【小児科医Blog:薬剤】小児緩和ケアに使用する薬剤(鎮静薬/鎮静薬 まとめ) | ゆるっと小児科医ブログ
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【小児科医Blog:薬剤】小児緩和ケアに使用する薬剤(鎮静薬/鎮静薬 まとめ)

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・小児緩和ケアにおける疼痛管理は、患児のQOL向上に直結する重要な課題です。近年の研究では、適切な薬剤選択と投与法の最適化が治療効果を決定づけることが明らかになってきました。

・本ブログでは、主要な鎮痛薬の具体的な調製方法・投与量・投与時間を体系的に解説します。

総論

・今回は、小児での集中治療管理で使用することの多い薬剤についてまとめます。

・麻薬、ベンゾジアゼピン、ケタミン系をメインとして、薬剤ごとの特徴や用量について記載していきます。

薬剤の選択

・小児緩和ケアでは、WHOが提唱する3段階疼痛ラダーに基づき薬剤を選択します。

・第1段階ではアセトアミノフェン(10-20mg/kgを4-6時間間隔)を使用しますが、肝機能モニタリングが必須です。

・第2段階以降では、モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルが主要な選択肢となります。特に神経因性疼痛にはフェンタニル経皮吸収製剤が有効で、72時間持続効果が期待できます。


・重要なのは「定期投与量」と「レスキュー量」の適切な比率設定です。国際ガイドラインでは、レスキュー量を24時間定期投与量の1/4-1/6に設定することが推奨されています。例えばモルヒネ定期投与量が60mg/日の場合、レスキュー量は10-15mgが適切です。

麻薬

・鎮痛作用を期待する場合、集中治療室では第一選択薬となります。

モルヒネ

特徴

・長時間作用性(約2-3時間)

・鎮静(傾眠作用・多幸感Up)と鎮痛作用の両方に作用する。

・ヒスタミン遊離作用あり

・悪心嘔吐を起こす場合あるので注意

・脳静脈拡張、脳圧亢進作用あり

・フェンタニルと比較し安価。

用量

開始量:10-20μg/kg/hr

・持続投与量を増量する時は、その時の「2分の1〜1時間投与量」をボーラス投与してみる。痛みが軽減した場合、持続投与量を15-20 μg/kg/hrに増量する。

・その後も痛みの程度を見て、増量がさらに必要な場合、1.2-1.5倍ずつ増量を行う。

・鎮痛のみであれば、10μg/㎏/hrで十分なこともある。

・熱傷患者では、100μg/㎏/hr以上必要なこともあるが、基本的には、呼吸抑制リスクを回避するために「投与速度上限を50 μg/kg/hrに設定する」ことが推奨されている。

注意事項

・ヒスタミン遊離作用があるので、喘息患者には要注意。

・消化器症状(悪心・嘔吐)がほぼ全例に出現するので、制吐剤の併用が必須。

・悪心嘔吐が強い場合には、フェンタニルを使用。

・脳静脈拡張、脳圧亢進作用がある場合もフェンタニル使用。

・5日間を超えて持続的に使用する場合、麻薬の離脱症候群に要注意。

希釈方法(例)

塩酸モルヒネ注 20mg(2mL) を生食46mLで希釈。Total 48mL → 0.4mg/mL

新生児・乳児への適用


・モルヒネ持続皮下注は、0.5mg/kg/日から開始します。投与速度は3-6μg/kg/hrとし、血中濃度を0.01-0.05mg/Lに維持します。

・未熟児では肝代謝能が低いため、投与間隔を6時間から8時間に延長します

腎機能障害時の調整


クレアチニンクリアランス30mL/min以下では、
・モルヒネ:投与量を50%減
・オキシコドン:投与間隔を8時間に延長
・フェンタニル:用量変更不要

フェンタニル

特徴

・短時間作用性(約1時間)

・モルヒネの約100倍鎮痛効果があるが、鎮静傾眠作用は比較的乏しい

・脂溶性のため蓄積性あり

・耐性を作りやすい

・肝代謝腎排泄

・急速投与でStiff Chest現象(突然胸郭コンプライアンスが著しく低下し、低酸素に陥る)

適応

・気道確保時(特に循環動態が不安定な患者)

・肺高血圧のハイリスク患者

・気管支喘息の際に考慮

・モルヒネに対するアレルギーや悪心の既往

用量

皮下注原液法


・原液(50μg/mL)をそのまま使用し、0.1mL/時(120μg/日)から開始します。

・疼痛強度に応じ、8時間毎に0.05mL/時ずつ増量します。

・特徴的なのは投与速度の幅が広く、2.0mL/時(2400μg/日)まで調整可能な点です。

4倍希釈静注法

・原液6mL(300μg)に生食36mLを加え、濃度12.5μg/mLの調製液を作成します。

・初期速度0.4mL/時(120μg/日)から開始し、最大5.0mL/時(1500μg/日)まで段階的に増量します。腎機能障害患児では半減期が延長するため、投与間隔の調整が必要です。

貼付剤の適用

・フェンタニル経皮吸収製剤は、12.5μg/時パッチから開始します。

・貼付面積は体重10kg毎に5cm²を目安とし、最大100μg/時まで増量可能です。発汗が多い患児ではパッチの密着性を毎日確認する必要があります。

注意事項

・フェンタニル単剤を鎮静目的には使用しない。適切な催眠作用と健忘作用がない。

・よって、ミダゾラム等と併用での使用となる。

副作用管理

悪心

メトクロプラミド0.1-0.15mg/kg/回(1日3回まで)

便秘

ポリエチレングリコール1-1.5g/kg/日を分割投与

掻痒

ナロキソン0.25-1μg/kg/hrを持続投与

麻薬の離脱症候群:IWS(latrogenic withdrawal syndrome)

・モルヒネやフェンタニルのような麻薬を突然中止すると、離脱症状(易刺激性、頻拍、発汗、下痢、幻覚)を引き起こす可能性があるので注意。

・離脱症候群は、麻薬を5日間以上連続投与された場合に起こり得る。

 ※しかし、必ず5日間以上というわけではなく、3日間ほどでも起こる可能性はあり。

・フェンタニルは、使用期間だけでなく、計1500μg/kg以上の使用で50%以上が離脱症候群を起こす可能性がある。

WAT-1(The Withdrawal Assessment Tool-1)

・オピオイド、ベンゾジアゼピンの薬物離脱症状を評価するスケール。

・11項目12点満点で評価し、3点以上を離脱症状陽性とする。

・以下の4項目から評価し、合計スコアをつける。

・SBSは挿管管理中の患者に対して1-2時間ごとに記録する。

・WAT-1は薬剤減量する時点で低〜高リスクに当てはまる場合、ワンポイントでスコアリングし、以降離脱が強く疑われる時点で1日3回のスコアリング評価を繰り返す。

直近12時間前の記録情報

ゆるい便/水様便:なし(0点)、あり(1点)

嘔吐/むかつき/ 嘔気:なし(0点)、あり(1点)

体温>37.8℃:なし(0点)、あり(1点)

刺激前2分間の観察

興奮状態:SBS(State Behavioral Scale)≦0 or 覚醒/睡眠/穏やか(0点)、SBS≧1点 or 覚醒/不快(1点)

振戦:なし/軽度(0点)、中等度/重度(1点)

発汗(わずかでも):なし(0点)、あり(1点)

まとまりない運動/反復運動:なし/軽度(0点)、中等度/重度(1点)

あくび/くしゃみ:1回以下(0点)、2回以上(1点)

1分間の刺激観察

触知にびっくりする様子:なし/軽度(0点)、中等度/重度(1点)

筋緊張:正常(0点)、増加(1点)

刺激後の回復

穏やかになるまで(SBS≦0)の時間:2分未満(0点)、2-5分(1点)、5分≦(2点)

減量方法(内服鎮静に移行しない場合)

・投与期間においてIWSのリスクが異なるので、減量スピードも異なる。

リスク低:投与期間5-9日間

・24時間ごとに50%ずつ減量、2日間で終了

リスク中:投与期間10-21日間

・24時間ごとに20%ずつ減量、5日間で終了

リスク高:投与期間(22日間〜)

・24時間ごとに10%ずつ減量、10日間で終了

減量後の対応

・薬剤減量後、WAT-1≧3点でIWSと診断した場合、減量直前の投与量に戻し、必要に応じてボーラス投与を行う(ミダゾラム・オピオイドの場合)

オピオイドローテーション

モルヒネからフェンタニルへの切り替え時、等価換算表に基づき計算します。

 モルヒネ 30 mg/日 → フェンタニル貼付剤 25 μg/時

 モルヒネ 60 mg/日 → フェンタニル持続皮下注 120 μg/日

鎮静:ベンゾジアゼピン

・鎮静作用を主としている。

ミダゾラム

特徴

・短時間作用性(約1時間)

・速やかな効果発現と覚醒、プロポフォールに比べてキレは悪い。

・投与速度の変更で、用意に鎮静深度を調節できる。

・短時間使用後には蓄積効果はあまりなし。

・肝代謝

・ジアゼパムに比べて静脈刺激性が低い。

用量

持続:0.05-0.4 mg/kg/hr

・初期負荷として0.05-0.1mg/kg静注、必要に応じて0.05-0.1mg/kg静注

注意事項

・鎮痛作用はない。むしろ疼痛閾値を下げる

・新生児への投与でミオクローヌス様運動が見られることがある

・せん妄との関連が指摘され避けられる傾向にあるが、小児では代替薬の選択肢が少ない。

ジアゼパム

特徴

・長時間作用性(2-3時間)

・ゆっくり覚醒する、逆に急性の離脱症状は起きにくい

・経腸投与で使用する

・静脈投与は血管刺激性。親油性により使用しにくい。

用量

・0.2mg/kg/dose 6時間ごとに経腸投与

注意事項

・新生児への投与で黄疸を増悪させる(保存料とし添加されているベンジンアルコールがビリルビンをアルブミンから遊離させるため)

離脱症候群

・ベンゾジアゼピン系では、睡眠障害、易刺激性、不安、興奮、パニック発作、振戦、発汗、頻拍、高血圧、知覚変化などの症状を起こす。

・ミダゾラムについては、合計60mg/kg以上の使用がリスクとの報告がある。

・ミダゾラム持続静注が7-10日間以上の長期になる場合、ジアゼパムへの変更も考慮される。

・ミダゾラム→ジアゼパムの変更した当日は、ジアゼパム追加投与を要する場合もある。

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