妊婦さんが感染すると、赤ちゃんに悪い影響を及ぼす感染症はいくつかあります。
・トキソプラズマ(Toxoplasma)
・梅毒(Other)
・風疹(Rubella)
・サイトメガロウイルス(Cytomegalo)
・単純ヘルペス(Herpes)
上記が有名であり、頭文字でTORCHとも言われます。
今回はその中からサイトメガロウイルスについてまとめます。
概念・定義
・サイトメガロウイルス(CMV)は、ヘルペスウイルスの仲間で、実は非常にありふれたウイルスです。多くの人が子どもの頃に感染し、そのまま体内にウイルスが潜伏(潜伏感染)しています。健康な人が感染しても、軽い風邪のような症状か無症状で終わるため、自分が感染したことにすら気づきません。
・問題となるのは、「妊娠中(特に初期〜中期)のお母さんが初めて感染した場合」です。 (※過去に感染して免疫(IgG抗体)を持っている場合でも、ウイルスの再活性化や別の型のCMVに再感染することで胎児に影響が出るケースはゼロではありませんが、最もリスクが高く重症化しやすいのは圧倒的に「初感染」です)。
・出生時より何らかの異常を認める場合や、無症状の場合もある。効果的な治療法は現時点では確立しておらず、 出生時の症状の有無に関わらずその後難聴や発達障害など遅発性障害を合併する場合もある。
・CMVは、世界の先天性感染症の中でも頻繁な原因である。先進国での推定発生率は0.6-0.7%ほどである。
・そして、先進国では出産可能年齢の女性のCMV既感染率は50-85%であり、発展途上国では約100%近いとも言われている(下記に論文のリンク)。
感染経路
CMVは、感染者のだ液、尿、涙、鼻水の中に大量に排出されます。しかも、乳幼児が一度感染すると、数ヶ月から長ければ年単位という非常に長い期間にわたって、ウイルスを排出し続けるという厄介な特徴があります。
保育園などの集団生活では、おもちゃを舐め合ったり、密接に関わったりするため、子どもたちの間で日常的にCMVの感染が起きています。つまり、元気に走り回っている上の子も、無症状のまま大量のウイルスを排出している「運び屋」になっている可能性が非常に高いのです。
臨床症状
・お母さんが妊娠中に初感染すると、胎盤を通して約30〜40%の確率で胎児に感染します。これを「先天性サイトメガロウイルス感染症」と呼びます。現在、全妊婦さんの約300人に1人がこの感染症の赤ちゃんを出産していると推定されており、決して「人ごと」ではありません。
・感染した赤ちゃんすべてに症状が出るわけではありませんが、発症した場合、以下のような深刻な影響を及ぼします。
- 難聴(感音性難聴): 最も代表的な症状です。生まれつき聞こえない場合と、成長の過程で徐々に聴力が落ちてくる「遅発性」の場合があります。
- 脳へのダメージ: 小頭症、脳内石灰化など。
- 発達の遅れ: 精神発達遅滞(知的障害)、運動発達の遅れ。
- その他: 網膜炎(視力障害)、肝臓や脾臓の腫れ、低出生体重など。
・現在、CMVに対する有効なワクチンは開発されていません。生まれた後に抗ウイルス薬(バルガンシクロビルなど)で治療を行うことで難聴の進行を抑える効果が期待できるようになってきましたが、完全に治せるわけではなく、やはり「予防」こそが最大の防御となります。
・症候性の場合には、胎児発育遅延にともなう低出生体重、肝脾腫、脳室内石灰化、脳室拡大、感音性難聴、肝機能異常(AST上昇)、黄疸、直接ビリルビン上昇、血小板減少(点状出血)、 (脈絡)網膜炎、けいれん、小頭症、などの症状を伴う。
・無症候性の状態で出生しても、その後難聴や精神運動発達遅滞、 てんかんなど遅発性障害が出現することがある。
・出生時、感染した児の85-90%は無症候性であり、10-15%は症候性である。
検査所見
・生後3週間までに採取された出生児の尿、臍帯血、もしくは出生時の血液や唾液からサイトメガロウイルスが検出(PCR法陽性)されることが前提
検査オーダー例)CMV核酸検出-新生児尿
血液・生化学的検査所見
・血小板減少症(10万以下)
・直接型高ビリルビン値の上昇(2mg/dl以上)
画像検査所見
・頭部超音波検査、CTあるいはMRIにより脳室周囲石灰化
生理学的所見
・聴性脳幹反応の異常
・聴力低下
・視力低下
治療
・妊娠中に診断された例に対する有効な治療法は確立されていない。
・症候性の児に対する抗ウイルス薬の有効性を示す報告もあるが意見の一致をみていない。
・症候性先天性CMV児へのガンシクロビル療法は有効である。副作用として好中球減少を認める。
具体的な治療については下記ブログ記事参照↓
予後
・症候性の場合は、出生時の異常がそのまま継続する可能性があり、発達予後、視力障害、てんかん、 聴力障害が生涯にわたりQOLに影響する。
・また、たとえ出生時に無症候であっても、遅発性に精神発達遅滞や運動障害、 聴力障害などが出現する場合にも同様に生涯にわたりQOLに影響する。



コメント