総論
・顔面神経麻痺は、顔面筋を支配する第VII脳神経(顔面神経)の機能障害によって生じる病態です。
・顔の片側または両側が動かなくなり、笑ったり目を閉じたりする動作が困難になります。
・小児では成人と異なる原因や特徴があるため、特に注意が必要です。
小児における特徴
多様な原因
・先天性疾患、感染症、中耳炎、外傷などが主な原因。
・原因として最多(73%)を占めるのはBell麻痺。続いてRamsay Hunt症候群(RHS)。水痘帯状疱疹ウイルス(vericella-zoster virus:VZV)が膝神経節において再活性化することが主要な原因。
・成人では単純ヘルペスウイルス(HSV)とBell麻痺との関連が推察されているが、小児のHSV感染率を考えると、関与はそこまで多くないと考えられる。
予後
・多くの場合は良好(不全麻痺の場合)ですが、一部では後遺症が残ることもあります。
診断の重要
・原因疾患によって治療法が大きく異なるため、正確な診断が不可欠です。
疫学
・小児の顔面神経麻痺の発生頻度と背景をまとめます。
発生頻度
・顔面神経麻痺は比較的稀であり、年間10万人あたり約10~30例とされています。しかし10歳以下に限定すると、同3人程度とより少ない頻度です。
・成人と比較して発生率は低いものの、小児特有の病態が存在します。
年齢層と性差
年齢層
・乳幼児期(0~5歳)では先天性や中耳炎性麻痺が多く、学童期以降ではBell麻痺(特発性)が増加します。小児顔面神経麻痺のうち、Bell麻痺は73%を占めます。続いて、Ramsay-Hunt症候群が7%で第2位です。
性差
・男女差はほとんどありません。ただし外傷性麻痺は男児に多い傾向があります。
症状
・小児の顔面神経麻痺で見られる主な臨床症状についてまとめます。
・顔面神経は、運動神経からなる狭義の顔面神経と、知覚・分泌線維からなる中間神経に大別されます。よって、顔面神経麻痺は、運動、知覚、分泌の機能がそれぞれ機能低下し、多彩な症状をきたします。
主症状
• 片側性または両側性の顔面筋麻痺:額にしわを寄せることができない、目が閉じられない、口角が垂れ下がるなど。
• 表情筋機能障害:笑う、眉を上げるなどの動作が困難になります。
付随症状
• 涙液分泌低下:涙腺機能障害による眼乾燥。
• 味覚異常:舌前2/3部分で味覚障害を感じることがあります。
• 耳痛または聴覚過敏:音に対する過敏感(例:Ramsay Hunt症候群)。
• 皮膚病変:帯状疱疹ウイルスによる水疱形成(Ramsay Hunt症候群の場合)。
診断基準
・小児の顔面神経麻痺診断に必要なプロセスについてまとめます。
問診
• 発症時期や進行速度
• 感染症歴(例:中耳炎、水痘など)
• 外傷歴(分娩時外傷や頭部外傷)
身体診察
・顔面筋機能評価(額、目、口角など)
• 皮膚病変(水疱や発疹)の有無確認
柳原40点法
・簡便な麻痺重症度の評価には、表情運動10項目について、それぞれ0・2・4点で採点する柳原40点法が用いられます。
・10点以下を完全麻痺、12点以上を不全麻痺として扱います。不全麻痺の予後は良好です。
・従命にしたがえない低年齢児では、啼泣時に閉眼不能であり、鼻唇溝も消失している症例を完全麻痺としています。
分類
・小児の顔面神経麻痺の分類とその特徴についてまとめます。
先天性
• 第一第二鰓弓症候群(例:Treacher Collins症候群)
• メビウス症候群(両側性麻痺)
先天性に神経、筋肉ともに形成不全、あるいは欠損している場合、予後は不良。
感染性
• Bell麻痺(特発性):ウイルス感染との関連が示唆されている
• Ramsay Hunt症候群(水痘帯状疱疹ウイルス:VZV)
→VZVに関連する麻痺は、小児では7-15歳に多い傾向があるが、低年齢でも注意は必要。
• 中耳炎関連麻痺:重度の中耳炎や中耳真珠腫で生じることあり
外傷性
• 分娩時外傷(鉗子分娩など)
• 頭部外傷による神経損傷
外傷のような機械的圧迫による麻痺は、一般に自然回復が多いとされる。
腫瘍性
・脳幹神経膠腫
・側頭骨内神経鞘腫
・横紋筋肉腫
・白血病…etc
自己免疫性
• ギランバレー症候群:四肢筋力低下と併発する場合あり。
特発性
• Melkersson-Rosenthal症候群:顔面浮腫や舌溝形成を伴います。
検査所見
・診断に役立つ具体的な所見についてまとめます。
電気生理学的検査結果
・誘発筋電図(electoro neuronography:ENoG)
→予後診断的価値が高い。電気刺激により痛みを伴うため、検査のハードルが高いものの、小児においてもENoG値(複合筋活動電位の患側/健側振幅比)が20%以上であれば、3か月以内の治癒が期待される
・アブミ骨筋反射
• 神経興奮性検査で反応低下の場合は重症度高い。
• 筋電図で10%以下の場合は手術適応となる場合があります。
画像所見
• MRIで炎症や腫瘍病変を確認:側頭骨主要や中枢病変の評価
• CTで骨折や中耳炎の進展評価。
血液検査
血清抗VZV抗体
・無疹性帯状疱疹(zoster sineherpete:ZSH)や、疱疹遅発型のRamsay Hunt症候群(Ramsay Hunt syndrome:RHS)の鑑別に有効。
・IgG抗体価の有意な上昇、またはIgM抗体陽性をもって判断される。しかし、正確な診断のためには、これらの採血は初診時のみではなく、2週間隔を空けたペア血清採取が推奨される。
自己抗体
・陽性であれば、自己免疫疾患疑い
治療法
・治療法は原因疾患によって異なります。以下に主な治療法を示します。
薬物療法
ステロイド療法
• Bell麻痺では早期投与で予後改善効果あり。
①プレドニゾロン(PSL)内服 1mg/kg/day
②ヒロドコルチゾン(HDC)点滴 10mg/kg
抗ウイルス薬
• Ramsay Hunt症候群ではアシクロビルなどを使用。ステロイドに併用する。
①アシクロビル(ACV)点滴 15mg/kg
手術療法
減荷術
• 顔面神経管での絞扼解除を目的として行う。
・主に保存的加療に効果の乏しい、完全麻痺例に対して実施する。
・ENoG値が5%以下で考慮
遊離筋移植術
• 重度の場合に表情筋機能再建目的で実施。
リハビリテーション
表情筋トレーニング
• 麻痺回復促進。
電気刺激療法
• 筋力維持と回復促進効果あり。
鑑別疾患
以下は鑑別すべき疾患です。
- 川崎病
• 全身炎症徴候(発熱、リンパ節腫脹)が特徴。 - 白血病
• 骨髄抑制による全身症状。 - ギランバレー症候群
• 四肢脱力と併発する場合あり。
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