こんにちは!「ゆるっと小児科医ブログ」へようこそ。
小児科専門医で、2人の娘を絶賛子育て中のりんごです🍎
今回は、親御さんならぜひ知っておいていただきたい小児がんの一つ、
『神経芽腫(しんけいがしゅ)』についてお話しします。
「小児がん」という言葉を聞くと、ドキッとしてしまいますよね。
でも、「敵を正しく知る」ことは、お子さんを守るための最大の武器になります。
医学的な専門知識を、パパ・ママにわかりやすく、かつ最新の情報を踏まえて丁寧に解説していきます。最後までぜひ読んでみてくださいね。
1. 神経芽腫ってどんな病気?
神経芽腫は、小児がん(血液のがんを除く「固形腫瘍」)の中では、脳腫瘍に次いで2番目に多い病気です。
🍎どんな細胞からできるの?
私たちの体を活発にする「交感神経(こうかんしんけい)」になるはずだった細胞の赤ちゃん(芽)、神経堤細胞が腫瘍化して発生します。
🍎どこにできやすい?
最も多いのはお腹の中。腎臓の上にある「副腎(ふくじん)」という小さな臓器や、背骨に沿った神経の通り道にできやすいため、「お腹のしこり」として見つかることが多いのです。
🍎かかりやすい年齢は?
5歳以下のお子さん、特に0〜2歳の乳幼児期に多く見られます。日本では年間150〜300人ほどの子どもたちがこの病気と診断されています。予後は診断時年齢と強く相関し、一般的に年長児の予後は不良です。一方、乳児では自然退縮や分化傾向を示す腫瘍が多く、予後良好であるとされています。
2. 症状:代表的な「4つのサイン」
初期はお腹の奥深くで腫瘍が大きくなるため、目立った症状が出にくいのが特徴です。
しかし、進行に伴い以下のようなサインが現れます。
お腹のしこり(腫瘤)
一番多い発見のきっかけです。「おむつ替えの時にお腹にピンポン玉のような硬いものを触れた」「お腹だけ不自然にぽっこり出ている」といったことで親御さんが気づくケース、健診などで偶発的に発見されるケースなどがあります。
足の痛み・歩行異常(転移のサイン)
神経芽腫は骨や骨髄(骨の中の血液を作る場所)に転移しやすい特徴があります。
「急に歩かなくなった」「足や関節を痛がる」「抱っこを極端に嫌がる」といった症状が『続く場合は』要注意です。
また、椎弓内浸潤を来した腫瘍はダンベル型といわれ、下肢麻痺や膀胱直腸障害などの脊椎神経圧迫症状を示します。
目の周りのあざ・眼球の突出
目の奥の骨に転移すると、眼球が少し前に押し出されたり、目の周りに内出血のような「パンダの目(両側眼瞼下出血斑)」が現れたりすることがあります。
長引く発熱・不機嫌・体重減少
腫瘍が進行すると、原因不明の熱が続いたり、食欲が落ちて体重が減ったり、ずっと機嫌が悪いといった全身症状が出ます。
その他
縦隔腫瘤ではHorner症候群と呼ばれる眼瞼下垂や発汗異常を呈したり、気管圧迫から呼吸困難を呈することもあります。
まれな症状としては、難治性の下痢、眼球運動障害、小脳失調を呈するオプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、高血圧、頻脈などがあります。
3. 検査・診断:「病気の顔つき」を知るステップ
「もしかして?」と小児がんの専門施設を受診した場合、次のような検査を組み合わせて、病気の広がりや「悪性度」を慎重に見極めます。
尿・血液検査
腫瘍から分泌される物質(腫瘍マーカー:VMA、HVA)が尿にたくさん出ていないか調べます。
尿中カテコラミン代謝産物値であるバニリルマンデル酸(VMA)、ホモバニリン酸(HVA)のCrで補正した値が用いられ、カットオフは正常同月齢平均値の2.5~3.0SD以上とされます。
(※昔は生後6ヶ月の乳児健診でこの尿検査を全員に行っていましたが、現在は特定の理由により集団スクリーニングは休止されています)
他にも、血中乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、神経特異性エノラーゼ(NSE)、フェリチンなどが高値を示しますが、いずれも特異度は高くありません。
画像検査(エコー、CT、MRI)
腫瘍の大きさ、場所、周囲の血管との関係を正確に立体的に把握します。
神経芽腫の病気分類は限局性と転移の有無で決定するため、画像検査は重要となります (病気分類については後述)。
画像検査では、腫瘍内に石灰化が見られることがあります。
アイソトープ検査(MIBGシンチグラフィ)
神経芽腫の細胞にピタッとくっつく特殊な薬を注射し、特殊なカメラで撮影します。これで全身のどこに病気が隠れているか(転移)がわかります。
I ¹²³を用いたMIBG (metaindobenzylguanidine)シンチグラフィは特異度が高く、病気分類のために重要です。
腫瘍生検・骨髄検査
実際に腫瘍の細胞を採取し、顕微鏡で調べます。ここで「MYCN」という遺伝子が増幅していないかを調べます。この遺伝子の状態が、分子生物学的予後因子として、今後の治療方針を決める上で非常に重要な鍵を握り、MYCN増幅は予後不良因子です。
MYCNの検索には、PCR法、FISH法、アレイCGH法、MLPA(multiplex ligation-dependent probe ampilification)法などが用いられ、それらの検索に適した検体の保存が重要です。
さらに、DNA indexの二倍体(diploidy)m11qLOHは予後不良のリスク因子として用いられます。他にも、1p loss, 14q loss, 17q gain, Trk-A, Ha-rasの低下は予後不良因子とされています。
4. リスク分類と治療
神経芽腫の最大の特徴は、「自然に消えてしまう不思議なタイプ」から「非常に治りにくいタイプ」まで、経過が全く異なることです。
Internetional Neuroblastoma Risk Group (INRG)では、年齢、病気の広がり(病期)、MYCN遺伝子の状態、病理、11qLOHの有無、ploidyなどから、「低・中間・高リスク」の3つに分類して治療を行います。
INRGではリスクをvery low, low, intermediate, high の4段階に分けて、5年無イベント生存率を85%以上、75-85%, 50-75%, 50%未満にそれぞれ推定しています。
🌱 低リスク群:very low, low(主に乳児や、早期発見の場合)
手術による腫瘍の摘出が基本です。化学療法は手術後に残存腫瘍が認められた場合や手術摘出が不能な場合、あるいは再発を認めた場合にのみ行われます。一般的には低用量の2~4剤の抗腫瘍薬を組み合わせて、化学療法を周期的に行います。
さらに驚くべきことに、1歳未満の乳児で見つかった特定のタイプ(MS期/旧4S期)では、肝臓や皮膚に転移があっても、治療をせずに自然に腫瘍が小さくなり、最終的に消えてしまう(自然退縮)ことが知られています。この場合は、慎重に経過観察を行います。
🌿 中間リスク群 :intermediate
予後不良因子(MYCN増幅など)を持たない一期的腫瘍切除が不能なL2腫瘍や、18ヶ月未満の遠隔転移をもつM腫瘍が該当します。
手術に加えて、数ヶ月間の抗がん剤治療(化学療法)を行います。薬がよく効くことが多く、良好な経過が期待できます。局所放射線療法は進行性の肝腫大や脊髄圧迫症状が認められる患者に限られます。
🌳 高リスク群:high(1歳半以上で進行している、またはMYCN遺伝子増幅がある場合)
小児がんの中でも最も強力な治療が必要なグループです。MYCN増幅がある腫瘍や年長児の病期M腫瘍をもつ患者は高リスク群に分類されます。
しかし、近年、治療成績は飛躍的に向上しています。
治療法
- 寛解導入療法: 複数の強い抗がん剤で腫瘍を徹底的に叩きます。
- 局所治療: 手術で腫瘍を摘出し、残った見えない細胞には放射線を当てます。
- 大量化学療法(自家造血幹細胞移植): 通常の何倍もの抗がん剤を投与し、あらかじめ採取しておいた自分自身の「血液の種(造血幹細胞)」を体に戻して回復させます。
- 免疫療法(維持療法): 「抗GD2抗体薬(ジヌツキシマブ)」。がん細胞の表面にある目印(GD2)を狙い撃ちにし、自分の免疫細胞ががんを攻撃するのを助ける画期的な薬で、再発率を大きく下げることに貢献しています。
おわりに:パパとママへ、小児科医からのメッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
難しい言葉や怖い症状のお話もあり、不安にさせてしまったかもしれません。
私が小児科医として日々診療する中で、親御さんには「医療者と親は、子どもの健康を守るためのチーム・対等なパートナー」であってほしいと願っています。
「ただの便秘でお腹が張っているだけかも」「足が痛いのは成長痛かも」…そう思って受診をためらうこともあるかもしれません。
ですが、毎日お子さんを一番近くで見ているパパやママの「何かがいつもと違う」という直感は、どんな精密検査よりも早く病気を見つけるきっかけになります。
何もなければ「安心」をもらって帰ればいいのです。
もし気になるお腹のしこりや、原因のわからない長引く不調があれば、迷わず私たち小児科医を頼ってくださいね。一緒に、大切なお子さんの未来を守っていきましょう。


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