こんにちは!小児科医のりんごです。
「昨日から熱があって、かぜ気味だと思っていたら、急に頭が割れるように痛いと泣き叫び、何度も吐いてしまう…」
お子さんがこんな状態になったら、パパやママは「脳の病気では!?」とパニックになってしまいますよね。救急外来を受診して『無菌性髄膜炎』と診断され、「髄膜炎」という言葉に血の気が引いたという親御さんも多々いるかと思います。
しかし、まずは大きく深呼吸してください。
この「無菌性髄膜炎」は、怖い名前とは裏腹に、適切な対応をすれば後遺症なくしっかり治る予後の良い病気です。
今日は、パパ・ママの不安を和らげるために、ただの風邪との見分け方、どうしても必要な検査のこと、そしてお家での注意点について、分かりやすく解説します。
はじめに:総論 「無菌性髄膜炎」の正体とは?
脳や脊髄は「髄膜(ずいまく)」という薄い膜で包まれ、その中は髄液という液体で満たされています。この髄膜にウイルスなどが入り込み、炎症を起こすのが「無菌性髄膜炎」です。
「無菌性」というのは「(命に関わるような)細菌が検出されない」という意味で、原因のほとんどは「ウイルス」です。そのため「ウイルス性髄膜炎」とも呼ばれます。
●主な原因ウイルス:80〜90%がエンテロウイルス(手足口病やヘルパンギーナなど、夏風邪の原因ウイルス)です。そのほか、おたふくかぜ(ムンプス)ウイルスが原因になることもあります。
●かかりやすい年齢・季節:保育園児から学童期の子どもに多く、夏から秋にかけて流行しやすいのが特徴です
疫学
・年齢別の報告数では0歳が最も多く、14歳以下の小児が全体の50-70%を占める。
・原因としてはエンテロウイルスが最多で、起因ウイルスが同定されたものの内、55-90%を占める。
・他にパレコウイルスの流行も多く、エンテロと合わせると夏を中心に発生が報告されている。
症状
・新生児期は早期乳児では急な発熱、易刺激性、哺乳不良、活気不良を呈する。
・生後3ヶ月以降の乳児や小児では急な発熱が最も一般的な症状。易刺激性や活気不良、食欲不振、嘔吐、下痢などの非特異的な症状をみることもある。
・より年長の小児では、倦怠感、腹痛、咽頭痛、筋肉痛を訴えることもある。頭痛は非常に一般的な症状で、羞明も見られることがある。痙攣は5%未満である。
・エンテロウイルスの髄膜炎では、発疹や、重症例では肝炎、心筋炎、肺炎などを呈することもある。
・ムンプスウイルスによる髄膜炎では、耳下腺炎の出現した週に怒ることが多いが、最大で3週間遅れて出現することもある。また約50%の症例で、明らかな耳下腺炎を伴わない。
⚠️言葉が話せない赤ちゃんの「危険サイン」
乳幼児は「頭が痛い」と言えません。以下のサインに注意してください。
- 機嫌が極端に悪く、ずっと泣き止まない(だっこされるのを嫌がることも)
- ぐったりしている、おっぱい・ミルクを全く飲まない
- 大泉門(おでこの上の方にある、頭のペコペコした柔らかい部分)がパンパンに張っている
※特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんが高熱を出した場合は、免疫が弱いため、夜間であってもためらわずに救急外来を受診してください
診断のための検査
・病院を受診して髄膜炎が疑われると、医師から「腰椎穿刺(ようついせんし)という、背中に針を刺して髄液を採る検査をします」と説明されます。
「背中に針を刺すなんて怖い!痛そう!」と思うのが親心ですよね。しかし、これには「命を守るための絶対的な理由」があります。
それは、命に関わり、重篤な後遺症(難聴や発達への影響など)を残すリスクが高い「細菌性髄膜炎」と確実に区別するためです。 この2つは、初期の症状だけでは医師でも見分けがつきません。髄液を採取し、細胞の数やタンパク質の量を調べることで初めて、正確な診断を下すことができます。
・髄液細胞数増多は、典型的には単核球優位で100-1000/μLであることが多い。しかしエンエロウイルスやムンプスウイルスでは2000を超えることがある。特にエンテロウイルスでは発症早期(<48 時間)では多核球優位の細胞増多を示すこともある。
・髄液中の蛋白は軽度から中等度(正常〜<100 mg/dL)上昇していることが多いが、糖の低下はみられないことが多い(正常:45-80)。
・ウイルスの同定にはPCRが有用。
治療
・細菌性髄膜炎が否定できない場合は入院の上、細菌性髄膜炎としての治療を開始する。しかし、治療は「自分の免疫力」を助けるサポート(対症療法)が中心です。 ウイルスが原因のため、抗菌薬(抗生物質)は効きません。あくまで細菌性を否定出来ない場合の話です。
点滴による水分補給: 嘔吐で脱水になりやすいため、点滴を行います。
鎮痛解熱剤: 激しい頭痛や高熱を和らげます。
絶対安静: 暗く静かな部屋でゆっくり休ませます。
頭痛や嘔吐がひどく、水分が摂れない場合は、点滴治療と経過観察のために数日から1週間程度の入院になることが一般的です。
・全身状態が良好で髄液所見から細菌性髄膜炎でないと判断された場合には、一般的に入院は不要。
・単純ヘルペスウイルスによる髄膜炎に対するACVを除き、特異的な治療はない。支持療法が中心となり、解熱薬や輸液による水分・電解質の管理が中心。
【予後は非常に良好です】
最初は激しい症状に驚きますが、点滴を受けて静かに休んでいると、通常1〜2週間で回復します 。後遺症を残すことも通常はありません
最後に
原因となるウイルスは、感染した人の唾液、鼻水、便などからうつります。オムツ替えの後のしっかりとした手洗いや、タオルを共有しないことが基本の予防です。
そして、もう一つ強くお伝えしたいのが「おたふくかぜ(ムンプス)ワクチン」の重要性です。
エンテロウイルスに対するワクチンはありませんが、おたふくかぜウイルスが原因で起こる髄膜炎(ムンプス髄膜炎)や難聴は、ワクチン接種で高い確率で防ぐことができます。任意接種(自費)の地域も多いですが、お子さんを守るためにぜひ接種をご検討ください。
迷った時はどうする?
熱だけでなく、「全身の状態(ぐったりしている、顔色が悪い、水分が全く摂れない)」がおかしいと感じたら、それが受診のサインです 。
「無菌性髄膜炎」は、正しい知識と医療機関のサポートがあれば、必ず乗り越えられる病気です。パパとママは自分を責めず、お子さんの回復を一緒にサポートしてあげましょう!


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