【小児科医blog:新生児, 循環器, NICU】心室中隔欠損症 (VSD) について | ゆるっと小児科医ブログ
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【小児科医blog:新生児, 循環器, NICU】心室中隔欠損症 (VSD) について

循環器

VSD: ventricular septal defect

総論

・先天的に心室中隔の一部に欠損孔があり、その孔を通して左室から右室、肺動脈へ動脈血の一部が流入する病態。

・左室と右室の間の圧較差により血液が左室から右室に流れ、肺動脈に流れる血液が増える一方で、重症例では大動脈から全身に流れる血液(心拍出量)は減少してしまう。

・重症例では肺血流増加による症状(多呼吸、陥没呼吸、発汗過多など)、体血液量減少による症状(手足の冷感、消化不良)が生じて、哺乳不良から体重増加不良をきたす。

・欠損孔の大きさにより病態、症状が大きく異なる。

・先天性心疾患の中で最も発生頻度が高く、約3-5割を占める。

・大動脈径と同等以上のVSDはlarge VSDと考えられる。

・Eisenmenger化すると右左シャントとなり,手術適応なし

心室中隔欠損の位置による分類

・VSDは欠損孔により分類され、一般的にKirklinの分類が用いられる。

・右室側から見た心室中隔欠損の欠損孔の位置で判断されます。

欠損孔の位置

膜様部:心室中隔の中央部

筋性部:心尖部といわれる肺動脈弁や三尖弁などと離れた位置

漏斗部:肺動脈弁直下

流入部:三尖弁の裏側

Kirklin分類

Ⅰ型 欠損部位:漏斗部(流出部)、outlet

・日本人を含むアジア人に多い。

・自然閉鎖はまれ。

・大動脈弁閉鎖不全症(AR)やValsalva洞動脈瘤破裂の合併例あり。

・短軸像大動脈弁レベルで評価

Ⅱ型 欠損部位:膜様部, perimembranous

・VSDで最多。

・自然閉鎖が多い。

・短軸像大動脈弁レベルで評価

Ⅲ型 欠損部位:流入部, inlet

・心内膜床欠損型とも言われる。

・Down症候群に多い。、

・四腔断面像で評価

Ⅳ型 欠損部位:筋性部, muscular

・日本では少ない。

・新生児期の小欠損は高率に自然閉鎖する。

・多孔性のこともある。

・四腔断面像で評価

病態生理

・VSDでは心室中隔に孔があいており、左室から右室へのシャントがある。

・小さなVSDだと、生後1-2日経過し、肺血管抵抗が減弱すると、肺につながる心室の心室圧が低下する。血流は圧の高い心室から低い大血管に流れるので、大動脈につながる心室からVSDを介して肺動脈に血液が多く流れる。

・肺循環への血流量が増えると、左房容量負荷・左室容量負荷がかかり拡大する。

・大欠損では、肺高血圧となり右室圧負荷がかかり、右室肥大を来す。

・肺高血圧が強くEisenmenger化(右-左シャント)となると、肺血流量は減少し、左房・左室容量負荷は減少する。

※収縮期に右室へ短絡した血流はそのまま肺動脈に駆出されるため、大きな欠損でない限り、右室の容量負荷はない。

臨床症状

・VSDは欠損孔が大きいほどシャント血流量は多くなり、心症状・呼吸器症状などが強くなる。また症状の出現する時期も早くなる。

小欠損

・自覚症状はなし。

・50-60%は自然閉鎖するため予後良好。

・胸骨左縁中部〜下部で全収縮期雑音

中欠損

・無症状~有症状(易疲労感、労作時呼吸困難など)まで様々。

・無症状の場合は自然閉鎖が期待できるが、心不全などの症状が出現する場合もあり予後は様々。

大欠損

・乳児期から多呼吸、哺乳困難、体重増加不良、発汗などの症状を来す。

・乳児期早期に死亡することもある

・生存例では呼吸器感染、心不全、Eisenmenger化が予後規定因子となる。

・左室肥大→両室肥大(肺高血圧)

・収縮期逆流性雑音(Eisenmenger化で消失)

・大きなVSDがある先天性心疾患では、SpO2の上昇は肺血流量増加・体血流量減少を反映していることがある。SpO2が上昇し、呼吸数増加や尿量減少がある場合には、循環不全や壊死性腸炎の前兆に注意する。

Eisenmenger化

・労作時呼吸困難、チアノーゼ、胸痛、失神などの症状を来す。

・予後は悪く、平均生存年齢は40歳代である。

聴診所見

・汎収縮期雑音を聴取する(欠損孔を通るジェット血流のため生じる。)

・欠損孔が小さいほど乱流の程度が著しいため雑音は大きく、収縮期全般に聞こえる。

重症化時の心雑音

・収縮期逆流性雑音(乱流の小さい大欠損では雑音はⅡ音に届く前に漸減して消失する)

・Ⅱ音の亢進(肺高血圧によりⅡP成分が亢進し、Ⅱ音が亢進する)

・拡張期ランブル:Carey-Coombs雑音(左-右シャントにより肺血流が増大し、相対的MSによる拡張期ランブルを生じる)

エコー所見

・断層法とカラードプラ法を用いて、少なくとも2つ以上の異なる断面でVSDを確認して診断する。

・VSDは必ずしも円形ではないので、最大に見える欠損の径を確認する。

・断層法では欠損孔の位置と大きさを確認する。

・カラードプラでは短絡の有無と方向を確認する。

治療

小~中欠損

・自然閉鎖が期待されるため、症状がなければ経過観察でも良い。

・小欠損の多くは2歳までに閉鎖する。

・この場合、運動制限や水分制限の必要性はなく、通常の生活を送ってもよいが、年に1-2回の定期検査が推奨される。

・漏斗部欠損で、大動脈弁逸脱、大動脈閉鎖不全症を合併する例や、学童期以降でも欠損孔が縮小せず肺体血流比(Qp/Qs)>1.5の場合は手術適応。

大欠損

肺体血流比(Qp/Qs) > 1.5(-2.0)で手術( 閉鎖術)適応。

・VSDでが原因とみられる症状を呈する例や、肺高血圧合併例では生後半年までに手術を実施する(放置するとEisenmenger化する危険性が高いため,Eisenmenger

化すると手術は禁忌)。

・シャント血流量が多く自覚症状、心不全症状があるものはまず、利尿薬などの薬物療法を行う。

※欠損孔が残存する場合、生涯を通じて感染性心内膜炎のリスクがあるため、抜歯や他臓器の手術を行う際は抗菌薬の予防投与が推奨される。

合併症

VSD+ 大動脈弁逆流 (AR)

・二次的に生じる。

・欠損孔が大動脈の流出路にあると,弁がずれてくる。

・日本人に多く,予後不良

感染性心内膜炎(IE)

・抜歯時、IEの高リスクであり予防的抗菌薬が強く推奨される。

投与例)AMPC 50mg/kg/dose (最大2g) ※処置1時間前に服用 (感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン:2017年改訂版)

心不全の管理

・まずは、水分制限、利尿薬の投与を行う。

・経口哺乳困難な場合は、胃管を挿入しミルクをあげる。

・左右シャントのある状態で酸素投与を行うと、肺血管が拡張してさらに短絡量が増加、心不全・呼吸不全が悪化するため、SpO2は上昇しすぎないように注意する。

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