【小児科医blog:皮膚】伝染性軟属腫(Molluscum contagiosum)VS 尋常性疣贅(Verruca vulgaris) | ゆるっと小児科医ブログ
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【小児科医blog:皮膚】伝染性軟属腫(Molluscum contagiosum)VS 尋常性疣贅(Verruca vulgaris)

皮膚

総論

・小児の皮膚科疾患の中でも、伝染性軟属腫(Molluscum contagiosum)と尋常性疣贅(Verruca vulgaris)は、日常診療で非常に頻繁に遭遇する疾患です。これらは「イボ」として一括りにされがちですが、その病態、原因ウイルス、治療法は全く異なります。

・しかし、両疾患の臨床像は時に類似しており、特に複数の皮疹が混在する場合や、非典型的な形態を示す場合には、鑑別が困難なケースも少なくありません。また、治療法についても「経過観察」から「積極的治療」まで様々な選択肢があり、どのタイミングで、どの治療法を選択すべきか、エビデンスに基づいた判断が求められます。

・本記事では、小児の伝染性軟属腫と尋常性疣贅について、臨床現場で役立つ実践的な情報をお届けします。日々の診療にお役立ていただければ幸いです。


基本的事項

水いぼ・いぼの病態生理と原因ウイルス

・伝染性軟属腫と尋常性疣贅は、それぞれ異なるウイルスによって引き起こされる皮膚疾患です。両者の基本をしっかりと押さえることが、的確な診断と治療への第一歩となります。

伝染性軟属腫

・まず、伝染性軟属腫は、ポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルス(Molluscum contagiosum virus, MCV)によって引き起こされます。このウイルスはDNAウイルスであり、表皮の角化細胞内で増殖し、特徴的な軟属腫小体を形成します。MCVは直接接触によって感染が広がり、アトピー性皮膚炎を有する小児や免疫抑制状態の患者さんでは、感染が広範になる傾向があります。

尋常性疣贅

・一方、尋常性疣贅は、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus, HPV)の感染によって生じます。HPVはDNAウイルスで、非常に多くの遺伝子型が存在します。尋常性疣贅は、主にHPV2型、4型、7型などによって引き起こされますが、足底疣贅ではHPV1型、扁平疣贅ではHPV3型10型が関与します。これらのウイルスは、皮膚の小さな傷から侵入し、表皮の基底細胞に感染して細胞の増殖を促します。

両者の原因ウイルスの差異

・伝染性軟属腫ウイルス(MCV)は細胞質内で増殖するのに対し、ヒトパピローマウイルス(HPV)は核内で増殖します。この違いが、それぞれの病態や治療法に影響を与えていると考えることができます。


所見・鑑別診断

・両疾患の鑑別は、通常は比較的容易ですが、非典型的なケースでは注意が必要です。

伝染性軟属腫

・伝染性軟属腫の典型的な臨床像は、光沢のある、半球状の白色から肌色の丘疹で、中心に臍窩(さいか)と呼ばれるへこみがあることが特徴です。1~5mm大の小丘疹で、単発〜多発します。

・中心臍窩の確認で通常臨床診断で行う。皮膚科ではダーモスコピーでの観察を行うが、明るくしての拡大鏡検査を用いても観察できる。軟属腫では、中央部の黄白色無構造部分と辺縁の王冠状血管が認められる。ピンセットを用いた中心臍窩からの粥状物質の排出(軟属腫摘除)が診断を助ける。

・皮疹は通常、顔面、体幹、四肢に散在して認められます。微小外傷や毛孔から接触感染し、掻破によって自家感染し、線状に並ぶこともあります。

・軟属腫自体は無症状ですが、周囲に湿疹反応(軟属腫反応)を伴い、そう痒を訴えることがあります。軟属腫反応は掻破によるアトピー性皮膚炎の悪化因子や伝染性膿痂疹の誘発因子となります。

・軟属腫の治癒機転の現れである軟属腫の急激な発赤と腫脹は、BOTE (beginning of the end) サインと呼ばれます。

・夏季、特に6~7月に多い。

・潜伏期間は2~7週間。

・皮膚バリア機能が低下しているアトピー性皮膚炎患児に多いこと、兄弟間などの家族内感染、素肌で触れあうことの多いプール遊びやプールのビート板を介した感染が指摘されています。

尋常性疣贅

・一方、尋常性疣贅の典型的な臨床像は、表面がざらざらした、硬い丘疹や結節です。特に足底にできると、歩行時の圧力で内側に成長し、痛みを感じることがあります。

・皮疹の内部に点状の出血(ブラックドット)が認められることも鑑別の重要なポイントです。これは、真皮乳頭部の毛細血管が血栓化したもので、ウイルス感染による病変であることを示唆します。

・小児の手足背部や肘・膝部に生じることが多いです。

・潜伏期間は数週〜数年、平均3ヶ月くらいです。

・直径数ミリ〜1cm位までの角化性休診であり、手足・主に四肢に単発あるいは多発します。

・ダーモスコピーを用いて観察すると、白色角化性の環状構造、淡紅色小円形構造が敷石状配列や、角層内点状あるいはヘアピン様血管が認められます。

・幼少期では砂遊びや水遊びで指に逆剥けが生じやすく、そこに一致して生じ、爪囲疣贅と呼ばれています。

・アトピー性皮膚炎患者に生じる尋常性疣贅は表面平滑な独特の臨床所見を呈するため、伝染性軟属腫に告示することがあります。

鑑別困難例

しかし、鑑別が困難なケースも存在します。例えば、

  • 初期の伝染性軟属腫は、まだ臍窩が形成されておらず、単なる小さな丘疹に見えることがあります。
  • 顔面や手指にできた尋常性疣贅は、柔らかく、表面のざらつきが目立たないこともあり、伝染性軟属腫と誤診されるリスクがあります。
  • 両疾患が混在している場合や、免疫抑制状態の患者さんでは、皮疹が非常に広範囲に及んだり、 atypicalな形態を示すことがあります。
  • 疣贅の鑑別疾患として鶏眼(ウオノメ)や胼胝(タコ)があります。簡単な鑑別方法としては、表面の角質を取り除いて、点状出血像を得ればウイルス性疣贅と判断できます。

ダーモスコピーを活用した鑑別診断の強化

・最近の論文では、ダーモスコピーが両疾患の鑑別において非常に有用であることが報告されています。ダーモスコピーは、非侵襲的に皮膚病変を拡大して観察できるため、肉眼では見えない特徴を捉えることができます。

  • 伝染性軟属腫:ダーモスコピーでは、中心に白色から黄色のhomogeneousな構造が観察されます。これは軟属腫小体(Molluscum body)に相当します。また、その周囲には血管が網目状に拡張して見えることがあります。
  • 尋常性疣贅:ダーモスコピーでは、前述のブラックドット(点状の出血)が明確に観察されます。これは、血栓化した毛細血管が点で集合して見えるものです。また、不規則な血管のループや、白色から黄色のhomogeneousな構造が中心に認められることもあります。特に足底疣贅では、この血管のパターンが診断に非常に役立ちます。

両疾患の鑑別が難しいと感じた際には、ぜひダーモスコピーを活用してみてください。より確実な診断を下すことができます。


治療戦略

伝染性軟属腫の治療:経過観察から積極的介入まで

・伝染性軟属腫の治療方針については、議論が分かれるところです。自然治癒することが多いため、「経過観察」を第一選択とする考え方と、感染拡大や cosmeticな観点から「積極的な治療」を行うべきだという考え方があります。

経過観察のメリットとデメリット

  • メリット: 治療に伴う痛みや恐怖感を避けられる、自然治癒を待つことができる。
  • デメリット: 治癒までに数ヶ月から数年かかることがある、その間に病変が拡大し、他者への感染源となる、掻破による皮膚炎や感染症のリスクがある。

基本的に自然治癒する疾患であり、治療選択肢の一つ。ただしドライスキンやアトピー性皮膚炎があるなどリスクファクターがある場合は外用加療も行う。

積極的治療の選択肢

  • 物理的除去:鉗子(ピンセット)やキュレットを用いた内容物の圧出、掻爬術は最も確実な治療法の一つ。局所麻酔用リドカインテープ(ペンレステープ®など)を事前に行うことで、痛みを軽減できます。ペンレスは個疹あたり1cm角程度に切って、1~2時間貼付した後に摘除します。鑷子の先端を皮膚に垂直に当てて、陥凹させてから素早く除去すると痛みが少ないです。出血するので小絆創膏を用意しましょう。ペンレスの使用時のアナフィラキシーには要注意です。

  • 凍結療法(液体窒素):尋常性疣贅と同様に、伝染性軟属腫に対しても行われます。ただし、複数個ある場合には負担が大きくなります。

  • 外用療法
    • ポドフィリン:抗ウイルス作用がありますが、副作用(皮膚炎など)に注意が必要です。
    • イミキモド:免疫応答を活性化させることでウイルスの増殖を抑える効果があります。しかし、小児への適応は限定的であり、保険適用外です。
    • カンタリジン:水疱形成を促すことで病変を除去します。米国では用いられますが、日本では未承認です。
    • 最近の知見: 過去5年間のPubMedの論文では、サリチル酸、トレチノインなどの外用薬、さらにはtea tree oil檸檬の精油といった代替療法に関する報告も見られますが、いずれも有効性や安全性が確立されたものではなく、注意が必要です。

尋常性疣贅の治療:難治性疣贅へのアプローチ

・尋常性疣贅の治療は、伝染性軟属腫よりも難渋することが多いです。また絶対的な治療法はありません。特に難治性の疣贅については、複数の治療法を組み合わせる(combination therapy)ことが推奨されています。

液体窒素凍結療法

 保険適用あり

  • 凍結と融解を数回繰り返すことで、ウイルスに感染した細胞を破壊します。作用機序に免疫賦活作用があります。
  • 尋常性疣贅の治療として最も広く行われていますが、複数回の通院が必要で、痛みを伴います。
  • 疼痛軽減のために、凍結前に局所麻酔を行うこともあります。
  • 術後の水疱や血疱、瘢痕や治癒した原病変の周囲に環状に再発することがあり(ドーナツ疣贅の形成)、色素沈着や色素脱出等の副作用があります。

外用療法

  • サリチル酸ワセリン、スピール膏®:サリチル酸は細胞間の接着性を低下させ、角質軟化や剥離効果を高め、ウイルス粒子のいる角質の除去を助けることで疣贅を剥離する効果があります。10%サリチル酸ワセリンを絆創膏の綿部分につけ疣贅にあて作用させます。スピール膏(50%サリチル酸絆創膏)の場合、貼付し白く浸軟した角質をメスで除去します。スピール膏はいぼより大きい範囲に貼らないように注意します。
  • イミキモド:伝染性軟属腫と同様に、免疫応答を活性化させます。特に顔面や粘膜の疣贅に有効とされています。サイトカイン産生促進によるウイルス増殖抑制作用や、NK細胞活性の増強などによるウイルス感染細胞障害作用のためとされます。
  • レチノイド(トレチノイン、アダパレン):尋常性疣贅、特に扁平疣贅に有効であることが報告されています。

難治性疣贅への新しいアプローチ

  • ブレオマイシン局所注射:抗がん剤であるブレオマイシンを病変内に注射する方法です。特に難治性の足底疣贅に有効性が報告されていますが、色素沈着やレイノー現象などの副作用に注意が必要です。
  • CO2レーザー療法:病変部を炭酸ガスレーザーで蒸散させる方法です。再発のリスクがありますが、複数個ある場合や、他の治療法で効果がない場合に選択肢となります。
  • PDT(光線力学療法):光感受性物質を塗布し、特定の波長の光を照射することで、ウイルスに感染した細胞を破壊します。副作用が少なく、小児にも比較的安全に行える治療法として注目されています。
  • 免疫療法
    • **DPCP(ジフェニルシクロプロペノン)SADBE(スクアリン酸ジブチルエステル)**による局所免疫療法。
    • 麻疹・風疹・おたふくかぜ(MMR)ワクチンの局所注射:米国では、MMRワクチンのウイルス成分が免疫応答を誘導し、疣贅を治療する効果があるとの報告があり、注目されています。これは、免疫チェックポイント阻害剤の概念とも通じる新しいアプローチと言えるかもしれません。

患者家族への説明と注意点

治療法の選択と丁寧なインフォームド・コンセント

小児の皮膚疾患の治療においては、患者さん本人だけでなく、ご家族への丁寧な説明が不可欠です。

伝染性軟属腫

    • 「自然に治ることが多い病気である」ことと、「治療のメリット・デメリット」を明確に伝えましょう。
    • ご家族が「治るまで待てない」「感染拡大を防ぎたい」と積極的治療を希望される場合は、物理的除去や凍結療法について説明します。
    • 痛みへの恐怖感を持つお子さんもいるため、「痛みを軽減する工夫」として局所麻酔テープの使用を提案することが重要です。

伝染性軟属腫の物理的除去:手技のポイント
  • 前処置: 疼痛軽減のため、施術の30分から1時間前に局所麻酔テープ(ペンレステープ®)を貼付します。これにより、お子さんの恐怖感を和らげ、スムーズな処置が可能になります。
  • 使用器具: 滅菌されたピンセット(鉗子)やキュレットを使用します。
  • 手技: 鉗子で皮疹を挟み、内容物(軟属腫小体)を圧出します。内容物を確実に除去することが、再発防止の鍵です。出血がある場合は、ガーゼで軽く圧迫止血します。
  • 事後処置: 消毒は基本的に不要ですが、抗生剤軟膏を塗布することで二次感染のリスクを減らすことができます。

尋常性疣贅

    • 「ウイルスが原因で、うつる病気である」ことを強調し、兄弟や他の子供たちへの感染を防ぐための注意点(タオルの共有を避けるなど)を説明します。
    • 「治療には根気が必要であり、複数回の通院が必要になる」ことを事前に伝えておくと、途中で治療を中断されるリスクを減らすことができます。
    • 特に足底疣贅では、「放置すると大きくなって痛みが出る」ことを伝え、治療の必要性を理解していただきます。
液体窒素凍結療法:手技のポイント
  • 尋常性疣贅: 凍結と融解を1サイクルとし、これを2〜3回繰り返す(freeze-thaw cycle)ことで治療効果を高めます。凍結時間は、病変の大きさや部位によりますが、通常は5〜20秒程度です。
  • 副作用: 治療後の水疱形成や、疼痛、色素沈着、色素脱失(白斑)のリスクがあります。特に色素沈着は、日本人を含む有色人種で起こりやすい副作用です。

最新論文から学ぶ臨床のヒント

伝染性軟属腫とアトピー性皮膚炎の関連性

・複数の論文が、伝染性軟属腫とアトピー性皮膚炎の強い関連性を指摘しています。アトピー性皮膚炎を持つ小児は、皮膚のバリア機能が低下しているため、ウイルスの侵入を許しやすく、また掻破による自己接種感染も起こりやすくなります。

  • 臨床での対応: 伝染性軟属腫を診察した際には、合併するアトピー性皮膚炎の有無を確認し、もしあればその治療も同時に行うことが重要です。保湿剤の適切な使用や、ステロイド外用薬による炎症のコントロールは、伝染性軟属腫の拡大を防ぐことにもつながります。

疣贅の自然治癒を促進する免疫応答

・尋常性疣贅が自然治癒する際には、宿主の免疫応答が重要な役割を果たしていることがわかっています。ウイルスに感染した細胞に対する細胞性免疫が働き、病変が排除されます。

  • 臨床での応用: 免疫賦活作用のある治療法(イミキモド、MMRワクチンなど)が効果を示すのは、この免疫応答を人工的に誘導しているためと考えられます。難治性の疣贅に対し、これらの治療を組み合わせることは、自然治癒を後押しする有効な戦略と言えるでしょう。


結語

・伝染性軟属腫と尋常性疣贅は、どちらも小児期に頻繁に遭遇する疾患ですが、その病態、原因、治療法は大きく異なります。

・本記事では、両疾患の鑑別診断のポイント治療の選択肢、そして患者さんご家族への説明についてまとめました。

・「水いぼ」や「いぼ」は、時に患者さんやご家族に不安を与えます。正確な診断と、最新のエビデンスに基づいた適切な治療、そして何よりも患者さんへの丁寧な説明が、私たちの小児科医としての役割です。この記事が、より良い医療を提供するための手助けとなることを願っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


(注:本記事は医療専門家向けに執筆されたものであり、一般の方への情報提供を目的とするものではありません。治療法の選択は、必ず担当医にご相談ください。)


【参考文献リスト】

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