1. 総論
・小児の腸炎を診察する際、重要なのは「細菌性」なのか「ウイルス性」なのかです。今回は、細菌性腸炎についてまとめます。
・細菌性腸炎を示唆する症状は、「高熱」、「強い腹痛」、「下痢(突然発症で1日4回以上)」、「血便」、「下痢発症前の嘔吐がほとんどない」などです。
・一方、サルモネラ(非チフス性)やエルシニアでは消化器症状を伴わない菌血症の病型を呈する場合もあります。
・また、細菌性では回腸末端から上行結腸などに浮腫性の壁肥厚、リンパ節腫脹などの病変を認めます(ウイルス性では、小腸や大腸に腸液貯留を認めます)。
2. 原因菌
・細菌性腸炎は主に動物由来の汚染された食品や水の摂取が原因のため、食事や飲水歴の聴取と症状出現までの潜伏期間から原因を推定します。その他、周囲に同様の症状を呈する者の有無、動物接触や海外渡航歴も重要です。
・最も頻度の高い細菌はカンピロバクター属で、非チフス性サルモネラ属が次いで多いです。
・そのほか、下痢原生大腸菌、エルシニア、赤痢菌などがあります。
・診断に最も重要な検査は便培養です。目的菌により選択培地が異なるので、細菌検査室との事前の情報共有が重要です。
・腸管出血性大腸菌は、選択培地で発育を確認後、菌の血清型と志賀毒素産生能を評価します。
3. 治療
・軽症の場合は、輸液のみで抗菌薬投与は必要ありません。
・しかし、強い腹痛、高熱、血便など重篤な症状を認める場合、もしくは乳児例、慢性消化器疾患・免疫抑制状態にあるものではempiric therapyを行います。
カンピロバクター属が疑われる場合
AZM(アジスロマイシン)
用量:10mg/kg/日(最大500mg/日)、1日1回、3日間、経口
エリスロマイシン
用量:40mg/kg/日(最大4000mg/日)、1日4回、5日間、経口
上記以外の菌種が疑われる場合
・AMPC(ペニシリン系:ワイドシリン) 経口
用量:30-40 mg/kg/day max1000mg/day
・FOM(ホスホマイシン:ホスミシン) 経口
用量:40-120 mg/kg/day max3000mg/day
・CTM(第2セフェム系:パンスポリン)
用量:40-80mg/kg/day
・NFLX(NK系:バクシダール) 経口
用量:6-12 mg/kg/day max600mg/day
菌血症が疑われる場合、抗菌薬の点滴静注を行う
・起炎菌が不明の時点での重症例やハイリスク患者における経験的治療としては、第3世代セファロスポリンがサルモネラ(非チフス)、エルシニア、赤痢をカバーし推奨される。
CTRX(ロセフィン) 静注または点滴静注
用量:100 mg/kg/day(max 2000mg/回) 1日1-2回
4. Definitive therapy
培養で分離菌の薬剤感受性の結果が出たあとの選択は以下の通りです。
⑴カンピロバクター腸炎
・細菌性腸炎として最多、国際的に増加している。
感染源:加熱の不十分な鶏肉が多い。豚肉や生野菜からの感染例もあり。
潜伏期間:1-7日間、平均3日
症状:下痢(1日10回以上)、血便(半数にあり)、腹痛、発熱
<治療>
1st:CAM 経口 10-15 mg/kg/day 3-5日間
2nd:FOM 経口 40-120 mg/kg/day 3-5日間
※抗菌薬は重症例を除いて推奨されない。
合併症:Guillain-Barre症候群を1-2週間後に発症するリスクあり (1/3,000:ネルソン小児科学より)
⑵非チフス性サルモネラ腸炎
・菌血症を合併することが多いので血液培養を行った方が良いです。
・入院、死亡に関しては小児の細菌性腸炎で最多。
感染源:加熱の不十分な鶏卵・鶏肉が有名。そのほかの食肉やペットのミドリガメ
潜伏期間:8-72時間
症状:発熱、下痢、血便
・耐性菌の報告が増加しており、分離菌の薬剤感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を選択します。
<治療>
AZM 経口 10mg/kg/日(500mg/日)、1日1回
AMPC 経口 30-40 mg/kg/day 3-7日間
FOM 経口 40-10 mg/kg/day 3-7日間
NFLX 経口 6-12mg/kg/day 3-7日間(乳児には投与しない)
<重症例の治療>
CTRX 静注または点滴静注 100mg/kg/day(4000mg/日), 1日1−2回
※Up-To-Dateでは12ヶ月未満、心疾患、免疫不全、高熱の持続、重症な場合抗菌薬投与が推奨される
⑶腸チフス・パラチフス
・NK低感受性菌の増加がインドを中心に報告されています。
・CTRX耐性株も報告されています。
<治療>
1st:CTRX 60-120mg/kg/day 14日間
2nd:NFLX 15-18mg/kg/day 14日間
AZM 10mg/kg/day、1日1回 7日間
⑷腸管出血性大腸菌(EHECまたは志賀毒素産生大腸菌)腸炎
原因菌:多いのは0157、O26、O111で、志賀毒素を産生する。
潜伏期間:1-10日間、中央値3日
症状:下痢、腹痛、発熱、嘔吐。特に下痢は1-3日後に血便となるが、
・まれに初日から血便となることも。下痢は8-9割でみられ、7日で治る。
・下痢発症3−14日後にHUSを合併することがある(10歳未満の約15%)。
<治療>
FOM 40-120 mg/kg/day 5日間
※抗菌薬は、発症2日間以内のホスミシン投与でHUSのリスクが有意に低いという研
究もあるが、それ以降ではHUSのリスクを増加する可能性があるため使用しない。
※3類感染症であり、感染症法に基づき届出が必要。
⑸細菌性赤痢
・治療の第一選択はNK系だが、耐性株も報告されるようになっています。
・また、乳児ではFOM、AZMを選択します。
<治療>
1st:NFLX 6-12mg/kg/day 5日間 ※乳児には使用しない
2nd:FOM 40-120 mg/kg/day 5日間
AZM 10mg/kg/day 1日1回 5日間
<重症例の治療>
CTRX 20-60 mg/kg/day max2000mg
⑹エルシニア属感染症
・βラクタマーゼ産生株が多く、PC系や第一世代セフェム系は感受性が低いです。
感染源:井戸水、食肉
潜伏期間:1-14日、通常は4-6日
症状:他の胃腸炎と比べ経過がゆっくり。発熱と下痢を認めるが、下痢は12-22日
間、20-60%で血便あり。右下腹部痛をきたすことがあり虫垂炎と鑑別が難しい。また、Yersinia pseudotubeculosisは結膜充血や苺舌など川崎病症状をきたすことがある。
<治療>
1st:CDTR-PI(セフジトレンピボキシル:メイアクト) 9mg/kg/day 3-5日間
2nd:NFLX、CTRX
参考文献
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