常がない場合も、嘔吐が続くなら入院とし、経過観察を行う。経過観察で異常がない場合、最終的に脳震盪の診断となる。
SCAT5:スポーツにおける脳震盪
・スポーツの現場では、頭部外傷の頻度も多い。
・脳震盪を負った選手を評価する標準的ツールとして、Sport Concussion Assessment Tool(SCAT)があり、現在改訂されSCAT5という基準が用いられている。
JFA SCAT5評価表
https://www.jfa.jp/football_family/pdf/medical/b08_02.pdf
Child SCAT5
https://bjsm.bmj.com/content/bjsports/early/2017/04/26/bjsports-2017-097492childscat5.full.pdf
脳震盪とは?(youtube)
SCAT5の評価方法(youtube)
Recognise:脳震盪を疑うには
・sports related concusion(SRC:スポーツ脳震盪)は、TBI(traumatic brain injury:外傷性脳損傷)受傷直後の、一過性の症状の出現と定義されることが多い。
Remove:競技からの離脱
・脳震盪が疑われる際は、選手に競技を中止させ、標準的な方法で評価する。
・ポイントとして、以下の場合は競技中止を考慮すべきです。
①頚椎損傷を正しく評価、除外する
②受傷した選手を1人にしない
③受傷した選手を移送するか
④脳震盪と診断され選手は、受傷当日は競技を中止する。
Re-evauate:複数回にわたって評価
・受傷時から改善あるいは悪化があったかどうかを含め、患者の臨床状態を判定する。そのためには、事故を目撃した人物がいる場合はお話を聞く。
・神経診察を行い異常がある場合、頭部CT検査を行う。
Rest:休養
・SRCのマネージメントで意見が一致しているのは、選手の症状がなくなるまで安静にすべきということである。
・安静休養は、肉体的ならびに精神的な安静により脳震盪後症候群を軽減し、脳震盪後の脳のエネルギー需要を低下させることが目的である。
・受傷後急性期(24-48時間)が過ぎたのちは、患者は症状を再発させたり悪化させたりしない程度の活動を徐々に強化していく。
Persistant symptoms:症状の遷延
・SRC後では、成人では10-14日間、小児では4週間を超えて症状が遷延する場合を指す。
・持続する症状は、単一の病態生理を反映するだけでない。脳への直接的な損傷だけではない。
Recovery:症状の回復
・SRCは受傷後24-72時間に認知機能および平衡機能を大きく悪化させる。
・多くの場合、受傷後2週間のうちに急速に改善する。
・段階的に競技に復帰するのが良い。
参考文献
- スポーツにおける脳振盪に関する共同声明 ─第5回国際スポーツ脳振盪会議(ベルリン, 2016)─ 解説と翻訳



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