今回は夜尿症、いわゆる子供のおねしょについてのお話です。
定義
まず最初に夜尿症の定義についてです。ガイドラインでは以下のように定められています。
①年齢:5歳以上の小児の睡眠中の間欠的尿失禁である
②昼間尿失禁や、ほかの下部尿路症状の合併の有無は問わない
③頻度:1週間に4日以上の夜尿を頻回、3日以下の夜尿を非頻回とする
<下部尿路症状>
昼間尿失禁、尿意切迫、排尿困難、日中の排尿頻度が過小あるいは過多(排尿回数4回/日未満あるいは8回/日以上)
「夜尿症診療ガイドライン 2016」 ICCS. 2014年
昼にはお漏らしがなく、1週間の半分以上におねしょがあると夜尿症らしいというイメージです。概ね3ヶ月以上持続する場合が多いです。
また、5歳以上と定められており、それ以下の年齢では夜尿があったとしても病的意義は少ないということですね。
疫学
・日本の夜尿症で3/4を占める単一症候性夜尿に限定すると、就学前の5-6歳では約20%、小学校低学年では約10%台の夜尿症の児がいます。そして加齢とともに低下していきます。
・性差については、男女比2:1で低年齢では男児が多いとされますが、10歳以降は差が見られなくなります。思春期までは1年間に14%ずつ夜尿頻度が自然軽快していきます。
・しかし、10歳を超えても約5%前後、中学生では1-3%ほどの割合では夜尿状の子がいます。その後の改善は乏しく夜尿症が治癒せず成人になっても0.5%程度残存する場合もあるとのことです。
発現パターンでの分類
・夜尿症の発現パターンによって、2つに分けられる。
一次性夜尿症
定義:(うまれてからずっと)夜尿が持続
頻度:約75~90%
二次性夜尿
定義:(6ヶ月以上なかった夜尿が)再発
頻度:約10~25%
下部尿路症状の有無による分類
・昼間尿失禁などの下部尿路症状(lower urinary tract symptoms: LUTS)の有無による分類もあります。
単一症候性夜尿症
・夜尿のみを見とめる
・全体の約90%
非単一症候性夜尿症
・夜尿以外に下部尿路症状も伴う
・全体の約10%
下部尿路症状(LUTS)
・LUTSは日中の子どもたちを観察することで判明することがあり、保護者の方からの念入りな確認が重要となります。尿我慢姿勢などは、本人の自覚がない場合も多いです。
<代表的なLUTS>
①排尿頻度の異常(8回/日以上、または3回/日未満)
②昼間尿失禁
③尿意切迫
④遷延性排尿(排尿開始困難)
⑤腹圧排尿
⑥微弱尿線
⑦断続尿線
⑧尿我慢姿勢(足を交差してつま先立ちになり、もじもじしながら尿を我慢する。陰茎をつまんで尿を我慢する。尿意が強くなると動けなくなり、しゃがみこんで会陰部をかかとで抑えて尿を我慢する)
⑨残尿管
⑩排尿後のちびり(排尿後の尿の滴り)
⑪外性器や下部尿路の疼痛
帆立・赤司の病型分類
・本邦では、帆立・赤司の病型分類も夜尿症の病態を詳細に把握したい場合には有用です。
・初診時に夜尿症の病因を把握すれば、病型に従って具体的な治療が決まってきます。しかし、病態把握には詳細な排尿日誌の分析が必要であること、複数回の尿検査や尿量測定が必要であり、受診後早期に積極的治療を望む患者さんには適していません。
多尿型(多量遺尿型)
夜間尿量
6~9歳:≧200mL (≧0.9mL/kg/時)
10歳以上:≧250mL (≧0.9mL/kg/時)
起床時尿
浸透圧(mOsm/L):低浸透圧型 ≦800、正常浸透圧型 ≧801
比重:低浸透圧型 ≦1.022、正常浸透圧型 ≧1.023
機能的最大膀胱容量
6~9歳:≧200mL(≧5mL/kg)
10歳以上:≧250mL(≧5mL/kg)
昼間尿疾患
なし
病型分類に基づく治療選択
デスモプレシン
膀胱型(排尿機能未熟型)
夜間尿量
6~9歳:<200mL (<0.9mL/kg/時)
10歳以上:<250mL (<0.9mL/kg/時)
起床時尿
浸透圧(mOsm/L):801
比重: ≧1.023
機能的最大膀胱容量
6~9歳:Ⅰ型 <200mL(<5mL/kg)、Ⅱ型 昼間≧200mL(≧5mL/kg)、夜≦200mL(≦5mL/kg)
10歳以上:1型 <250mL(<5mL/kg)、Ⅱ型 昼間≧250mL(≧5mL/kg)、夜≦250mL(≦5mL/kg)
昼間尿疾患
Ⅰ型:ときにあり
Ⅱ型:なし
病型分類に基づく治療選択
抗コリン薬、アラーム
混合型(多尿型+膀胱型)
夜間尿量
6~9歳:≧200mL (≧0.9mL/kg/時)
10歳以上:≧250mL (≧0.9mL/kg/時)
起床時尿
浸透圧(mOsm/L):低浸透圧型 ≦800、正常浸透圧型 ≧801
比重:低浸透圧型 ≦1.022、正常浸透圧型 ≧1.023
機能的最大膀胱容量
6~9歳:<200mL(<5mL/kg)
10歳以上:<250mL(<5mL/kg)
昼間尿疾患
ときにあり
病型分類に基づく治療選択
デスモプレシン、抗コリン薬、アラームの併用
正常型
夜間尿量
6~9歳:<200mL (<0.9mL/kg/時)
10歳以上:<250mL(<0.9mL/kg/時)
起床時尿
浸透圧(mOsm/L): ≧801
比重:≧1.023
機能的最大膀胱容量
6~9歳:≧200mL(≧5mL/kg)
10歳以上:≧250mL(≧5mL/kg)
昼間尿疾患
なし
病型分類に基づく治療選択
デスモプレシン、抗コリン薬、アラームのいずれか
夜尿症をきたす可能性のある疾患
・下記の疾患は、夜間尿量の増加や膀胱容量の低下を引き起こす可能性があり、夜尿症の原因となりうる。
・依存症として重要なものは、便秘症、遺糞症、神経精神疾患(ADHDなど)、学習障害。睡眠時随伴症などである。
夜間尿量増大(夜間就寝中の尿産生が多い)
・腎尿路疾患:先天性腎尿路異常(低張尿)、低形成腎、異形成腎、水腎症
・心因疾患:神経性多飲症(低張尿)
・内分泌疾患:尿崩症(低張尿)、糖尿病(高張尿)
膀胱容量低下(排尿括約筋の過活動)
・腎尿路疾患:膀胱疾患、排尿筋過活動、排尿筋-尿道括約筋協調不全、慢性尿路感染症
・脊椎疾患:脊髄髄膜瘤、脊髄腫瘍
・内分泌疾患:高カルシウム尿症
その他
・腎尿路疾患:先天性腎尿路異常、異所性尿管
・神経疾患:てんかん
・耳鼻科疾患:睡眠時無呼吸症候群
・覚醒閾値上昇(尿意で起きられない)
治療
・夜尿症の治療は、まず最初は生活指導です。寝る前2時間の飲水を制限したり、トイレに定期的に行く習慣をおこなったり、夕食も塩分を控えめに、などなどあります。しかし、生活指導だけではうまくいかない例も多いとは思います。
・次に、血液・尿検査などを行い、随伴疾患がないかを精査します。たとえば糖尿病や尿崩症、甲状腺機能亢進症、高Ca血症、尿路感染症などが鑑別として挙げられます。あくまで原因となるものが該当しない場合、夜尿症の診断となります。
・また、このような随伴疾患のうち夜尿症との関連が多く指摘されるもので、便秘症があります。便秘を疑う場合は画像検査を行い丁寧に問診し、まずは便秘の治療を行うことで夜尿症が改善する例が多くあります。
薬物療法
検査での精査で該当せず、生活指導でも改善がない場合、治療希望があれば薬物療法が行われます。薬物療法では、抗利尿ホルモン製剤(デスモプレシン)、抗コリン薬、抗うつ薬などが用いられますが、今回はデスモプレシンについてまとめます。
デスモプレシン(DDAVP)口腔内崩壊錠
適応:6歳以上、夜間多尿があり膀胱容量が正常
Step1:初回治療
ミニリンメルトOD錠(120μg)1回1錠、就寝1時間前〜30分前or 直前
Step2:2週間後に効果不十分の場合
ミニリンメルトOD錠(240μg)1回1錠
・就寝から間もない時間帯に夜尿を認める患者では、DDAVPの血中濃度の上昇にかかる時間を考慮して、就寝30分〜1時間前までに内服。
・一方で、明け方近くに夜尿を認める患者さんでは、就寝直前に内服した方が効果的。
・舌下で溶かしたOD錠の成分はほとんどが口腔粘膜から吸収されるが、一部は唾液とともに消化管に流れる。すると、胃酸によって失活することがあるので、夕食後から2時間程度は服用までの間隔をあけたい。ほかの薬剤と一緒に水で飲んでいたりしないように注意!
・膀胱容量が小さい児の場合は効果が薄いことあり。
・保険診療上の条件に、「本剤使用前に観察期を設け、起床時尿を採取し、夜尿翌朝尿浸透圧の平均値が800 mOsm/L以下あるいは尿比重の平均値が1.022以下を目安とし、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認すること」とある。
・内服での治療が奏功したとしても、3ヶ月ほどで終了する。その後夜尿が自然に改善する場合もあれば戻ることもあるが、漫然とした治療は避ける。
選択的β₃受容体作動薬
・デスモプレシンやアラーム療法で効果が無効であった夜尿症患者に、次の一手として抗コリン薬を併用する代わりに選択
処方例)
ビベグロン(商品名:べオーバ) 50mg 1回1錠 夕食後
※夜尿症には保険適用なし、小児薬用量の設定はなし
小学校高学年(体重30kg以上目安): 50mg 1回1錠 夕食後 1日1回
小学校低学年(体重30kg未満目安):50mg 1回1錠 夕食後 隔日
・膀胱での蓄尿と排尿に関係する神経支配は、ムスカリンM₃受容体を介して、膀胱平滑筋を収縮させる副交感神経とアドレナリン受容体のサブタイプの一つであるβ₃受容体を介して膀胱平滑筋を弛緩させる交感神経系が関与します。
・夜尿症には従来、抗ムスカリン作用のある抗コリン薬が使用されていました。これはムスカリン受容体を遮断することで、結果的に膀胱収縮を抑制し蓄尿機能が高まるためです。しかし、十分な効果が得られないばかりか、口腔内乾燥、紅潮、集中力の低下、便秘、霧視などの全身性の副作用を認める場合がありました。
・一方、アドレナリン受容体であるβ₃受容体を介して膀胱平滑筋を弛緩させる選択的β₃受容体作動薬は、受容体特異性が高く、抗コリン薬も全身性の副作用が軽微です。
漢方薬
保険収載されているもの
小児量:1日量7.5gのエキス剤であれば0.15g/kg、9gのエキス剤であれば0.18g/kgが目安
保険収載されている夜尿症漢方薬の注意点として、甘草が含まれている点がある。多量服薬や長期間服薬の際は、偽性アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、体液貯留、浮腫、体重増加など)が現れることがある。長期間投与の際は、血清カリウム値の測定を行い、異常があれば服薬中止する必要がある。
①桂枝加竜骨牡蛎湯
適応:下腹直筋に緊張のある比較的体力の衰えているもの
成人用量:1日7.5gを2-3回に分割
②小建中湯
適応:体質虚弱で疲労しやすく、血色がすぐれず、腹痛、動悸、手足のほてり、冷え、頻尿および多尿などのいずれかを伴う。
成人用量:1日15.0gを2-3回に分割
保険収載されていないもの
①抑肝散
適応:虚弱な体質で神経がたかぶるもの
成人用量:1日7.5gを2-3回に分割
②六味丸
適応:疲れやすくて尿量減少または多尿で、時に口渇がある
成人用量:1日7.5gを2-3回に分割
アラーム療法
・夜尿に反応してアラームが鳴るということを繰り返し、夜尿への意識付けを行う。専用の機械を用いて行う。膀胱膨満感とアラーム音を結びつけることで、膀胱括約筋と核性の両者が膀胱充満巻に対する条件づけ反射として作用する。またアラーム音という嫌悪感を膀胱括約筋の収縮と覚醒によって回避するという回避行動学習作用もある。
・しかし、習い事などで帰宅が遅くなる患者では要注意。夜間の夕食や飲水の時間が遅くなってしまう場合、飲水制限が困難となる。そのようなライフスタイルに配慮すると、デスモプレシン療法よりもアラーム療法がうまくいく場合がある。
・ただし、アラームがなっても本人が覚醒せずに親が起こしに行く、という例も見られており、治療でにかかる負担としてはデスモプレシンより大きい。
・夜尿「日数の頻度が多い」患者には適している。これは、アラーム音で起きるという一連のトレーニングの機会が多くなるためである。具体的には、週に3回以上夜尿がみられる頻回の患者で、かつ「保護者や周囲の協力が得られる場合」に良い適応。
・反対に、夜尿の頻度が少ない場合、一晩に複数回の夜尿を認める場合、1回の夜尿量がごくわずかでアラーム機器が感知しにくい場合、保護者がアラーム治療の負担に対する対処が困難な場合、患者本人が治療に消極的な場合などは、アラーム療法に不向きといえるでしょう。
・再発率は少ないとの報告もあり、治療選択肢の一つである。


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