Introduction
・クレチン症とは、先天性甲状腺機能低下症(CH:congenital hypothyroidism)のことである。
・甲状腺自体に原因がある原発性CH、下垂体や視床下部が障害される中枢性CH、甲状腺ホルモン作用不全による末梢性CHに分類される。
・全体のうち、99%が原発性CHである。TSHはnegative feedbackで上昇する。
・原発性CHのうち、甲状腺欠損または低形成が23%、異所性甲状腺が60%、ホルモン合成障害(甲状腺腫性)が16%、マススクリーニングで診断されることが多い。
・中枢性のうち、下垂体性(TSH欠損)が0.2% 、視床下部性(TRH欠損)が0.6%とされている。TSHは高値にならない。半数は低下するが、のこり半数は正常〜やや高値となることもあり。クレチン症チェックリスト(遷延性黄疸、便秘、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発、巨舌、嗄声、四肢冷感、浮腫、小泉門開大、甲状腺腫の12項目)の臨床症状に注意する。
・末梢性はfT4が上昇しているにも関わらず、TSHは抑制されない。
・異所性甲状腺は超音波検査では診断しにくく、3歳以降の甲状腺シンチグラフィーで診断する。
頻度
- 約4000人に1人
- 後述のサブクリニカルCHも含めればさらにいると考えられる。
経過
- 経過中に甲状腺機能が回復する一過性CHと、回復しない永続性CHに分類される。
- 治療を優先し、一過性か永続性かは3歳で確認する。
- CH全体では約半数が一過性CHであるが、異所性甲状腺ではすべてが永続性CHとなる。
注意点
大豆乳、鉄剤、胃薬、ニューキノロン系抗菌薬はレボチロキシンの吸収を阻害するため、同時内服を避ける。
診断
臨床的評価
・以下のチェック項目に2つ以上当てはまる場合を重症とする。
①遷延性黄疸、②便秘、③臍ヘルニア、④体重増加不良、⑤皮膚乾燥、⑥不活発、⑦巨舌、⑧嗄声、⑨皮膚冷感、⑩浮腫、11. 小泉門開大、12. 甲状腺腫
血液検査
必須項目と、病型診断(鑑別)のための項目です。
• TSH: 基準値より高値か(通常10μU/mL以上で精査対象)
• FT4: 低値か(年齢基準値を参照)
• FT3: 重症例では低値だが、初期は正常範囲のことも多い(脱ヨード酵素の代償作用)
• サイログロブリン (Tg)
低値(測定感度以下): 甲状腺欠損(Athyreosis)またはTg合成障害
高値: 甲状腺異所性、低形成、ホルモン合成障害(欠損以外で上昇する)
• 甲状腺自己抗体 (抗Tg抗体, 抗TPO抗体): 母親からの移行抗体の確認(稀ではある)
尿検査
• 尿中ヨウ素/クレアチニン比: ヨード過剰摂取(イソジン等の使用、海藻類の過剰摂取など)による一過性CHを除外するために必須。
画像検査
甲状腺超音波(エコー)
・正所性甲状腺の有無、サイズ、血流を測定する。
甲状腺エコー検査の目的
CHの診断において、エコー検査は以下の目的で行われる「第一選択の画像検査」です。
1. 病型の鑑別: 永続性か一過性か、あるいは「形成異常(Dysgenesis)」か「ホルモン合成障害(Dyshormonogenesis)」かを区別します。
2. 解剖学的評価: 甲状腺の「有無」「位置」「大きさ」「実質の性状」を確認します。
3. 非侵襲性: シンチグラフィと異なり被曝がなく、鎮静なしでベッドサイドで迅速に行えるため、新生児スクリーニング陽性後の精密検査として最初に行われます。
病型別のエコー所見
CHの原因は、大きく甲状腺形成異常(約80-90%)とホルモン合成障害(約10-20%)に分けられ、エコー所見で鑑別が進められます。
甲状腺形成異常 (Thyroid Dysgenesis)
甲状腺が正常な位置に形成されなかったものです。CHの大部分を占めます。
●欠損(Aplasia / Athyreosis)
• 所見: 正常な甲状腺位置(気管前面)に甲状腺組織が全く描出されません(Empty thyroid bed)。
• 注意: エコーで「欠損」と見えても、実際には微小な異所性甲状腺が存在することがあり、確定にはシンチグラフィやサイログロブリン(Tg)値の評価が必要です。
●異所性(Ectopia)
• 所見: 正常位置には甲状腺がなく、別の場所に腫瘤像として描出されます。
• 好発部位: 最も多いのは舌根部(舌甲状腺)です。その他、正中線上の舌骨付近などに認められることがあります。
●低形成(Hypoplasia)
• 所見: 正常な位置に甲状腺はありますが、サイズが著しく小さい状態です。
甲状腺ホルモン合成障害 (Dyshormonogenesis)
甲状腺は正常な位置に形成されていますが、ホルモンを作る酵素などに欠陥がある状態です。
所見
• 位置: 正常位置(正所性)に存在します。
• サイズ: TSHによる過剰刺激が続くため、しばしば腫大(甲状腺腫: Goiter)を認めます(正常大のこともあります)。
• 内部エコー: 均一なこともありますが、不均一(Heterogeneous)な低エコー像を示すこともあります。
• 血流: カラードプラやパワードプラで、血流信号の増強(Increased vascularity)を認めるのが特徴的です。
一過性甲状腺機能低下症
• 所見: 通常、正常位置に正常大の甲状腺を認めます。母親の抗甲状腺抗体やヨード過剰などが原因の場合です。
評価の基本:小児は「容積」がゴールドスタンダード
成人と異なり、小児は体格差が大きいため、単純な「長径」だけでは評価が難しく、専門的には推定容積(Volume)を用いて、体表面積や年齢ごとの標準値と比較するのが一般的です。
ただし、ベッドサイドでの迅速なスクリーニング(有無やサイズの直感的把握)のために、以下のリニアな数値(長径・厚み)が目安として用いられます。
年齢別のサイズ目安(長径・峡部厚)
特にCHの診断で重要となる新生児・乳児期と、学童期以降の目安です。
A. 新生児・乳児期(CH精査の時期)
この時期の甲状腺は非常に小さく、峡部はほとんど見えないほど薄いのが正常です。
• 長径 (Longitudinal): 約 1.5 ~ 2.0 cm (15 – 20 mm)
※ 1.5 cm 未満であれば低形成(Hypoplasia)の疑いが強まります。
• 峡部厚 (Isthmus): 約 1 ~ 1.5 mm
※ 非常に薄いため、少しでも厚み(3mm以上など)を感じる場合は腫大を疑います。
• 容積 (Volume): 約 0.5 ~ 1.0 mL(左右合計)
※ 新生児で 0.4 mL以下などは低形成の指標とされます。
B. 学童期~思春期
成長に伴い大きくなりますが、成人の基準値(長径4-5cm、峡部3-4mm)を上限と考えます。
• 長径: 2.0 ~ 4.0 cm
• 峡部厚: 2 ~ 3 mm (4mm以上は明らかに腫大)
• 容積: 年齢・体表面積により大きく異なります(後述の基準を参照)。
具体的な評価基準と計算式
日本人の小児における詳細な基準値として、以下の2つが有名です。
1. 鈴木ら(福島県民健康調査 2015)のデータ
• 最新かつ大規模なデータ(0~19歳)に基づき、年齢別・体表面積別の5/50/95パーセンタイル値が出ています。
• 例: 0歳児(男女計)の中央値は約 0.6 mL、5歳児で約 1.5 mL、10歳児で約 3.0 mL 程度です。
2. 上田ら(1990年代)の基準
• 長く日本の小児内分泌領域で使用されてきた基準です。
クレチン症診断における「サイズ」の解釈ポイント
CHの病型診断(形成異常 vs 合成障害)においては、絶対的な数値よりも以下の「パターン」が重要視されます。
●低形成 (Hypoplasia)
• 位置は正常だが、長径が極端に短い(10mm前後など)、または厚みがなくペラペラに見える。
• 容積が年齢標準の -1.5 SD 〜 -2.0 SD 以下。
• 甲状腺腫 (Goiter) / 合成障害疑い
• 峡部が厚い(3mm以上)、または全体に丸みを帯びて腫大している。
• 血流シグナル(カラー/パワードプラ)が著明に増強している(Inferno sign)。
●異所性・欠損
• 正常位置(気管前面)に甲状腺組織(長径・厚みのある構造物)が全く描出されない。
大腿骨遠位端骨核(Distal Femoral Epiphysis)の評価
・CHの重症度および発症時期(胎児期から不足していたか)を推定する上で、膝関節のX線撮影は極めて重要です。
●臨床的意義
• 骨化のタイミング: 通常、在胎36週〜40週で骨化が出現します。
• CHにおける所見: 胎児期から重度の甲状腺ホルモン欠乏があると、この骨核の出現が遅れる、あるいは消失します。
• 予後予測: 骨核の欠損(または極小)は、「重症型(胎内発症型)」であることを示唆し、早期かつ十分な治療を行わないと神経学的予後(知能指数など)に影響するリスクが高い指標とされています。
●評価基準
• 撮影: 膝関節正面(両側)
<判定>
正常: 長径 3mm 以上(正期産児の場合)
疑い/軽度遅延: 3mm 未満、欠損(Absent): 骨核が見えない(最も重症)
不整(Dysgenesis): 骨核が不規則な点状に分散している場合も、甲状腺機能低下による骨成熟障害(骨端異形成)を示唆します。
甲状腺シンチグラフィ (123I または 99mTc)
• 必須ではないが推奨: 確定診断(特に異所性の診断)に有用な
ツール。
※治療開始を優先する場合、3歳以降の再評価時に行うこともあります。
母親の検査(一過性の鑑別)
• 甲状腺機能 (TSH, FT4, FT3): 母体の橋本病やバセドウ病の有無。
• 甲状腺自己抗体 (TRAb/TSAb, TSBAb)
• TSBAb (阻害抗体)
治療開始基準
- 直ちに治療開始する基準
- クレチン症チェックリスト2点以上、または在胎38週以降の成熟児で大腿骨遠位端骨核出現なし、超音波検査で甲状腺が同定できない、または甲状腺腫が認められた場合
- TSH≧30mIU/L、またはTSH15-30mIU/LかつfT4 1.2 ng/dL未満 の場合
- サブクリニカルCH
- TSH5-15mIU/Lで臨床症状がなく血中fT4が正常範囲の場合、再度甲状腺機能検査を行い、生後3-4週を過ぎてもTSH≧10mIU/Lの場合は治療を考慮する。
- 無治療の場合は慎重に経過観察し、生後6ヶ月未満でTSH≧10mIU/L、生後12ヶ月以降でTSH≧5mIU/Lの場合は治療を考慮する。
薬物療法
- レボチロキシン(チラージン
- 10-15μg/kg/日(fT4 0.4ng/dL未満では15μg/kg/日)、分1 で開始する。
- サブクリニカルCH 3-5μg/kg/日、分1で開始
- TSHは年齢別の正常範囲を目指し、fT4は年齢別の正常中央値から正常上限を目標とする。TSHが正常範囲であれば、fT4が正常上限を超えていても必ずしも減量しなくてよい。
- レボチロキシンの投与により、多くの場合はfT4は3日以内、TSHは2-4週で正常化する。
- フォロー間隔は、初期投与開始から1週間後、2週間後、4週間後、その後は1歳まで1ヶ月ごと、1歳以降は3-4ヶ月ごととする。
- 3歳になれば、まずレボチロキシンを2週間中止する。TSHが上昇するならレボチロキシンを再開し、CHの原因検索を行う。甲状腺シンチグラフィーで甲状腺の大きさ、位置を確認し、甲状腺無形成、低形成、異所性甲状腺の診断をする。
- またパークロレイト放出試験でホルモン合成障害を診断することができる。


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