Acute Poststreptococcal Glomerulo Nephrtiis:APSGN
原因
・急性腎炎の原因の8-9割は急性感染後糸球体腎炎である。
・そのうち、小児に最も多くみられる感染症はA群β溶血性連鎖球菌(以下溶連菌)によるASPGNであり、急性発症の血尿、蛋白尿、高血圧をきたす疾患では、溶連菌感染の可能性に注意が必要である。
・他急性感染後糸球体腎炎をきたす疾患には、黄色ブドウ球菌や大腸菌、サルモネラ属、マイコプラズマ、EBウイルス、パルボウイルスB19、コクサッキーウイルス、水痘、ムンプス、風疹、B型肝炎などがある。
・また、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎、IgA腎症についても注意が必要である。
疫学
・好発年齢は6~10歳
・男児に多い(女児の約2倍)
・小児での発症率は年間10万人あたり2-3人
臨床徴候
・咽頭炎患者の5-10%および、皮膚感染患者の約25%に発症
・感染から腎炎発症までの潜伏期間はそれぞれ1-2週および3-6週間である。
・3主徴は、血尿、乏尿・浮腫(上眼瞼、脛骨前面)、高血圧
・約50%で無症候性血尿を呈する。
・まれに急激な血圧の上昇により、けいれん、嘔吐などを伴う高血圧性脳症を合併する
・尿所見は典型的には発症2週までの急性期にはコーラ色の肉眼的血尿を呈し、その後顕微鏡学的血尿が数ヶ月続く。軽度の蛋白尿を伴う場合が多いが、ネフローゼを呈する症例はまれである。
・約半数の症例で乏尿となるが、無尿となることは稀である。
・浮腫がみられる場合には、体重は10-15%程度の増加がある。
・高血圧は30-80%にみられるが、降圧治療の必要な患者は30%ほどである。
・乏尿や浮腫、高血圧のみが前面に出現し、明らかな尿所見がみられない場合があり、腎外症候性急性糸球体腎炎という。頻度はAPSGNと診断された症例のうち1.5-9.8%とされている。
病因・病態
・腎炎惹起性溶連菌関連抗原とこれに対する抗体が形成する免疫複合体が糸球体に沈着することによって惹起される液性免疫反応を主体とした免疫複合体疾患と考えられている。
・さらに、糸球体への炎症細胞浸潤を介した細胞性免疫が腎炎の発症に関与する。
・現在、腎炎惹起抗原として最も有力視されているのは、nephritis-associated streptococcal plasmin receptor(NAPlr)と、streptococcal pyogenic extoxin B(SpeB)である。
・ASPGN回復期の患者血清中に抗NAPlr抗体が検出され、また腎生検組織中の糸球体でほぼ100%検出されることから、有力な腎炎惹起抗原と考えられている。
検査
・参考として、血液検査ではASOにより判定される。
・幼児では250 IU/mL以上、学童では333 IU/mL以上が高値である。感染後1週間で上昇し、3週間で最高値を取り、数ヶ月以上をかけて正常化する。
診断基準
長沢の基準
次の5項目を満たせば、腎生検の裏付けがなくても臨床的に急性腎炎と診断できる。
⑴腎疾患、高血圧の既往がない
⑵臨床および検査所見から全身疾患、たとえばSLEを否定できる
⑶扁桃炎、そのほかの感染症状が先行する
⑷その2-4週後に蛋白尿、血尿、乏尿、浮腫などの急性腎炎症候群が出現する
⑸血清ASOが2回以上の測定でいずれも高値を示す。血清補体値(C3またはC50)が低下する。
ASPGNの臨床・検査的特徴
尿検査所見
肉眼的血尿:30%で認める。
尿沈渣所見として、糸球体性の変形赤血球、多量の赤血球円柱、白血球円柱、顆粒円柱が認められる。
・蛋白尿も80%にみられるが、通常軽微。
・APSGN患者の5-10%はネフローゼレベルの蛋白尿を呈する。
・こうした尿所見は通常6ヶ月までに改善する。
・ネフローゼ症候群:5%ほどと少ない
血液検査
補体:C3および血清補体価(CH50)の減少(60%ほどの症例)、C4は正常もしくは軽度の減少
→これは本症における補体活性がalternative pathway依存性であることを示唆する。
・血清補体価は、80%以上の症例は8週間以内に正常化するが、正常化までに3ヶ月ほど要する症例も多い。
・血清IgGやIgMはむしろ高値となる症例が多く、高頻度に循環免疫複合体やクリオグロブリンが検出される。
鑑別疾患
IgA腎症の急性増悪
・補体の低下がみられない
・先行感染から5日以内に急性腎炎症候群に至る。
膜性増殖性糸球体腎炎
・好発年齢は8-20歳とASPGNより高い
・肉眼的血尿の頻度は20-50%と高い
・ネフローゼ症候群は30-50% と高い
・C3は低値、C4は正常〜低値を取る。
・ASOは上昇しない
ループス腎炎
・15-20歳に好発
・C3、C4ともに低値をとる。
・抗核抗体、抗dsDNA抗体陽性となる。
腎生検の基準
溶連菌の先行感染が確認できる場合
①発症時にC3低下がない
②C3が8週以内に改善しない
③透析を要する
溶連菌の先行感染が確認できない場合
上記に加えて
④抗核抗体が陽性
⑤2週で蛋白尿が改善傾向にない(完全に消失しなくてもよい)
⑥ネフローゼ症候群にいたる
経過
溶連菌による咽頭炎から1-2週間後に発症する。
突然乏尿となり、浮腫に気づかれて受診することが多い。
治療
乏尿期
水分制限
不感蒸泄(400mL/㎡)+前日尿量(入院初日は300mLまで)の制限
※不感蒸泄について
●一般社団法人日本静脈経腸栄養学会 静脈経腸栄養テキストブックより引用
15(mL)×体重(kg)+200×(体温–36.8(℃))
●日本救急医学会 医学用語 解説集より引用
発汗以外の皮膚および呼気からの水分喪失をいう. 皮膚からの蒸散のみを指すという意見もある. 不感蒸泄の量は、 条件により大きく変動するが、 常温安静時には健常成人で1日に約900ml (皮膚から約600ml、 呼気による喪失分が約300ml) 程度である. 発熱、 熱傷、 過換気状態などで増加する.
高K血症(5.0 mEq/L以上)
・カリウム制限食(果物・野菜禁止)
・5.5 mEq/L以上では、心電図モニタを行いカリメート投与
①Ca型イオン交換樹脂(カリメート®︎、アーガメイト®︎) 0.5-1 g/kg/回 1日4回内服(最大量30g/日)
②フロセミド:1-2 mg/kg/回 静注
・6.0 mEq/L以上ではグルコース・インスリン療法
グルコース0.5-1 g/kg + レギュラーインスリン(ヒューマリンR®︎) 0.1-0.2単位/kg
体重25kg以上では、50%Glu 50mL + ヒューマリンR®︎ 5単位
・6.5 mEq/L以上で心電図にテント状T波みられれば透析の適応
利尿薬
利尿期に入るまでは、フロセミド(ラシックス): (0.5~)1mg/kg/回 2-4回/日
・糸球体濾過率低下に伴う溢水に対する治療
高血圧を認める場合
ニフェジピン内服 0.25-0.5 mg/kg/回 1日2回 1日最大40mg
アムロジピン 2.5mg/回 1日1回 最大量5mg/日 (6歳以上)
・急性糸球体腎炎は体液過剰が基本病態であり、利尿薬に反応しない高血圧に対しては、利尿薬に加えて降圧薬を投与する。ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬は高カリウム血症のリスクがあり、使用は控える。
高血圧緊急症を認める場合
ニカルジピン塩酸塩注射液 0.5(~5.0) μg/kg/分 持続点滴
浮腫・高血圧が強い場合
食塩制限(3g/日) + ベッド上安静
利尿期
・浮腫が消失すれば塩分、水分制限を解除する
・蛋白尿、血圧が安定すれば運動制限解除。ニフェジピン内服をニフェジピンL(12時間持続)0.5-1 mg/kg/日 分2 に変更する。以降血圧を見ながら漸減終了する。
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