総論
・思春期早発症(precocious puberty)は、標準的な年齢よりも早期に性ホルモンの産生が起こり、その暴露により早期に性成熟徴候が生じる状態である。
・思春期発達は、二次性徴のTanner5段階分類で評価する。思春期発来の判定は、男子では精巣容積が4mL になった時点(平均11歳)、女子では乳房腫大が始まったBreast2の時点(平均10歳)を持って行う。日本人は初経年齢は平均12.3歳である。
・男女比は、男:女=1:8で女児に多い。男児では腫瘍などの基礎疾患の検索が重要となる。
原因
・原因から分類すると、ゴナドトロピン(中枢)の命令により性ホルモンが増加しているのか、それとも末梢での性ホルモン分泌が増加しているのかで分けられる。
中枢性:ゴナドトロピン(GnRH)依存性
・特発性
・頭蓋内腫瘍:視床下部過誤腫、神経膠腫、視床下部星細胞腫、神経線維腫症など
・中枢性神経系障害:奇形、くも膜嚢腫、水頭症、髄膜炎、血管障害、外傷、放射線照射など
・慢性的な性ステロイド曝露
・遺伝子異常(GPR54, KISS1, MKRN3, DLK1)
ゴナドトロピン(GnRH)非依存性
<男子>
・hCG産生腫瘍:中枢神経系(絨毛上皮腫、胚細胞腫、奇形腫)、肝臓がん、肝芽腫、奇形腫、絨毛がんなど
・アンドロゲン過剰:先天性副腎過形成(21-水酸化酵素欠損症、11β-水酸化酵素欠損症), 男性化副腎腫瘍, Leydig細胞腫、McCune-Albright症候群, アンドロゲン製剤投与
・女性化乳房
<女子>
・エストロゲン過剰:エストロゲン産生腫瘍(副腎、卵巣)、機能性卵巣嚢胞、エストロゲン製剤投与、McCune-Albright症候群
・アンドロゲン過剰:先天性副腎過形成、男性化副腎腫瘍
診断基準
中枢性思春期早発症の診断の手引き
I. 主徴候
女児
1) 7歳6ヶ月未満で乳房発育
2) 8歳未満で陰毛発生、外陰部成熟、あるいは腋毛発生
3) 10歳6ヶ月未満で初経
男児
1) 9歳未満で精巣発育
2) 10歳未満で陰毛発生
3) 11歳未満で腋毛・ひげの発生、声変わり
II. 副徴候
1) 身長促進現症: 身長が標準身長の2.0SD以上。または年間成長速度が
2年以上にわたって標準値の1.5SD以上。
2)骨成熟促進現象: 骨年齢-暦年齢>=2歳6ヶ月を満たす場合。
または暦年齢5歳未満は骨年齢-暦年齢>=1.6を満たす場合。
III. 検査所見
下垂体性ゴナドトロピン分泌亢進と性ステロイドホルモン分泌亢進を両者
が明らかに認められる。
LH・FSHの基礎値および負荷試験頂値(女子の場合)
| 前思春期 | 思春期 | ||
| 10歳未満 | 10歳以上 | Taanner Ⅱ〜Ⅲ | |
| LH前値(mIU/mL) | 0.01-0.09 | 0.02-0.11 | 0.05-2.44 |
| LH頂値(mIU/mL) | 1.93-4.73 | 2.14-7.82 | 5.7-18.5 |
| FSH前値(mIU/mL) | 0.54-2.47 | 1.16-3.64 | 0.92-3.29 |
| FSH頂値(mIU/mL) | 0.97-6.31 | 1.34-5.04 | 1.11-3.89 |
参考:間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成 30 年度改訂)
LH・FSHの基礎値および負荷試験頂値(男子の場合)
| 前思春期 | 思春期 | |||
| 10歳未満 | 10歳以上 | Tanner Ⅱ〜Ⅲ | Taanner Ⅳ〜Ⅴ | |
| LH前値(mIU/mL) | 0.02-0.15 | 0.04-0.25 | 0.44-1.63 | 1.61-3.53 |
| LH頂値(mIU/mL) | 1.70-3.77 | 2.03-11.8 | 10.9-20.6 | 21.7-39.5 |
| FSH前値(mIU/mL) | 0.38-1.11 | 0.01-0.25 | 1.73-4.27 | 1.21-8.22 |
| FSH頂値(mIU/mL) | 1.38-9.18 | 5.69-16.6 | 1.68-10.8 | 11.2-17.3 |
参考:同上
IV.除外規定
副腎アンドロゲン過剰分泌状態(未治療の先天性副腎過形成、副腎腫瘍など)、性ステロイドホルモン分泌性の性腺腫瘍、McCune-Albright 症候群、テストトキシコーシス、hCG産生腫瘍、性ステロイドホルモン(蛋白同化ステロイドを含む)や性腺刺激ホルモン(LHRH, hCG, hMG, rFSHを含む)の長期投与中、性ステロイドホルモン含有量の多い食品の大量長期摂取中などの全てを否定する。
Ⅴ. 参考所見
・中枢性思春期早発症をきたす、特定の責任遺伝子の変異(GPR54, KISS-1, MKRN3, DLK1)が報告されている。
【診断基準】
確実例
1. Iの2項目以上とIII,IVを満たすもの。
2. Iの1項目とIIの1項目以上とIII,IVを満たすもの。
疑い例
Iの年齢診断基準を1歳高くした条件で,その確実例の基準に該当するもの。なお疑い例のうちで、主症状発現以前の身長が-1SD以下のものは、治療上は確実例と同等に扱うことができる。
病型分類
中枢性思春期早発症が診断されたら、脳の器質的疾患の有無を画像診断などで検査し、器質性、特発性の病型分類をする。
検査
血液検査
甲状腺、TG・Chol、LH・FSH・エストロゲン・プロラクチン、ACTH、IGF-Ⅰ、intact PTH、β-HCG、AFP
・特に、LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)、テストステロン/エストラジオールの上昇は、思春期発来の基準となるため重要である。
・ゴナドトロピン非依存性の場合、LH・FSHの上昇は見られない場合もある。
・LH-RH負荷試験は、内分泌評価として重要であるが、二次性徴や成長、骨年齢の促進が明らかであり、LHの基礎値が明らかに上昇していれば、診断のためには必ずしも必要ではない。
左手Xp
・骨年齢の評価を行う。骨年齢の促進がないか確認。
・RUS法、20BONE法、Carpal法などがある。
・乳幼児の場合、まだ手根骨が未発達であり20BONEなどは使いにくい。
超音波検査
・卵巣、精巣、副腎、腹腔内の腫瘍性病変の検索と、子宮の成熟度を評価する。
頭部MRI検査
・頭蓋内の器質的病変の有無を検索する。男児においては特に注意。
治療方針決定までの流れ
血中LF、FSH、E2を測定し、その値によって治療方針が決定していく。
LH・FSH低値、E2高値
・LH、FSHの基礎値が低値あるいは測定感度以下にも関わらずE2が上昇している場合は、GnRH非依存性思春期早発症である。性ホルモン産生腫瘍などの検討が必要である。
LH・FSH高値、E2高値
・LH、FSHの基礎値、E2が上昇している場合には、中枢性思春期早発症の可能性が高い。中枢性病変の有無を検討する。中枢性病変が認められる場合には、原疾患の診断・治療が優先される。リュープロレリンの治療については、原疾患治療後に必要性を再検討する。中枢性病変を認めない場合には、特発性と診断される。保護者、患者と相談し、治療適応を考慮し、治療を開始するか経過観察するかを決定する。
第二次性徴(主徴候)あるが、LH・FSH・E2すべて低値の場合
・第二次性徴を認めるが、LH・E2ともに前思春期レベルである場合にもしばしば遭遇する。
・この場合、3か月ごとの経過観察を行うか、LH-RH負荷試験を行い、LHの反応を検査する場合がある。負荷試験を行うかは、思春期の進展のテンポ、その他の症状、骨年齢などを参考に決定する。
・LH-RH負荷試験を行い、LHの反応が思春期レベルであれば、特発性の場合が多い。
LH-RH負荷試験について
・LHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)負荷試験は、主に下垂体からのLH(黄体形成ホルモン)およびFSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌能を評価するために行われます。
・特に無月経や不妊症、性腺機能低下症の鑑別診断に用いられます。
検査前の準備
• 検査前日は過度な飲酒や激しい運動を避ける。
• 検査当日は10~14時間の絶食後、早朝空腹時に実施する。
• 検査中は安静を保ち、水以外の摂取や喫煙は禁止。
実施手順
1. 負荷前採血
• 検査開始前に基礎値としてLH、FSHを採血します。
2. LHRH薬剤の投与
• 成人の場合:LHRH 100μg(0.1mg)を静脈内に緩徐に静注します。
• 小児の場合:0.003mg/kg(最大0.1mg)または0.1mg/m²(体表面積あたり)を静注します。
3. 採血スケジュール
• 投与後、30分、60分、90分(または120分)に採血し、LHおよびFSHを測定します

薬剤の希釈方法
• LHRH製剤(例:ルタミン®)は通常1アンプル1mL(0.1mg)で供給されます。
• 希釈が必要な場合は、生理食塩水で5mL程度に希釈し、ゆっくり静注します。
• 小児や体重に応じて投与量を調整する場合、必要量を生理食塩水で適切な体積に希釈して投与します。
注意点
• 薬剤は単独で投与するのが原則ですが、TRHやCRHなど他の負荷試験薬と同時に投与する場合もあります。
• 投与は緩徐に静注し、嘔気や不快感など副作用に注意します。
• 妊婦や巨大下垂体腺腫患者には禁忌となる場合があるため、事前に適応を確認します。
治療
・内科的治療の目的は、「心理者社会的問題の解決」と「最終(成人)身長の改善」。したがって、診断されても社会的な問題はなく、最終身長の予測も良好な場合には、加療の必要性はない。
・最終身長の正常化は、8歳未満の場合には有効であるが、8歳以上の場合には、身長を増加させる明確なエビデンスは存在しない
・また、心理社会的な問題については、女子7歳、男子9歳未満の場合には治療のメリットが期待されるが、個別の対応が重要。
・治療を行う場合には、LH-RHアナログである、徐放性注射薬のリュープロレリン酢酸塩(リュープリン®︎)を用いる。
リュープリン®︎:30 μg/kg 皮下注 4週毎
第二次性徴の進行の停止、成長速度の低下、骨年齢の進行の停止、血中LHの基礎値をモニタリングしながら、適宜投与量を調整する。
※効果不十分な場合は180 μg/kgまで増量できる。
※一般的には、30-90 μg/kg/4週毎でコントロール可能。
・リュープリンの初回投与後はゴナドトロピン分泌刺激となる(エストロゲンが上昇している児では、初回投与1週間程度で性器出血が起こることがある)。 そのため、月経様の出血が起こる可能性を患児と親に説明しておく。
・しかし、その後は分泌を抑制し、性ホルモンの低下、骨年齢の促進抑制、二次性徴の進行停止または消退が認められる。
治療終了の目安
最終身長の改善を目的としている場合
・骨年齢は女児で12-13歳、男児では14-15歳に達すると、その後の身長の伸びは期待できない。したがって、月経発来時期の予想、成長速度、骨年齢を参考にして中止時期を判断する。
心理社会的問題の解決を目的としている場合
・中止後の二次性徴の影響を考慮して中止の時期を検討する。
中止後の確認事項
・治療中止後、二次性徴の発来、進行、完成を確認することが重要
・治療前に性器出血があった児では3-6ヶ月以内に、なかった児では2年以内に月経が来ることが多い。
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