はじめに
・本記事では、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome, HUS)の原因、種類、診断方法、治療法についてまとめます。
・特に直近5年以内の研究をもとに構成しています(2024.12現在)
定義
・微小血管障害性溶血性貧血(MAHA)、血小板減少、および急性腎障害(AKI)を特徴とする疾患。
・主要3症状として、
「ヘモグロビン(Hb) 10 g/dL未満の非免疫性溶血性貧血」
「血小板数(Plt) 15万 /μL未満の血小板減少」
「年齢・性別による血清クレアチニン(Cr)基準値を1.5倍以上を示す急性腎障害」を呈する。
・随伴症症状として
中枢神経:意識障害、けいれん、頭痛、出血性梗塞等
消化管:下痢、血便、腹痛、重症では腸管穿孔、腸狭窄、直腸脱、腸重積等
心臓:心筋障害による心不全
膵臓:膵炎
その他:DICなど
・全身の細血管で内皮細胞障害が生じ、狭小化した血管で血小板血栓が形成される。同部位を通過する赤血球が、ずり応力によって破壊され、破砕赤血球となり、非免疫性の溶血性貧血を呈する。そして、血栓症による灌流障害が急性腎障害などの臓器障害を惹起する。
・腎臓だけでなく他臓器にも影響を及ぼす場合があり、小児での発症が多いことが知られています。
分類
HUSは以下の3つ、「典型的HUS(STEC-HUS)」「非典型的HUS(aHIS)」「二次性HUS」に大別されます。それぞれの代表的原因疾患をまとめます。
典型的HUS(STEC-HUS)
・腸管出血性大腸菌(Shiga毒素産生大腸菌, STEC)感染が原因。
・ベロ毒素が腎や脳の血管の内皮細胞障害を起こす。
非典型的HUS(aHUS:atypical hemolytic uremic syndrome)
・ 補体系の制御異常や遺伝的要因によるもの。
・自然免疫系である補体系は、最終的に膜侵襲複合体(Membrane attack complex: MAC)により標的細胞を傷害する。ヒトは自分自身の細胞をも傷害する補体を制御するための補体制御因子を有している。これらの補体制御因子の遺伝子異常や制御因子に対する自己抗体産生は、制御機構を阻害して補体の過剰活性化につながり、aHUS発症の原因となる。
・STEC-HUSを除外し、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を否定したものをaHUSと定義する。
二次性HUS
・自己免疫疾患、移植後、妊娠関連など他疾患や外的要因に伴うもの。
典型的HUS(STEC-HUS)
原因と病態について、以下にまとめます。
原因
・STEC-HUSは主に腸管出血性大腸菌(EHEC)感染が引き金となります。特にO-157株やO-111株などが代表的です。
・汚染された食品や水、動物との接触が主な感染経路です。
病態
・Shiga毒素は腸管から血液中へ移行し、腎臓を含む全身の微小血管内皮細胞にダメージを与えます。
・この結果、血小板活性化や微小血栓形成が進行し、溶血や腎機能障害を引き起こします。
非典型的HUS(aHUS:atypical hemolytic uremic syndrome)
・aHUSは全HUS症例の約5~10%を占めます。
・海外の報告では、成人で2人/100万人、小児で3.3人/100万人が発症するとされた。
・補体系の異常活性化が主な原因であり、多くの場合遺伝的要因が関与します。
・しかし、発症素因に加えて補体過剰活性化に感染症罹患や外科的侵襲、妊娠出産などの2nd‐hitが発症の契機となる。
遺伝子変異
・補体制御タンパク質(CFH, CFI, MCPなど)の遺伝子変異や補体C3/C5の異常が確認されています。また、一部では補体因子自己抗体も関与します。
・わが国特有の特徴として、C3遺伝子変異(p. lle1157Thr)が中部・関西地域を中心にみられる。
病態・予後
・未治療の場合、高率で慢性腎疾患(CKD)や末期腎不全(ESRD)に進行します。しかし近年ではエクリズマブなど補体阻害薬の登場により予後が劇的に改善しています。
鑑別
STEC-HUSとの鑑別
・便培養検査で腸管出血性大腸菌を検査
・便検体:PCR法 志賀毒素遺伝子(stx1, stx2)検出
・発症時と10-14日後のペア血清採取での、腸管出血性大腸菌O抗原に対する凝集素価測定
血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura; TTP)との鑑別
・血小板凝集に関与するvon Willebrand因子の生成に関わるメタロプロテアーゼ(ADAMTS13)の活性およびインヒビター(自己抗体)を測定する。ADAMTS13活性が10%未満でTTPと診断する。
・遺伝子異常によるADAMTS13欠損症はUpshaw-Schulman症候群(先天性TTP)の原因であり、ADAMTS13活性を阻害するような自己抗体の出現によるものは、後天性TTPと診断される。
二次性HUS:他疾患との関連
原因
・自己免疫性、移植後、妊娠関連などの原因があります。以下にそれぞれの具体例をまとめます。
自己免疫疾患
・全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群など。
移植後
・骨髄移植や臓器移植後の免疫抑制剤使用により発症。
妊娠関連
・妊娠高血圧症候群やHELLP症候群。
注意点
・二次性HUSは基礎疾患との鑑別が難しい場合があります。そのため臨床経過や検査所見を総合的に判断する必要があります。
診断
臨床症状、検査所見をもとに、総合的に診断します。
症状
• 貧血症状(破砕赤血球の出現)
• 血小板減少→紫斑、出血傾向
• 腎機能障害(クレアチニン上昇、乏尿)
・中枢神経症状:意識障害、けいれん
・消化器症状:腹痛、下痢、血便
検査
• 血液検査: LDH上昇、ハプトグロビン低下、ビリルビン上昇、クームス試験陰性
• 尿検査: 血尿や蛋白尿
・便培養:O157抗原は分離されず。
• 遺伝子検査: aHUS疑い例では補体関連遺伝子解析が推奨されます
治療法
典型的HUS、非典型的HUSそれぞれの治療法についてまとめます。
典型的HUS(STEC-HUS)の治療
STEC-HUSでは主に支持療法が中心です。
• 輸液管理
• 透析療法:無尿症例や、コントロールが困難な溢水(高血圧や肺水腫症例)
<注意点>
• 抗生物質は、菌体の破壊により毒素の拡散をきたす可能性があります。
・血小板輸血は血栓形成を助長するのでNGため、使用は出血傾向や外科的治療を要する際などに限定されます。
非典型的HUS(aHUS)の治療
aHUSでは早期治療が鍵となります。
エクリズマブ(eculizumab: ECZ)
・補体C5阻害薬として第一選択。ヒト化遺伝子組み換え抗C5モノクローナル抗体。2013年よりaHUSに対して使用できるようになった。
・ECZは補体C5に結合し、MACの形成を阻害することで補体最終経路を阻害する。その結果、過剰な補体活性化をほぼ完全に抑制するため、早期投与により臨床症状と検査値の回復が認められる。
・治療効果判定は、血小板数の回復や乳酸脱水素酵素(LDH)値の低下、破砕赤血球の消失が指標となりうる。このうち、最も早く回復するのは血小板数である。
・寛解後は再発が問題とされ、多くの症例で長期間のエクリズマブの維持投与を必要としている。
ラブリズマブ(ravulizumab: RVZ)
・長時間作用型C5阻害薬として新たな選択肢。
・ECZは2週ごとに投与するが、RVZは半減期を延長したことにより8週間毎の投与が可能。
・2020年に保険適用となった。
・高濃度製剤が利用可能であり、点滴投与に要する時間を短縮できる。
・RVZでは、薬効が発揮されても検査系の問題として、CH50が低下しきらないことが稀にあるので注意を要する。
血漿交換(plasma exchange: PE)療法
・エクリズマブ使用前または併用時に考慮されます。
ECZ/RVZの注意点
・ECZ/RVZは、補体最終経路を強力に阻害することから、殺菌においてMACが莢膜の破壊に主要な役割を果たすナイセリア属である髄膜炎菌感染症、淋菌感染症の発症リスクが著しく高くなる。また肺炎球菌とインフルエンザ桿菌の感染リスクも増加する。
・侵襲型髄膜炎菌感染症は、短時間で死亡にいたる危険性が高い。そのため、4価髄膜炎菌ワクチンがECZ/RVZ投与患者に限定して保険適用となっており、接種が求められている。
予後と長期フォローアップ
予後改善因子
・エクリズマブ導入後、aHUS患者の死亡率およびESRD進行率は大幅に低下しました。特に早期診断と治療開始が重要です。
長期管理
回復後も以下の点で継続的なフォローアップが必要です。腎障害の悪化がないか、定期的に外来を確認します。
• 腎機能評価(eGFR測定)
• 高血圧や蛋白尿管理
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