【小児科医blog:神経】神経線維腫症1型(Neurofibromatosis type 1:NF1)について | ゆるっと小児科医ブログ
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【小児科医blog:神経】神経線維腫症1型(Neurofibromatosis type 1:NF1)について

神経

  1. 総論
  2. 症状, 診断基準
    1. 診断基準
      1. 1)遺伝学的診断基準
      2. 2)臨床的診断基準
        1. 6個以上のカフェ・オ・レ斑
        2. 2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫等)orびまん性神経線維腫
        3. 腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)
        4. 視神経膠腫(optic glioma)
        5. 2個以上の虹彩小結節(Lisch nodule)
        6. 特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形、四肢骨の変形、頭蓋骨・顔面骨の骨欠損)
        7. 家系内(第一度近親者)に同症の者がいる
    2. その他の参考所見
    3. 診断する上での注意点
  3. 遺伝的背景と病態生理
  4. 治療
    1. 皮膚病変(色素斑)
      1. カフェオレ斑
      2. 雀卵斑様色素斑:freckling
      3. 有毛性褐青色斑
      4. 大型の褐色斑
    2. 皮膚病変(神経線維腫)
      1. 皮膚の神経線維腫
      2. 神経の神経線維腫(nodular plexiform neurofibroma)
      3. びまん性神経線維腫(diffuse plexiform neurofibroma)
      4. 悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor)
    3. その他の皮膚病変
      1. 若年性黄色肉芽腫
      2. 貧血母斑
      3. グロームス腫瘍
    4. 中枢神経系の病変
      1. 脳腫瘍
      2. 脳神経、脊髄神経の神経線維腫
      3. Unidentified bright object(UBO)
    5. 骨病変
      1. 脊椎変形
      2. 四肢骨の変形(先天性脛骨偽関節症)
      3. 頭蓋骨・顔面骨の骨欠損
    6. 眼病変
      1. 虹彩小結節(Lisch nodule)
      2. 視神経膠腫(optic glioma)
    7. その他の病変
      1. 褐色細胞腫
      2. 消化管間質腫瘍(GIST)
      3. 限局性学習症(学習障害)/注意欠如多動症/自閉スペクトラム症
    8. 最新治療
      1. 標的治療薬【MEK阻害剤】
      2. 外科手術
      3. 新規治療
  5. 患者ケアと長期管理
  6. まとめ

総論


・神経線維腫症1型(Neurofibromatosis type 1、以下NF1)は、遺伝性の神経皮膚症候群であり、全身に多様な影響を及ぼす疾患です。

・NF1は常染色体優性遺伝により発症し、主に皮膚、神経系、骨格系に異常をもたらします。この疾患は、カフェオレ斑や神経線維腫の形成が特徴であり、一部の患者では悪性腫瘍への進展も見られます。


・NF1は17番染色体長腕(17q11.2)上のNF1遺伝子の変異によって引き起こされ、この遺伝子がコードするタンパク質「ニューロフィブロミン」は細胞成長を抑制する役割を持っています。

●ニューロフィブロミンの役割

①皮膚の色素をつくる細胞や神経、顔の骨など、体の様々な部位がきちんと作られるように細胞の変化を調整すること

②細胞の数が増えすぎないように適切な量に調節すること。

そのため、変異が生じると細胞増殖が制御不能となり、多様な腫瘍形成が進行します。

症状, 診断基準


NF1患者は以下のような特徴的な症状を示します。
• カフェオレ斑:皮膚に現れる淡褐色の斑点で、診断基準の一つです。
• 神経線維腫:皮膚や深部組織に発生する良性腫瘍で、痛みや機能障害を伴うことがあります。
• 軸索または鼠径部のそばかす:特定部位に集中するそばかす状の色素沈着。
• 視神経膠腫:視力障害を引き起こす可能性がある脳内腫瘍。
• 骨異常:脊椎側弯症や蝶形骨形成不全など。


診断は臨床的特徴と画像検査を組み合わせて行われます。米国国立衛生研究所(NIH)の改訂基準によれば、これらの特徴が複数存在する場合、NF1と診断される可能性が高いです。

診断基準

・以下に神経線維腫1型の治療ガイドライン2018の内容をまとめます。

・NF1の診断は通常、臨床症状に基づいて行われます。日本皮膚科学会は、NIH(National Institutes of Health)が1988年に提案した診断基準をもとに、「神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の診断基準2018」を作成しています。

1)遺伝学的診断基準

・NF1遺伝子の病因となる変異が同定されれば、神経線維腫症1型と診断されます 。

・ただし、ミスセンス変異の判定には専門家の意見が参考にされます2 。

・日本で行われた次世代シーケンサーを用いた変異の同定率は90%以上と報告されていますが、遺伝子検査で変異が同定されなくてもNF1を否定するわけではなく、その診断には臨床的診断基準を用いることに影響はありません。

・2024年6月より、臨床症状や他の検査で診断がつかない場合に保険適用になりました。

2)臨床的診断基準

以下の7項目のうち、2項目以上を満たす場合に神経線維腫症1型と診断されます。

6個以上のカフェ・オ・レ斑

・小児では大きさが0.5cm以上、成人では1.5cm以上が必要です。

・淡いミルクコーヒー色〜濃い褐色のしみ・あざです。平らで盛り上がりがなく、丸みを帯びた滑らかな輪郭の楕円形のものが多いです。

・多くは出生時、遅くても2歳までに見られます。

2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫等)orびまん性神経線維腫

・皮膚の神経線維腫は思春期頃より全身に多発する常色~淡紅色の弾性軟の良性腫瘍です(神経を包んでいる細胞が無秩序に増えるために発生します) 。

・神経の神経線維腫は圧痛や放散痛を伴うことがあります。

・皮膚の神経線維腫は、思春期以降に約95%の患者さんでみられます。

・叢状神経線維腫は、体の内部にできた神経線維腫が大きな塊となり、体の表面が盛り上がるなどの症状が起こるものです。

腋窩あるいは鼠径部の雀卵斑様色素斑(freckling)

・脇の下や脚の付け根に、そばかすのような斑点ができます。

・1歳頃から小学校入学前の幼児期に、95%の患者さんでみられます。

視神経膠腫(optic glioma)

・視力の低下や左右の眼の視線が揃わない、無意識に眼球が揺れるなどの症状がみられる場合もあります。

・無症状の場合や、自然に消える場合もありますが、失明につながる可能性もあります。

2個以上の虹彩小結節(Lisch nodule)

・小さな粒のようなものが眼の虹彩に現れます。

・ほとんどの場合、視力への影響はありません。

・0歳から18歳くらいまでの小児期に、約80%の患者さんにみられます。

・この病気に特徴的な所見であり、診断の補助となります。

特徴的な骨病変の存在(脊柱・胸郭の変形、四肢骨の変形、頭蓋骨・顔面骨の骨欠損)

・頭や体の骨の一部が変形している、または一部の骨が生まれつき欠けていることがあります。

家系内(第一度近親者)に同症の者がいる

・両親どちらかのNF1遺伝子に変化があれば、子どもには50%の確立で遺伝します。

・しかし、患者さんの半数以上は、両親のNF1遺伝子に変化がなく、子どものNF1遺伝子が偶然変化すする孤発性です(約10,000分の1の確率)。

その他の参考所見

上記以外にも、診断の参考となる所見として、以下のものが挙げられています。

・大型の褐色斑

・有毛性褐青色斑

・若年性黄色肉芽腫

・貧血母斑

・脳脊髄腫瘍

・Unidentified bright object(UBO)

・消化管間質腫瘍(GIST)

・褐色細胞腫

・悪性末梢神経鞘腫瘍

・限局性学習症(学習障害)・注意欠如多動症・自閉スペクトラム症

診断する上での注意点

・患者の半数以上は孤発例であり、両親ともに健常であることも多いです。

•幼少時期にはカフェ・オ・レ斑以外の症候が見られないことも多いため、時期をおいて再度診断基準を満たしているかどうかの確認が必要です。

•個々の患者にすべての症候が見られるわけではなく、症候によって出現する時期も異なるため、本邦での神経線維腫症1型患者に見られる症候のおおよその合併率と初発年齢を参考にして診断を行います。

・診断のポイントとして、カフェ・オ・レ斑は多くは出生時からみられる扁平な色素斑であり、神経線維腫は思春期頃より全身に多発する弾性軟の腫瘍であることが強調されています。

・また、乳児期ではカフェ・オ・レ斑のみの場合が多く、その大きさも成人と比較してやや小さいため、家族歴がなければ診断が難しい場合があります 。

・カフェ・オ・レ斑を6個以上認めた場合には、後にその95%はNF1と診断されますが、疑い例では時期をおいて再度確認を行う必要があります。

・NF1の診断においては、臨床症状が最も重要であり、遺伝子検査はそれを補完するものです 。また、NF1と一部の臨床症状が重複するLegius症候群などのRASopathiesとの鑑別も重要です。Legius症候群では神経線維腫、虹彩小結節、視神経膠腫などの腫瘍性病変の合併は見られません。

遺伝的背景と病態生理

NF1は100%の浸透率を持つ疾患ですが、その表現型は患者ごとに異なります。この多様性は主に以下の要因によります。


• NF1遺伝子変異:主にニューロフィブロミンタンパク質の欠損によるRASシグナル伝達経路の過剰活性化。
• 細胞間相互作用:シュワン細胞やマスト細胞などが関与し、腫瘍微小環境を形成。
• 二次的変異:INK4A/ARFやP53など他の遺伝子変異が悪性転換を促進する場合があります。
これらの分子機構により、NF1では良性から悪性まで多様な腫瘍が形成される可能性があります。

治療

・種々の症状を呈するため、複数の診療科での治療介入が必要になります。

・年齢毎に異なった課題が認められるので、年齢に適した評価・治療が必要です。また、遺伝カウンセリングとともに、家族への評価も重要です。

・以下に、神経線維腫1型の治療ガイドライン2018の内容をまとめます。

皮膚病変(色素斑)

カフェオレ斑


・現在のところ、完全に消失させる確実な治療法はありません。希望があれば、レーザー治療が考慮されますが、効果は一定ではなく、適切な治療回数や長期的な効果は不明です。

・過去にはハイドロキノンなどの外用薬も試されましたが、明らかな効果はありませんでした。

・ビタミンD3製剤の外用が有効との報告もありますが、著しい効果はなく、保険適用もありません。顔面の病変にはカバーファンデーション(化粧品)も有用です。

雀卵斑様色素斑:freckling

・主に腋窩・鼠径部に生じ、治療の適応となることは稀です。

・フォトRFなどのレーザー治療が有効との報告もありますが、効果は十分ではありません。

有毛性褐青色斑

・硬毛を伴っている場合が多く、整容上の問題となりえます。病変が小さければ外科的切除も選択肢の一つです。

大型の褐色斑

・徐々にびまん性の神経線維腫を生じる場合が多く、注意深い経過観察が推奨されます。必要に応じて外科的切除も考慮されます。

皮膚病変(神経線維腫)

皮膚の神経線維腫

・治療を希望する患者に対して、整容的な観点や精神的苦痛を改善させるため、外科的切除が第一選択となります。数が少なければ局所麻酔下、多ければ全身麻酔下で切除します。

・小型のものにはトレパンによる切除、電気焼灼術、炭酸ガスレーザー、Nd:YAGレーザーも有効です。手術後の瘢痕形成は少ないとされています。ただし、炭酸ガスレーザー治療後に肥厚性瘢痕が生じた例も報告されています。

神経の神経線維腫(nodular plexiform neurofibroma)

・悪性末梢神経鞘腫瘍の発生母地となりうるため、外科的切除が望ましいとされます。ただし、切除により知覚鈍麻や運動神経麻痺をきたすことがあります。

びまん性神経線維腫(diffuse plexiform neurofibroma)

・増大する前に早期の外科的切除が望ましいとされています。手術時には大量出血の可能性があるため、術前の十分な画像検査や塞栓術が有効です。

・超音波凝固切開装置や特殊な電気式凝固切開装置を用いた切除も有用と報告されています。mTOR阻害薬は増大傾向のある病変に対して増大速度の低下が見られるものの、非進行性のものには効果がなく推奨されません。

・イマチニブは切除不能な病変に対して使用を考慮してもよいとされていますが、長期的な有効性は不明です。これらの薬剤は現在、日本国内では保険適用外です。

悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor)

・広範囲外科的切除が原則です。放射線療法や化学療法の効果は一般的に低いとされています。

・再発率が高く、予後不良です。

・イマチニブの効果は証明されておらず、使用は推奨されません。

・NF1に合併した腫瘍への放射線治療は二次的な悪性腫瘍のリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。

その他の皮膚病変

若年性黄色肉芽腫

・通常治療は必要としません。

貧血母斑

・通常治療を必要としません。

グロームス腫瘍

・合併頻度は低いですが、痛みを伴う場合が多いため、外科的切除を行います。

中枢神経系の病変

脳腫瘍

・頻度は低いですが、神経膠腫を合併することがあり、多くは良性の毛様細胞性星細胞腫です。

・症状(視力障害、頭痛、嘔気、麻痺など)があれば、MRI検査を行い、早期に脳神経外科専門医へ紹介します。

・腫瘍の成長が明らかであれば、外科的摘出、化学療法、放射線療法などが考慮されます。NF1に合併した毛様細胞性星細胞腫で急速な成長や明らかな神経学的悪化があれば、治療を考慮します。

脳神経、脊髄神経の神経線維腫

・痛み、痺れなどの神経症状が出現した場合は、脳神経外科専門医、整形外科専門医へ紹介し、通常外科的切除を考慮します。ただし、全切除が難しい場合や術後に後遺症を残すことがあります。

Unidentified bright object(UBO)

・通常治療は必要としません。加齢とともに見られなくなることが多いです。

骨病変

脊椎変形

・変形が著しくなる前に整形外科専門医へ紹介し、必要に応じて治療を考慮します。Dystrophic type の変形は進行しやすく、装具による治療は困難であり、早期の脊椎矯正固定術が考慮されます。Non-dystrophic type は思春期特発性側彎症に準じた治療(装具治療や手術)が行われます。

四肢骨の変形(先天性脛骨偽関節症)

・早期に整形外科専門医へ紹介し、外科的治療を行います。

・保存療法では骨癒合は期待できないため、外科的治療が推奨されます。血管柄付き骨移植やイリザロフ法などにより骨癒合率が向上しています。

頭蓋骨・顔面骨の骨欠損

・大型のものでは髄膜瘤、脳瘤を起こすことがあるため、脳神経外科専門医へ紹介します。

・外科的治療(自家骨、血流つき自家骨、人工骨など)が考慮されますが、治療が難しい場合があります。

・拍動性眼球突出に対しては、チタンメッシュや人工骨を用いた再建術が考慮されますが、長期的な有用性は不明です。

眼病変

虹彩小結節(Lisch nodule)

・ 通常治療を必要としません。診断的意義は大きいです。

視神経膠腫(optic glioma)

・小児科、眼科、脳神経外科専門医へ紹介し、必要に応じて治療を考慮します。

・増大する腫瘍に対して白金製剤を中心とした化学療法が考慮されますが、長期的な有効性は不明です。腫瘍が視神経に限局し失明している場合には、対側視力視野障害を予防するために腫瘍摘出が行われることがあります。

・放射線治療は二次性悪性腫瘍のリスクを高めるため、特に小児期には推奨されません。

その他の病変

褐色細胞腫

・高血圧や副腎に腫瘍が見られた場合には泌尿器科専門医に紹介し、外科的切除を考慮します。

消化管間質腫瘍(GIST)

・下血や腹痛などの症状が見られた場合には、消化器外科専門医に紹介し、外科的切除を考慮します。

・NF1に合併したGISTではチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ)は無効です。

限局性学習症(学習障害)/注意欠如多動症/自閉スペクトラム症

・小児科専門医に紹介し、必要な支援を受けられるようにします。

・NF1に合併したADHDにはメチルフェニデートが有効であり、使用が推奨されますが、ADHDに精通した専門医による治療が望ましいです。

最新治療


・現在、NF1治療には以下のようなアプローチが取られています。

標的治療薬【MEK阻害剤】


・MEK阻害剤(例:セリメチニブ)はRAS/RAF/MEK経路を抑制し、腫瘍縮小効果を示しています。・FDAはこの薬剤を切除不可能な神経線維腫に対して承認しており、小児および成人患者で有効性が確認されています。

外科手術


・一部の神経線維腫は外科的切除が可能ですが、多くの場合、重要な神経組織への損傷リスクから手術は困難です。そのため、薬物療法や放射線療法との組み合わせが検討されています。

新規治療


・mTOR阻害剤やオンコリティックウイルス療法など、新しい治療法も研究されています。これらは悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST)や視神経膠腫などに対して有望です。


患者ケアと長期管理


NF1患者には、生涯にわたる多職種連携による管理が必要です。

小児期は半年〜1年に1回程度、成人は1年〜数年に1回程度の診察は必須です。

以下は重要なケアポイントです。


• 定期的な画像検査:MRIやCTスキャンで腫瘍進行を監視。
• 疼痛管理:薬物療法や理学療法による痛み軽減。
• 心理社会的支援:学習障害や精神的負担への対応。

特に小児患者では早期介入が重要であり、学習支援プログラムや家族教育も推奨されます。

まとめ


・神経線維腫症(NF1)は遺伝的背景から発症する複雑な疾患であり、多様な臨床像を示します。

・近年では分子標的薬を中心とした新しい治療法が開発されており、患者ケアにも大きな進展があります。本記事では専門家向けとして最新情報を網羅しましたので、臨床現場でぜひ活用してください。

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